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第9話:日常(1)

 深夜、二人の少年と少女が向き合って座っている。

 どうやら談話室のようだ。

 少年たちは両方とも疲れており、今すぐにでも眠ってしまいそうだ。

 しばらく無言が続いたあと、少年がダルそうに口を開いた。

「……疲れた……」

「……そんなに疲れたんなら、さっさと自分の部屋で寝なさいよ」

「そうなんだけどさ……良夜がいない部屋見ると、余計テンションが下がるんだよね」

「……は?」

「なんていうかさ、僕の生活って基本良夜が中心だからさ、こう、寂しいんだよね〜」

「……」

「なんか心に穴があいた感じなんだよね。楓、この気持ちどうすればいいかな?」

「……」

「こうモヤモヤした感じなんだよ〜。会えなくてつらいよ……。

 ん? どうしたの楓?」

「あ……」

「あ?」

「あんた……」

「何?」

「あんたはどこの恋する乙女なのよぉぉぉぉぉぉおお!」

「うわあ!」

「何よ心に穴があいた感じってモヤモヤした感じって会えなくてつらいってテンション下がるって寂しいって」

「か、楓さん?」

「アレン!」

「はいぃ!」

「アンタ、良夜のことどう思ってるのよ!」

「えっ?」

「だ・か・らどう思ってるのよ?」

「好きだよ」

「……Pardon?」

「いい発音だね」

「そこじゃないわよ! もう一回訊くわ、アンタは良夜のことどう思ってるの?」

「だから好きだよ」

「……」

「良夜って優しいし、強いし、かっこいいじゃん」

「……アンタは男なのよ? そして良夜も!」

「そりゃそうだよ。楓ったら何言ってるの? おっかしい〜」

「……ブッツブス……」

「ご、ごめん。えーと僕は友達として好きなんだよ? それ以外意味はないよ」

「……嘘」

「うぇえ!? ほ、ほんとだよ!」

「じゃあなんで頬を赤らめてるのよ!」

「あ、赤らめてないよ!」

「……確かにアンタは見た目背低くて、顔も女の子っぽい童顔で、声も高いかもしれないけど、男なのよ!?」

「し、知ってるよ! だから別に良夜のことは…………」

「……ことは?」

「ことは……」

「……」

「うう」

「……早く言いなさいよ」

「う……」

「……」

「す、好きだよ!! 友人として! 親友として!」

「ア、アレン!?」

「ほんとにそれだけなんだよ! だからそんな目で僕を見ないでよぉぉぉぉおお!」

「あ! アレン待ちなさい! は、速! どんだけ全力なのよ! あ、ちょ置いてくなぁー!」

 少年(?)は少女を置いて談話室から走り去って行った。

 それを慌てて追いかける少女。

 ……夜は更けていく。




 9 日常


「つまり、ここにxを代入し、yを使うことで――」

 教師の声がクラスに響く。

 他の生徒は板書をノートに書き写す。

 そして俺は――

「……うう」

 くたばっていた。

 今は四限で、数学の時間。

 つまり俺、いや、全国の大半の生徒が苦手とする時間だ。

 それなのにこいつらは、カリカリカリカリ――

「どんだけ集中してんだよ……ペン動かすの速すぎだろ……」

 はぁ、と溜め息をつく。

 まったく授業についていけない。

 いや、本来ならついていくことはできたはずだ。

 それが……

「やっぱ、一週間も休んだからかな……」

 弐村との戦闘の所為せいで駄目になっちまった。

 元々、朱雀の勉強は、そこまで難しいわけではない。

 偏差値が特別高いわけでも、授業のペースが早いわけでもない。

 それなりに勉強すれば、成績をキープすることなんて簡単だ。

 が、それはあくまでも勉強すればの話。

 俺のように、入学式の次の日の戦闘で怪我をし、一週間も学校に来ないような生徒がついていくなんて、不可能に近いのだ。

「はぁ……」

 思わず溜め息をつく。

 俺は今とってもメランコリーだよ……。

 あ、メランコリーの意味分かる? 憂鬱って意味。え、知ってる? そう、なんかごめん。

 あーあ、昨日は変なヤツに絡まれるし、勢いでそいつの腕折っちゃうし、家に帰ったら麦茶ないし……

「……運悪いなぁ」

 誰かぁ、俺の心を癒してくれー。

 俺がそんな感じで、心の中で愚痴ぐちっていると、突然黒板に板書していた片桐先生が振り向いた。

 そして、こっちを見たまま動かなくなる。

 な、何だ? もしかして、声に出して愚痴ってた?

 俺が、やべーやべー! と焦っていると、やがて先生はゆっくりと口を開いた。

「……これで、授業を終わりにする」

 俺の焦りを返せ。




「良さん、一緒にご飯食べませんか?」

 四限が終わり、さあこれからお昼だよ、という時間に美夜はそう提案してきた。

「めし?」

「はい、ご飯ですよ」

 素晴らしい笑顔。

 こう、キラキラしてる。マイナスイオンでも出てるみたいだ。

 体に良さそうだなー、とか俺が思っていると、美夜は不安そうに見つめてきた。

「ダメ……ですか?」

「へ? ……いや、大丈夫だよ」

「本当ですか! ……良かった」

 心底安心した、とでもいうように安堵する美夜。

 うん、やっぱりキラキラしている。

 そんな感じで俺と美夜が話していると、秋奈と凪も会話に参加してきた。

「ねぇ! 秋奈も一緒に食べたい!」

「私も一緒がいいわ」

 そう言ってくる秋奈と凪。

 一方は楽しげに、もう一方は無表情で。

 俺は突然の参加表明に驚く。

 何? 一緒に食うの?

 俺の疑問に答えが出ないまま、当然のように話が進んでいく。

「じゃあ、どこにします?」

「う〜ん、どうしよっか」

「……食堂とかどうかしら?」

「食堂ですか……私はいいですよ」

「秋奈もいいよー」

「じゃあ、行きましょうか」

 そう言って三人は歩き出す。

 どうやら食堂で食べるらしい。

 まぁ、別に食堂でいいさ。

 ただ一つだけ言わせて。

 俺に意見訊こうよ……。

 

 

 

 

 


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