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主人公の能力の詳細です。
あんまりわかんなくても大丈夫です。
今後分かってきますので。
【渡時士】:時を渡る者。時の孤独に耐え得る者、その力をもって世界を変える。時の孤独に耐えざる者、その力牙を剥き、狭間を彷徨い、喪失す。
ふむ……よく分らん。
“時を渡る者”ってまんまじゃねぇか。
その先に書かれている記述も抽象的で何を言っているのかさっぱり。
……これ、日本語だよね?
誰か本当にポケトーク持ってないかね。
そうして頭を悩ませ視線を下ろした際、まだほかに項目があることに気づいた。
【渡時士】
[スキル:Ⅰ“過去跳躍”Ⅱ“未来跳躍”]
ほうほう。
厨二心くすぐる良さ気なスキルがあるじゃありませんか。
俺は若干芽生えた好奇心に従って、それぞれのスキルをタッチした。
“過去跳躍”:『意識の不可逆的喪失』・『一定の経験値の献上』を条件に発動。所有経験値全てを消尽し、それに比例した過去へと跳躍する。
→最長跳躍距離上限値:6時間(未開放) (必要経験値……充足)
最短跳躍距離下限値:1時間(未開放) (必要経験値……充足)
“未来跳躍”:『意識の可逆的喪失』・『1/3の確定経験値の献上』を条件に発動。消費経験値を[①意識喪失時間②渡航先への滞在時間③到達未来の実現可能性]の三項に振り分け、その未来へと跳躍する。渡航距離は到達未来の実現可能性に反比例する。
→渡航先滞在上限時値:1時間(未開放)
→到達未来の実現可能性下限値:70%(未開放)
やっべぇ、文字だらけで全然わかんねぇ。
何とか気合を入れ、さっと眼を通すだけにする。
次に、一つ戻り、おそらく関連するであろう項目に指先を触れた。
“TP”:Time Point または タイム・ポイント。【渡時士】のジョブを得た場合、ステータスに追加される。プレイヤーレベルの上昇につき1ポイント得る。ポイントを消費することで、スキルの上限値・下限値を解放していくことが出来る。
ふむ。
とりあえずTPは6あるらしい。
おそらくこの“(未開放)”となっている4つに使うのだろう。
一先ず4つ全てに1つずつ使い、後は“最長跳躍距離上限値”と“渡航先滞在上限時間”に割り振っておく。
一つ一つタッチするごとに<“TP”を用いて“最長跳躍距離上限値”を解放します。 宜しいですか?>とのアナウンスが頭の中に響く。
やっぱりこれで正しいのか。
俺は迷わずYesと答える。
そうするとピロンッと高い音が鳴り、上昇・解放を告げる。
それを6回繰り返していった。
……………………ふぅ。
“過去跳躍”:『意識の不可逆的喪失』・『一定の経験値の献上』を条件に発動。所有経験値全てを消尽し、それに比例した過去へと跳躍する。
→最長跳躍距離上限値:7時間(2 TP使用) ↑上限値1時間解放(new!!) (必要経験値……充足)
最短跳躍距離下限値:58分(1 TP使用) ↓下限値2分解放(new!!) (必要経験値……充足)
“未来跳躍”:『意識の可逆的喪失』・『1/3の確定経験値の献上』を条件に発動。消費経験値を[①意識喪失時間②渡航先への滞在時間③到達未来の実現可能性]の三項に振り分け、その未来へと跳躍する。渡航距離は到達未来の実現可能性に反比例する。
→渡航先滞在上限値:1時間20分(2 TP使用) ↑上限値20分解放(new!!)
→到達未来の実現可能性下限値:67%(1 TP使用) ↓下限値3%解放(new!!)
上から、1ポイント使うごとに30分、2分、10分、3%をそれぞれ解放して行くらしい。
今後、どういう影響が出るかを見極めて行ってから、割り振りを考えて行こう。
そして俺は他の細かい考察は置いておく。
前に立っている演説の内容が佳境に差し掛かって来たからだ。
ただ一つ――いや、二つか。
二つだけ、これだけは確かになったことがある。
俺はやはり一度……死んでいる。
そして未来へと渡った。
この二つは事実なのだ。
“自分の死”ということが事実なのだと実感として感じられ、急に頭と肝がスーッと冷えて行く。
今までヤバそうな奴ら相手に立ち向かったり、未来でオーガと戦う勇実達の元に駆けつけたり……。
あの時はやはり何か自分の生死がどこか無関係なことに思えていたからできたのだろうか。
いや、そもそも全く頭の中になかったのかもしれない。
人間、自分がまさか死ぬなんて、という思いがどこかにある。
俺も、もしかしたら死は他人事、だったのかもしれない。
いや、そういういい方はよそう。
ここは断定して置く。
他人事だったんだ。
これからはそれを正に自分のこととして考えて行く必要がある。
まあ今はそれでいい。
そこからまた新たに導き出されることもある。
今も目の前で行われている、男子生徒の演説内容は十中八九、本当だと言っていい。
自分の記憶を探る。
そこには、加瀬という大学生が、オッサン二人と“契約”なる行為をして、そしてゴブリンと渡り合っていた光景が映し出される。
おそらく、出現したモンスターは、普通じゃ俺たちの攻撃は通用しない。
だが、特定の人物とその“契約”たる行為を行うことによって、あの不思議な透明の膜を破ることが可能となる。
俺は、はっきり覚えてはいないが、【渡時士】というジョブが、それを可能としているのだろう。
そして、檀上にて自分の価値を訴えている男子生徒は、加瀬という大学生と同じ立場にいる。
“契約”を行える、特定の人物。
「――僕は、皆さん全員に【戦士】のジョブを与えることが出来る、“オーナー”なんです!!」
そのセリフが、また、俺の記憶の底に沈んでいた欠片が浮上してくる切っ掛けになった。
『あの人、“オーナー”だったのね……』
『ん? オーナー?』
少女と二人して隠れ、男4人組の行動を見ていた時。
あの加瀬という男を見て、少女はそのように告げていた。
やはり、記憶と符合する部分が多々ある。
「とまあ、色々と説明してきましたが、まだ信じられない人も少なくないでしょう――ですから、実際にその眼で見て、それから決めてください」
興梠は、そういって、一度体育館内全体を見回すようにして間を置いた。
何か品定めするように「えっと……」と視線をあっちこっちに移して、ふと、それを一点で留める。
「――俺に、何か出来ることでも、あるのかな?」
見つめられた水谷は、向けられた視線の意図を察して、自ら問いかけた。
「今から、僕と、“契約”のデモンストレーションをして欲しいんだが――良いかな?」
水谷は他の人を気遣うように、体育館内を見やって、そして視線を戻し、頷く。
「……まだ、どうなるか分からないものに、他の人を参加させる訳には行かないか――よし、俺がやろう」
……話の中身については、多分、嘘はないのだろう。
俺は自分の【ステータス】が出現するなどして、今話されたことが事実だと納得できる。
だが、どこか、何とは言えないが、違和感を感じる。
未だ話の内容を俄かに信じ難く思っている皆のため、自ら進んで実験役を買って出る――その心意気は良い。
でも、なぁ……。
何だろう、俺が疑いすぎなのだろうか。
「――じゃあ、行くよ?」
「――ああ」
二人は何かの誓いを立てるかのように、固く互いの手を握り合う。
皆が檀上にてこれから行われることに固唾を飲んで見守っている。
そんな状況に一人だけ猜疑心を持つのは疲れる。
彼の話が本当なら、あの加瀬とオッサンが行った儀式のように、何か光が現れて、水谷が【戦士】のジョブを得ることになる。
突如発生する幻想的な雰囲気を察して、みんなが直感的に「ああ、今起こっていることは事実なんだ」と納得するだろう。
俺は独り、檀上から視線を外し、一歩、後ろに下がった。
――そこで、不意に、井沢の姿が目に入った。
皆が檀上へと視線を上げている。
そんな中、何故か、彼女は胸の前で両手を握りしめ、肩へと届く髪を顔の前へと垂らし、俯いていた。
何が起こるか分からない者は、皆、二人が行うことから、一瞬たりとも目を逸らさないようにするのに。
あたかも、目の前で行われることが、既視のものであるかのように。
檀上のことではなく、何か他のことへと関心を向けている俺みたいに。
……井沢、まさか、お前――




