第16話:Magic characteristic inspection(1)
俺がまだ『俺』じゃなかった頃、ある殺人姫の少女が愉しげに俺に話したことがある。
曰く、「私は退屈で退屈で仕方なかったの」と。
また、「でも、退屈だから人を殺したわけじゃないわ」とも。
そして最後に、「あなたは、私と似ている。全てね。だから――
――あなたには、『切り裂きジャック』になる資格がある」
と。
15 Magic characteristic inspection
「あれ? もしかして、そこにいるのは夏目先輩ではないですか!?」
「うん?」
闘技場内に入るための廊下を歩いていると、俺の後方から不意に甲高い声があがった。
自然と止まる足。さらに一緒に歩いている五人も止まる。
申し訳ない。
そんなことを思いながらも、俺は声のあがった方――――つまり後ろを見る。
見えたのは、後ろを歩いていた美夜と新夜、そして長い白銀の髪。
水瀬愛歌。
俺たちの後輩で、朱雀の中等部に所属する少女だ。同時に特待生であり、PSI候補生という才媛でもある。
まぁ、つまり俺と真逆の人間だってことだ。
そんなワンダフル少女、愛歌は俺たちの方に小走りで向かってきながら口を開く。
「おはようございます! みなさん、どうしたんですか? ももももしかして、わたしと同じで特性検査を受けるんですか!?」
「はい。まぁ、受けるのは秋奈だけですけど」
何故か興奮気味に問いかける愛歌と、それに苦笑しながら答える美夜。
お互い敬語を使っているがそこに硬さはなく、仲のいい姉妹のようなやりとりだ。
なんか、和むね。
少女二人を見ながらほんわかしてると、前を歩いていた秋奈と凪、弐村が俺たちの方にやってきた。
愛歌に気付いた秋奈が声を上げる。
「あれ!? あいちゃんだぁ! どうしたの? もしかして、秋奈と同じで特性検査受けるの!?」
「はい! 秋奈先輩と一緒です!」
「ええ!? 本気で!? 『本気』と書いて『マジ』って読む感じで!?」
「マジです!」
「……なんて会話してんだよ」
騒ぐ秋奈と愛歌に、その二人に呆れる弐村。
うん、ほんとなんて会話してるんだよ。少し弐村に共感しちまったじゃねぇか。
俺がそんな思いを抱きながら騒ぐ二人を見ていると、こちらも呆れ顔の凪が二人を注意する。
「二人してなに騒いでるのよ。小学生じゃないんだから」
「えー、いいじゃ〜ん。せかっくの魔法調査なんだからさ〜」
「そうです! 凪先輩もそんな仏頂面じゃなくて、もっと笑顔笑顔ですよ!」
「え、笑顔?」
おお、珍しく凪が戸惑ってるよ。これは明日は雨だな。
そんな俺の思いが顔に出たのか、こちらを睨みつけてくる凪。
「……何よ」
「え!? い、いやなんでもないです」
「……」
すいませんでした! ほんとすいませんでした!
だからその親の敵でも見るような眼で見ないで!
「……ちっ、まぁいいわ」
結局三〇秒くらい睨まれ続け、ようやく目を反らしてもらえた。マジこええ。
ふぅ、と俺が安堵の吐息を洩らす中、空気を読んだのか新夜が、
「さ、さあ中に入ろうか」
と提案してきた。
……頼むからもう少し早く提案してくれ。感謝してるが。
そんな風に思ったが口には出さず、ひとつ溜め息をつくだけにとどめ、俺はみんなの後を追い闘技場の中に入った。