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愁龍雨詩  作者: チゲン
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 村に雨が降らなくなって、ふた月になる。

 田畑は乾き、作物も枯れ果てていた。

 十歳になる太心タイシンにも、それがいかに深刻なことか、よく判っていた。

 もう立派に働ける年頃だ。現に太心は足腰の強い少年で、すでに大人と同じ程の畑を、一日で耕したことがある。

 父は、体の丈夫な太心に、早くから野良仕事を仕込んでいた。太心は長男だし、下に三人の弟妹がいるせいもあったからだ。しかし一番下の弟は、去年の夏に悪い風邪で死んでしまった。

 この村は、村人が霊山と呼ぶ険しい山の麓にある。霊山の頂きには龍が住んでいて、地上に雨をさずけるのだと伝えられていた。

 日照ひでりが続くと、村人は来る日も来る日も雨乞あまごいの祈祷きとうをした。しかし、いっかな雨は訪れなかった。

 いよいよ、あれをやるしかない。

 村人の間から、そういう呟きが漏れるようになった。

「あれ、とは何じゃ」

 太心は幼なじみの方菊ホウギクに問いただした。太心と同じ年に生まれた少年で、太心と違って病弱ながら利発な顔立ちをしていた。

「あれ、と言ったら雨乞いに決まっている」

 方菊は事もなげにった。

「雨乞いなど、毎日のようにやっておるではないか」

「ただの雨乞いではないよ。龍に供物くもつを差しだすのだ」

「差しだそうにも、肝心の作物が無いであろう。無いから皆が困っておるのだ」

 それを聞いて方菊は、「ちがいない」と笑った。澄ましていると太心よりずっと大人びて見えるが、笑うと子供の顔になる。

「太心。人と話すときは、もっと言葉に衣を着せた方が良い」

「俺は思ったことを云っておるだけじゃ」

 すると方菊は、また黄色い歯をこぼして笑った。しばらく伏せっていたせいで、息が少し臭かった。

「また龍泉りゅうせんを飲んだ方が良い。俺がんできてやろう」

 龍泉とは、霊山の山中にある霊験れいげんあらたかな湧き水のことである。しかしそこに至る道が険しい。また、勝手に霊山に足を踏み入れることも禁じられている。

「太心。これからは、霊山に近付かない方が良い」

 方菊は神妙しんみょうな顔をして云った。

 村の長老に知れたら、いくら子供の太心でも、ただでは済まない。

 しかし太心は、すでに霊山に入る算段を考えているようだった。龍泉までは大人でも厳しい道程だが、何度も通っている太心には造作ぞうさもないことなのだ。

 方菊は、太心が友のためなら平気で禁を破ることが判っていたのだろう。忠告しながらも、嬉しいような悲しいような、複雑な息を吐いた。

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