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未来で遭遇



 

「…………何とも出会わんな」



 それから俺は、ジョギング位のペースで走って学校から離れているのだが……。


 ――人とも、モンスターとも遭遇しない。


 恐らく、俺が先程見たようにモンスターはいたのだろう。

 ただ、同じくあの咆哮によって離れて行った。

 

 そのモンスター達がつけた傷跡のようなものが行く先々に見て取れる。


 

 道々は学校の様に荒れ果て、さながら暴風が猛威を振るい去った後のようだった。

 瓦礫がそこかしこに散乱し、車道は大きな亀裂が幾つも入り、木々も多くは倒れていた。


 近くのコンビニやスーパーは難を逃れたのか、外観上は被害を被っているようには見えなかった。

 しかし……。



「……中は酷い、な」



 入口から覗くだけにとどめたが、品物は強盗団でも入ったのかと思わせるほどに散乱していた。

 レジ前のケースにあるおにぎりを初めとした弁当類などは、逆に初めから置いてなかったと言われても不思議じゃないくらいに空っぽだった。

 

 それだけを見て、とにかく先を急ぐ。

 足は落ちている物を器用に避けながらも、頭はずっと懸念事項について考え続けていた。


 ……こりゃ、冗談じゃなく、本当に人類駆逐されてても不思議じゃないぞ。

 

 ――6日、だよな。


 恐らく、モンスター達が出現して、俺があの各務とか言う男たちに殺された日。

 それから俺が今、未来と思われる場所に至るまでの期間。


 あいつも確か言っていた。

 

『いい機会だな――これは踏絵だ。今後モンスターのうじゃうじゃいる世界で生きていくことになんだぞ?』


『――人一人殺せないような奴、俺ぁ、いらない』


 ……そうだ、やはりあいつもそれらしいことを言っていた。

   

 そうすると、これらの仮定が全て、事実なら、人類はたった6日という期間で、壊滅的な被害を与えられてしまうことに。






 …………マジでシャレになんねぇな。


 

 そうこうしていると、運動公園が見えて来て、俺は中に入る。


 空気はピリピリと震え、どんどんと中心地に近づいていることが実感できる。

 しかし一方で、爆発音などは先ほどから聞えないようになっていた。



<未来へ渡航後 25分 が経過しました。――残り滞在時間 5分 です>

 


 

 ……一人でもいい、誰か、人と出会えないか。

 切にそう願いながらも、俺は暗闇の中に足を投じるような思いで、再び止めた足を進めた。



◇■◇■◇■



 なん、だよ、これ。


 蟻の群れを思わせるゴブリンが輪を作り、卑しい目で戦いを見ていたが、そんなもの、目に付かない程だった。


 

「グギィャァァァァァ!!」


 

 いや、これはそもそも『戦い』と呼べるのだろうか。 

 


 振るわれるどす黒い猛腕。

 まるで隕石でも振って来たのかと錯覚させる程の衝撃を周囲に与える。


「くっ!! “エナジーバリアー”!!」 

  

 それに抗する少女は、木製の杖をかざして光の壁を出現させる。

 そうして腕のそれ以上の進行を遮ろうとした。


 しかし――


「っぅ、うぁ!!」


 ミシッ、とヒビが入る音が。

 バリアと接する巨大な拳は、中心に入った亀裂を増殖させるかのように前進することを止めない。

 そして、耐久度は直ぐに限界を迎えた。     


「きゃぁぁ!!」


 身を守る盾は、呆気ない程簡単に砕け、少女は後方へと吹き飛ぶ。

  

「ギィ!! ャァアアアア!!」


 対する巨腕の主は、紙を吹き飛ばしただけだとでも言うように圧倒的な余裕を持って雄たけびを上げる。

 ……それは同時に、奴へと抗する者全てに絶望を与えることを意味した。

 



 

 ――(オーガ)




 周りを取り囲むが手出しをしない小鬼(ゴブリン)の大群などいないに等しいとさえ思える、圧倒的巨躯・圧倒的存在感。

 そしてその存在だけで生へと伸ばす手を踏みつけ、絶望の芽を植え付ける。

 

 大樹の幹ほどもあろうかとさえ思われる腕周り。

 どのような攻撃も受け付けぬ硬さ、鋼鉄を連想させる胴や胸筋。 

 見た者を恐怖させるおぞましい形相、正に鬼。


 空から注がれる薄ピンクの光が、そのドス黒い体色と相まって、その巨体はどこか高貴ささえ幻視してしまいそうになる雰囲気を帯びていた。

 

 

「――負け……ない!!」



 手に力を入れてボロボロに荒らされた芝を握り、立ち上がった少女――聖川未由のその不屈さは、立派だ。

 こんな時でなければ素直に感心したことだろう。



 ――だが、今この時だけは、それは全くの無意味なものにさえ思えた。




 彼女の後に庇われるようにしている3人――勇実由衣、同年代くらいの少女、そして場違いなくらいの老人は目も覆いたくなる程に傷だらけで、意識を失い、地に伏していた。

 勇実なんかは、腕が本来曲らない方向へと曲ってしまっている。

 他二人も似たり寄ったりで、全員が満身創痍。



 


 

 俺以外に、人はいた、いたんだ。


 だが、それでも、たったの4人。  


 

 そしてこの状況を見るに、彼女ら4人は一つのパーティーとして組んで、このオーガを討伐に来たんだろう。

 

 平和であった日本では見る機会のない立派な剣、大きな西洋風の籠手を装備した勇実。

 ローブを纏い、身軽な衣装をした盗賊風の少女。

 そして軍服に身を包み、日本刀一本だけの老人。



 一つの方向性を持ち、つまりファンタジー風な装いをし、ボス――オーガを倒そうとここまで来た。


 

「ギィィァアアアア!!」


 それが、今後生き残る道だと決めて、もしくは戦わなければならない状況に追いやられたか。

 だが、先へと続くための扉はあまりに重厚で、ピクリともしない。


 立ちふさがったオーガという壁は、虫けらでも振り払うかの如く、その腕を振るう。

 ただ、振るうだけなのだ。  


 しかし、それが死をもたらす一撫でとなってしまう。

 次の一撃は――倒れ伏して、抵抗できない勇実へと向いた。

  

 

「くっ、させ、ない!!」


 

 それも聖川は、何とか防ぐべく光の壁を展開する。

 そしてそれだけでなく、自分自身も勇実を守る盾だと言わんばかりに、オーガと勇実の直線間に割込むようにして体を入れた。

 今までの焼き直しのように、呆気なくバリアーは砕かれる。


「ッ!! ――由衣!!」



 しかし、聖川自身、それを予期していたのだろう。

 すぐさま倒れた勇実の体を抱えて衝撃に身を任せるように後に跳ね、威力を殺した。



「っあああ!!」


 

 だが、完全に殺し切ることはできなかった。

 聖川が体を張って守った勇実は彼女の手から離れたものの、数回転がるだけで済んだ。

 

 一方の聖川は、もろに衝撃をその身に浴び、バネのように吹き飛んで、確実に勇実以上にダメージを受けていた。

 

 「うっ……くっ」 


 ――それでも、聖川は、膝に手をつき、足を震えさせながらも、何とか立とうと試みていた。


 俺は殆ど距離はないものの小高い丘となっている部分から伏せて見ていて、驚きを隠せない。

 どうして、どうしてそこまでになっても……。 



<未来へ渡航後 28分 が経過しました。――残り滞在時間 2分 です> 


 

 刻限の到来が迫っていた。

 これが未来の出来事なのであれば、目の前の彼女達は可能性にすぎない、はずだ。

 こうなる可能性。

 絶対確実じゃない。


 ――だから必要以上に動揺し、怖れ、感傷的になることはない。たとえそれがクラスメイトとその親友でも。

 ――どうせ相手は結局のところ赤の他人だ。

 

 ――そうだ、このまま見捨てろ。そうすれば2分後、全て……無かったことになるんだから。


 心は真っ黒なアメーバが触手を伸ばすようにして白い部分を侵食して行く。

 

 

 どんどん頭の中に、先のアナウンスとは別の、何か怯えたような、卑しい、屈折した声が囁かれる。

 その声の主は、機械的なアナウンスとは異なり、感情を持ち、姿形も人のものをとっていた。



 ――そして顔は、俺そのものであり、だが、どこかが俺ではなかった。

 

「――絶対、由衣は!! 二人は!! 死なせたり、しないんだから!!」



『俺は……間違ってない!!』


 

 聖川のセリフに被るようにして、脳内の古い記憶がフラッシュバックした。

 決壊しそうな涙の防波堤を必死に喰い止め、拳を握りしめる少年。

 不確かだが、少年を支えようとする決意のような信念のような何かが軋む。

 それを何とかかんとか踏ん張り、不格好ながらも、歪かもしれないながらも、未来の自分にバトンを繋いだ――そんな記憶。


 少年はその後、その想いのような風船を膨らませることは出来ないでいた。

 でも、知りもしない誰かに穴を開けられるることだけは体を張って必死に阻止し、守って来た。


 ――ッ!!

 思わずハッとした。


 

 満身創痍ながらも立ちあがり、オーガを睨みつけるようにして聖川はそう告げていた。

 

   

 クソっ、何が全部無かったことになるだ。

 いつもいつも大事な時に臆病風が吹くようにして、記憶は甘い言葉を囁いてきやがる!!

 鬱陶しいことこの上ない。

 

「ギィィィ……ギィ、アァァァ!!」



 未だオーガはダメージなど感じさせない様子で、聖川が庇った後、最も近くに落ちている勇実に視線を向ける。

 そう、聖川の不屈の闘志は、親友や仲間を絶対見捨てないとする心は大したものだ。

 だが現実にそれでオーガの猛攻から守り抜けるかとはまた別の話になる。



 俺は一も二もなく立ちあがって走り出した。

 傾斜が決して小さくないこともあり、足を二、三度とられるも迷わず芝生を駆ける。



 そしてオーガや聖川達を、土俵を作るようにして囲っていたゴブリンの群れに突っ込んだ。

ブックマークや評価はしていただけると作者の励みになるだけでなく、作品をより多くの方に読んでいただける推進力にもなります。どうぞご一考を。

勿論「何もしない」という状態が読者の方のスタート地点なので、どちらもしないとしても全く問題ありません。

徐々に読んでいただけている方が増えてきているので、それに作者にできる更なる後押しを、という作者の単なるわがままです、気楽に楽しんでいただければ。



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