第19話:New friend?(1)
「へっへーん! 見ろ、俺の方が高い!」
「どうだか……なんだ、やっぱあたしの方が背ぇ高いじゃん」
「俺の横に立つな! 頭をなでるな! 背の話じゃねぇよ! 背の話じゃねぇよぉ!」
「泣くなってうっざいなぁ……てかなんで二回言ったのさ?」
「大事なことなので二回言いました!」
……これなんてコント?
そう思った俺は隣にいる女生徒――目の前でコントしている二人の幼馴染――の神田弥生に視線を向ける。
俺の困惑した視線に気づいたのか、神田さんはその柔和な顔立ちをこちらに向けた。と同時に彼女のおさげに結った黒髪がふわりと揺れる。
うむ、可憐である。
と俺がそんな風に思っているのを知らない(当然だけど)彼女は、目の前にいる幼馴染二人の様子に苦笑いしながら口を開く。
「二人はいつもこんな感じなんだよ。幼稚園の時かららしいからもう慣れるしかないと思う」
「へぇ、幼稚園から」
「うん。私は小等部から一緒なんだけどね」
だから、私はいつも外から止める役割なんだ、と彼女はふんわり微笑む。
その笑みがあまりにも似合いすぎてしばし見惚れてしまう。
俺がじっと見つめていたのが恥ずかしかったのか、やがて彼女は少し頬を染めて、「あ、あの二人ちょっと止めてくるね」と言って小走りで行ってしまった。
彼女の走って行った先を見ると、未だに先ほどの二人が言い争っている。
まぁ、一方がつっかかって、もう一方がからかっているって言った方が的確だけど。
その間に体をねじ込み無理やり言い争いをやめさせる神田さん。
それを受けてお互いに(しぶしぶながら)矛を収めるコントしていた二人。
実にうまく人間関係ができていると思う。
さて、では何故俺はそのうまく成り立っている人間関係の間にわざわざ侵入するような事態になっているか、それは少し時間を遡らなくちゃいけない。
そう、あれは……
16 New friend?
「はぁ……はぁ……」
俺は荒い息をつきながら、目の前にあるベンチに倒れこむように座る。
時刻は午前十一時。太陽がさんさんと降り注ぎ、地球上の生物を干物にしようとする時間だ。
そんな中、俺はぐったりとした感じで西校舎近くのベンチに身を預けていた。
「いい天気だ……」
ふと呟いてみる。
返事はない。少し寂しい。
さっきまで纏わりついていた人間を振り払ってここに来たのだから、当然と言えば当然なのだが。
「うっ!」
考えてたらぶり返してきた。知らず知らずのうちに背中に冷や汗が出る。
頭の中に浮かび上がってくるのは、多数の不気味な笑みと少数のギラギラした危ない視線。
前者は俺が闘技場を出てからすぐに現れた。
つまりはあいつら五人(俺の弟妹、秋奈、凪、弐村)のファンクラブ、親衛隊の奴ら。
なんか一緒に特性検査に来た俺が許せなかったらしい。先頭にいたツルツル坊主のおっさん(たぶん先輩)が教えてくれた。
でそっから鬼ごっこ。ずっと鬼ごっこ。ひたすら鬼ごっこ。
そんで東の技術棟の辺りで奴らを撒いて、逃げ切ったぁー、と思ったら今度は後者の人たち。
長谷部を筆頭とする朱雀に在籍する魔法学者連中。つまり技術講師の方々です。
こっちの理由は俺の携帯電話を調べたいとのこと。たぶん俺の魔術を新しい魔法と勘違いしたんでしょうな。
で、また鬼ごっこ。逃げてたらファンクラブ(プラス親衛隊)の奴らともはち合わせするというおまけ付き。
あとはずーっと走りっぱ。たまに隠れてやり過ごしたり。
んで現在にいたる。あー、しんど。
「……だりぃー」
ちょっと愚痴ってみるがやはり反応なし。さっきまであんなに騒がしかったから余計寂しく感じる。
なんとなくそわそわして辺りを見渡しても、特に何かあるわけでもない。
強いて言うなら少し向こうに大体育館が見えるくらいか。あとはそれなりに木々が植えてあるだけ。
なんもねぇな。
辺りを観察し何もないと分かると、不意に体がだるくなった。何故か手足が鉛のように重い。
「……はぁ」
たぶん疲れがたまったんだろう。最近気を張りっぱなしだったし。
このまま寝ても……怒られないだろ……。
そう考えた直後、俺の目蓋は重くなり意識はブラックアウトしていった。