第2話:理由
2 理由
「だから、朱雀エルフィード学院に行け、と言っておるじゃろう?」
「耳腐ってんのか、クソ爺! 理由を言えって言ってんだよ!」
俺と爺の口論は、あのあと三十分近く続いた。
どうやら、この爺は人の話を無視する傾向があるらしい。あ、いや、単純に耳が遠いだけかもしれないが。
「理由が必要かの?」
「あたりまえだろ!」
だって、あの朱雀だぞ? 魔法の扱いがうまかったり、滅茶苦茶金持ってる貴族のお坊ちゃまやお嬢様、挙句の果てには、世界各国から魔法の特待生やら、一国の王子や王女やらがいる、日本トップクラスの学校だぞ? そこに行けと? 何をしに?
「理由は……まぁ、依頼じゃ」
「……依頼?」
「うむ、それもWMOからのじゃ」
「WMOからだと…………?」
WMO、正式名称【World Magic Organization】、日本語だと世界魔法機関だっけか? その名の通り、世界で最も大きい魔法組織だ。魔法に関わっている人間の8割が、傘下に入っている巨大組織。
そんなところが……
「なんの依頼だ?」
普通の依頼ではないだろう。俺たちより強い『戦闘』組織はたくさんある。しかし、依頼がきたのは、俺たち。ならば……
「『いつもの』じゃ」
やっぱり、か。
「……どうして俺なんだ?」
俺はうんざりしながら聞く。正直、依頼を請けるのは嫌だ。だが、請けないわけには、いかないだろう。なにせ、WMOからの依頼だ、断れるわけがない。
なにより、他の奴らに『いつもの』仕事はさせたくない。
だから、これは悪あがき。いや、通過儀礼みたいなもの。
だから、爺の返答も、
「お主以外おらんじゃろう? 嫌なら楓やアレンに行かせるかの?」
いつもと同じだった。
「んじゃ、『アレ』持って行くぞ?」
「許可する」
あのあと、爺に学院の場所やらいろいろ聞き、とりあえず必要最低限の情報を得た。学院での特別行事とかいろいろ。ちなみに俺は、新一年生として、高等部に入学するらしい。さらに、補足すると俺は一五歳だ。
そして、
「で? 依頼の内容は?」
最も肝心なことを聞く。これを聞かなきゃピクニックに行くのと同じだ。てか、最初に話そうか……。
「うむ、実はの、学院にテロリストがいるらしいのじゃ」
「てろりすと?」
「そう、テロリストじゃ」
聞き間違えではないらしい。テロリストなんて物騒だな。にしても、テロリストねぇ……あの朱雀にか? 世界でもトップクラスの安全地帯だぞ?
「本気か?」
「本気じゃ。なんじゃ信じておらんのか?」
だってなぁ、
「あの朱雀だぞ? 教師はおろか、生徒の中にもAランクの魔法使いがいる、化け物の巣窟みたいなところだぞ? だいたい学院への最低入学条件が、魔力総量Cランク以上っていうのがおかしいだろ」
魔力とはオドのこと。本来はマナとオド、両方をさすのだが、オドしか測れないため、一般的にはオド=魔力である。
んで、魔力総量とは、文字通り魔力の総量。下からE、D、C、B、A、AA、AAA、Sランクがあり、一般の人は、だいたいDくらい。こう言ってしまうとおかしくないかもしれないが、Cランクの人間は約二〇〇人中わずか一人。つまり、全校生徒六〇〇人の学校だとすると、わずか三人しか入れないのである。そのCランクでも平凡で終わってしまうのだから、朱雀がどれだけすごいか分かるだろう。
そんなところに、
「テロリスト?」
「うむ」
えぇー? シンジラレナーイ。
「しかし、WMOからの依頼じゃ。デマではなかろう」
「まぁ、確かにな……」
そりゃそうだ、WMOがデマ依頼するわけないか……ん?
「おい、爺」
「なんじゃ、顔色悪いぞ?」
あたりまえだ。よく考えればわかる。
「さっき、俺、学院への最低入学条件なんて言った?」
「魔力総量Cランク以上じゃ」
「では、俺の魔力総量は?」
「Eランクじゃ」
「入れねーじゃん!」
俺は、爺に激しくツッコム。
しかし、
「改竄すればいいじゃろう」
爺は清々しい笑顔で流した。
ああ、不安でたまらない。それに、正直、爺を殴りたい。
その後、爺に学院の場所と時間を聞き、入学式が明後日と聞いて驚き、荷造りやらしていたら、あっという間に時間が過ぎて行った。
見送りに来てくれた楓が滅茶苦茶不機嫌だったが、すぐ帰る、と言うと少し機嫌が良くなった。まあ、そんな感じで時間が過ぎ去った。
そして、俺は、
「……デケぇ」
今、朱雀エルフィード学院に到着した。




