第11話:Start of secret talk and thing
10 Start of secret talk and thing
白を基本とした清潔感溢れる空間に、机を挟み椅子に座っている一組の男女がいる。
二十代半ばの青年と中高生くらいの少女。どうやら、何か話し合っているようだ。
少女は、その端整な顔を歪ませながら口を開く。
「認識誤差ですって?」
「そう、認識誤差。まあ、誤差と言ってもほんの少しだけだよ」
「……その少しで、何人死ぬと思ってるの?」
「やだな、何そんなに怒ってるのさ。たかが数十人だよ?」
「……」
「それに、妹さんを殺した君にとっては今さらでしょ?」
「っ!」
「だから君には関、係……な……」
流暢に喋っていた青年は、いきなり口を噤む。
不満げに少女を見ながら黙る青年。
そして、その青年を囲むように浮かぶ数十もの刃物。
一瞬で現れたその刃物の群れに、統一性はなかった。
ナイフや刀、その他に剣や斧などが主で、挙句の果てにはカッターや包丁など。
まるでバラバラで、統一性なんてあったものではない。
しかし、その群れにもひとつだけ共通しているところがあった。
攻撃しようとする意思。
本来、無機物である刃物に意思など存在しない。
が、それらには禍々しい殺意が確かにあった。
さっきまで顔を嫌悪で歪ませていた少女は、今度は一転、無表情で口を開く。
「――――殺すわよ?」
直後、空気が凍る。
少女の言葉にまるで全てが怯えてしまったかのように。
少女の、刃物の群れを超える殺意に恐怖するように。
全てが止まる。
青年も。刃物も。
空気さえも凍る殺意の中、やがて少女は口を開く。
「……今回は仕方ない。やるからには成功させることね」
そう言うと少女は立ち上がり、出口に向かい始める。
そして出口から出る直前、少女は青年の方に振り向く。
そこでようやく消える刃物の群れ。
そのことに安堵する青年に、少女はさっき以上の殺意をぶつける。
顔を真っ青にしながら硬直する青年に、少女は低い声で警告する。
「……次に『シズカ』のこと言ったら殺すわよ?」
【Off the subject character】side
俺の周りにいる生徒は興奮しているのか、騒がしい。ていうか鬱陶しい。
たかが実験くらいで……小学生か!
はい、今俺たちB組(+A組)は技術棟に来てまーす。なんと、これからプチビックバンの実験があるんですよー。楽しみぃー、きゃは。
…………鬱だ。
くそ、なんてテンション高いんだ!
周りのテンションに合わせようとして失敗した俺は、みんなを黙らせるために必死に声を上げる片桐先生を見た。
顔を真っ赤にして大きな声を出している片桐先生。
「お前らぁ、静かにしろ! いくら珍しいたって騒ぎすぎだ!」
同感だ。
しかし、そんな俺と片桐先生の思いを無視し、生徒たちは騒ぐ。
「聞いてんのか! しゃべるな、さわぐな、無視するなー!!
……ねぇ、あたしの話聞いてる!? 静かにしてよ! お願いだから無視しないでよー! ねぇねぇー!」
みんなに無視され続け、泣きそうになる先生。心なしか言動が幼児化してる。
さっきまでの強気はどうしたんですか!?
顔をクシャっと歪め、涙声で少しかわいそうだ。
でも先生、その顔、正直たまりません。
俺が生徒として間違った、しかし男としては当たり前の感情に悶々としていると、新夜が生徒の間を抜け、ゆっくりと前に進み出た。
そして片桐先生の隣に立つと一言。
「みんな、静かにしよう。これじゃあ、いつまでたっても見れないよ?」
瞬間。あたりの喧騒が消える。
……どんだけ、慕われてんの。
さっきまで騒いでいた生徒は、全員静かに新夜を注視していた。
目には様々な思いが浮かび上がっている。
畏怖。思慕。嫌悪。好意。
それらの思いがいろんな人から発せられている。
まぁ、ほとんどが好意的なものなんだけどな。中には……ね。
そんな視線の嵐の中、新夜は堂々とした風に言う。
「……よし。じゃあ、行こう」
そう言って、ゆっくりと歩く新夜。
それについてく俺たち。
それが当然のように、新夜が先陣を切り、俺たちが後に続く。
ていうかA組の先生も俺たちの中に混ぜってるよ。あんたは先頭に行け!
そして、取り残されたのは……、
「――あたしが先生なのにぃ、うう、ぐすっ」
隅っこでいじけていた片桐先生だけだった。