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第25話:殺人姫と切り裂きジャック(5)

 前からおかしい奴だと思っていたが、これは極め付きだと思う。

 何がおかしいって今俺の目の前で微笑んでいる女がおかしい。

 だっていきなり、自分はテロリストの妹です、って言い始めたんだぜ? これがおかしくなくて一体何がおかしくないんだ。俺の頭か?

「どうしたの、そんなキモチワルイ顔して?」

「キモ……いや、お前がおかしいこと言い始めたから驚いたんだよ」

 あとキモチワルイとか言うな。

「いやだからって今の顔は……」

「気にしないでくれ」

「でも凄い顔だっ「もういいよ! そんなに何回も言わないでくれる!?」

 どんだけしつこいんだよ。相変わらず嫌なヤツだな。

 静歌はニヤニヤしながら、こちらを見てる。その笑みを見て俺は確信した。

 こいつ、Sだな。

「それで? どいうことなんだ?」

「何が?」

「いや、お前の姉の話だよ。今回の切り裂きジャックなんだろ?」

 話がそれたのを戻そうと俺が尋ねると、静歌はむかつく笑みをひっこめ、下を向いた。

 少し視線を落とした所為か、その長い前髪が妖しげに輝いていた紅い瞳を隠す。その姿と黒いフリルがふんだんにあるゴスロリが奇妙なくらいマッチして、B級ホラー映画に出てくる人形のような不気味さを湛え始める。

 沈黙が続く。

 またもや静歌が黙ってしまったので手持ち無沙汰になった。なんとなしに周りを見渡すが、あるのは普段使っている自分の味気ない部屋が広がっているだけだ。

 ちょっと自分の部屋の色彩の薄さに頭を痛めながら視線を静歌に戻すと、ギョッとした。

 紅く輝く瞳が、滑らかな金髪の奥から覗いていた。やがて、今まできつく結んであった口が開く。

「……今回の切り裂きジャックは私の姉。でも、私は姉のことをほとんど知らない」

「?」

 思わず首を傾げる。

 その俺の様子を見て、静歌は溜め息を吐いた。

「はぁ……貴方も知ってる通り、私は三年前に切り裂き(・・・・・・・・)ジャックとして(・・・・・・・)貴方達に捕まったわ」

「うん。俺と『あの人』……『御祈』で捕まえたから、よく、覚えてるよ」

「そうね、貴方達二人だったものね……それでその時、私のお母様に会ったのを覚えているかしら?」

 静歌に言われて記憶の中を探る。すると一人の女性が浮かび上がってきた。

「ああ、……あの人」

 記憶に残っていたのは、不思議な雰囲気のある壮年の女性。長い黒髪に現在の英国イギリスでは珍しいアジア系の整った顔立ち。大和撫子と呼ぶのがふさわしい気品に満ち溢れていた人。

 俺は記憶の片隅に残っていた名を呟いた。

「確か……凛歌りんかさん、だよな?」

「そう。あの女性ひとよ」

 母親をあの人呼ばわりですか。まぁ、俺も人のこと言えないが。

「で、凛歌さんが何か関係してるのか?」

「ええ。さっき私は故郷に行っていたと言ったわよね」

 相槌代わりに一つ頷く。

「その時に母に会いに行ったの。そうしたら私と姉のいろいろな話を語ってくれたわ。私の父親、姉の父親、母が何をしていたか、父親達がなにをしているか。うんざりするような話を沢山ね。

 でもその中にね、興味深い話が一つあったの」

 姉の話よ、と彼女は言った。続けて微かに声音を落とし、

「私には一歳年上の姉がいるらしいのよ。とはいっても血の繋がりは半分しかないらしいけど。どうやら父親が違うみたいね。まるで漫画みたいでしょ? でもそれだけじゃないわ。一番重要なのはその姉が朱雀ここにいること」

 ここで言葉を切り、俺の顔をうかがってくる。

 俺は続きを促す意味も込めて、それで? と尋ねた。

「姉は少し前……と言っても三年近く前だけど、その頃から英国イギリスから日本に移り住んでる。姉の父親と一緒にね。まぁ、母と姉の父は、なんというか、ねぇ? つまり、行きずりの恋というか、火遊びというか、そんな感じの関係だったらしくて……」

 と言葉を濁す静歌。

 なるほど。

「法律上では何の関係もない赤の他人ってことか」

「そういうことよ。それで姉と姉の父親だけでこちらに移り住んでから、姉は魔法の才能を見出された」

「で、朱雀に入学か」

「ええ」

 ということは、俺の朱雀の学校関係者が黒って推理は正しかったってことか。ふむ、俺の頭もまだまだ捨てたもんじゃないな。

 自分の推理が当たったことに内心ガッツポーズを決めていると、不意に一つの疑問が頭の奥から浮かび上がってきた。失礼な質問かもしれないと思ったが、考えてみると、俺と静歌はいまさらそんな気を使う間柄ではなかったので普通に質問をぶつける。

「お前はなんで姉と一緒に日本に行かなかったんだ? 知らないと言っても凛歌さんは知ってるはずだろ。なら凛歌さんに教えてもらったんじゃないか?」

「うん、父親代わりになってくれる人がいるっていう話なら聞いたわ。でも行く気にならなかったし、それに教えられてからすぐに戸籍上死亡扱いになったから、私」

「ああ、そっか。そういえばそうだな」

 こいつは俺たちに捕まったときに死亡扱いになったんだっけ。生きてるからよく忘れる。

 俺が、そういえば『参崎さんざき良夜りょうや』名義では俺も死んでるんだっけと思いだしていると、静歌が髪を払いながら器用に片目だけ瞑った。再び話し始める。

「私の話はわきに置いておいて姉に話を戻すわよ。

 朱雀に入学したといっても姉は普通に他の生徒と同じように生活していたらしいわ。でもその才能はその他の生徒たちとは違った。そこを」

「テロリストたちは目をつけた」

「そう。そこから先はよくわからないわ。甘い言葉で騙したのか、力で脅したのか。どちらにせよ、姉は手伝うことになった」

 ここで静歌がニヤリと嗤う。

「身内に犯罪者がいたら嫌でしょう? だから止めに来たのよ」

 お前も犯罪者だぞ、一応。

 でもこいつがここに来た理由がわかった。

 つまり、


「テロリスト潰しを手伝ってやるからうちに泊めろと?」

 

 静歌はひまわりのような笑みを浮かべた。


 

 

 


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