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青春のスタートライン

 あの決闘が終わってから学園では少しの騒ぎと共に生徒会は大忙しになった。なんて言ったって、学園が御門晴哉のこれまでの悪事に対してついに動いたからだ。それにより、御門晴哉は学園を退学。大企業の社長であるその父親は、世間に明るみになる前に学園にて謝罪をしたそうだ。

 乱入者として現れた河原投打は、大量の反省文と無期限の謹慎処分。だが、居場所を失った彼がこの学園を立ち去るのは時間の問題といったところだ。


 まあ、私の仕事を無理矢理、鮫島(さめしま)雅也(まさや)にバレないように押し付けているのでのんびりと出来ている。今頃彼は、朝早くから生徒会室で悲鳴を上げながら他の生徒会メンバーと仕事に勤しんでいるに違いない。間違いないですね!


 かくいう私は学園の裏庭にあるベンチで、ある男子生徒を待っていた。朝早くからの呼び出しなので、彼はとても不服そうな表情を昨日の病室でしていたのを私は忘れない。来なければ、生徒会特権で痛い目にあうと脅しているので間違いなくやって来るはず。生徒会にそこまでの力はないんですけどね!


「よう。朝早くから怪我人を呼び出してなんですか?生徒会特権で俺を脅してくる西宮美乃梨さんよぉ?」

 そして、約束の時間の五分前に彼はやって来た。


 伝えたいこと、聞きたいこと、お礼をしたい。私は額に包帯をしている彼が嫌がるように笑みを浮かべて言った。

「来てくれないかと思いましたよー」


   ●     ●     ●     ●     ●     ●


 まさか退院した次の日の朝早くから蝶の髪飾りを付けた少女に呼び出されるとは思っていなかった。

 放課後の決闘の後、俺は意識を失いそのまま病院に連れて行かれたそう。そして、金属バットで殴られた額は割れていたが、すぐに治療できて大事には至らなかった。意識を取り戻した時には特に俺としてはこのまま帰っても問題なかったのだが、脳震盪の恐れがあるとされて検査を受ける羽目になり、昨日退院というわけになる。

「というわけで西宮さんや、治療費とかその他諸々の費用は学園が負担してくれるということで良かったのかね?」


「はい。今回の件に関しては全額学園が負担しますので京橋君は特に不安になったりする心配は無用ですね」


「よっしゃぁ!!これで、一日一食もやしと焼き肉のタレ生活は免れる!!」


「なんですかその生活。生きてて楽しいですか?」


「俺からしたら治療費とか生命の危機に関わるぐらいの大問題なんだよ」


「治療を受けても受けなくても生命の危機なんですね」

 呆れたように息を吐き出す西宮。だが、どこか安堵したような様子も見せる。

「ま、とにかく元気そうで何よりですよ。ところでなんですけど、聞きたいことがあるのですが」


「答えられることならな」


「ええ、嫌なら答えなくても大丈夫です。私はあの決闘を上から見ていたのですが、何故あなたはあそこまで御門晴哉を圧倒する事が出来たのですか?格闘技などを習っていたという情報は一切無いのに」


「えぇー、俺の過去の習い事まで君ら生徒会は把握できるの?」


「そりゃあ、生徒会ですから」


「生徒会、力ありすぎだろ。三権分立とかしたらどうなの?三権分立わかる?」

 などと適当にぼやきながらも俺は懐かしい思い出の本を開けるように続けた。 

「小学校の時だ。いつも遊んでいるグループの中の一人の友達が、当時クラスの中で群を抜いてガタイが良くて数人の手下がいるイジメっ子グループに目をつけられたんだ。それからというもの、毎日のように地味なイジメをそいつは受けた。それで、俺たちのグループはそれを良くは思わなくて、イジメっ子グループと大喧嘩。何度も何度も何度もやったけど、一回も勝てなくて全敗。そんな事を親父に知られてから、毎晩俺を強い男にするぞ計画が実施されたわけ」


「なんですかその計画」


「親父に教え込まれた戦い方だよ。当時は自分よりもガタイの良いやつの相手をしなくちゃいけなかったから、相手の力を利用するカウンターの仕方を徹底的に親父にしごかれた。それでもなかなか勝てなかったから何年もしごかれ続けたのは、今となったらいい思い出だよ。放課後の決闘の時に大分役に立ったからな、親父に感謝。あとは、運動神経とか良く産んでくれて両親に感謝ってとこだな」

 あの日々を懐かしく思う。泣かされた時も何度もあったな。結局、俺たちは一度もそいつに勝てずじまいで、先生が間に入って仲直りで終わったんだっけ。

 

 俺は額の頬帯に手を当てて撫でる。

 詰めが甘いのは相変わらずだな。


   ●     ●     ●     ●     ●     ●


 西宮と別れてやっと教室に向かった俺は、今までと違ったクラス内の変化に驚く。

 今までランページプリンセスと言って花園ミーナから距離を取っていたクラスメートたちが女子を中心に彼女と話していたからだ。


「おっすー、龍太。病院生活は楽しかったかー?」


 軽快な挨拶をしてくる逢沢に思わず失笑してしまう。

「楽しいわけないだろ?ナース服を着たお姉さんは俺の病室にやって来ないんだから」


「ありゃそりゃ残念だな。ま、その包帯は男の勲章ってやつだな」


「お前なー」

 そんな会話をしながら俺は自分の席に座る。逢沢は俺と喋りたいのか横の席に座った。

「いつからあんな調子なんだ?」


「何がだ?」


「だからー、いつからクラスメートが花園と話すようになったんだってこと」


「それは放課後の決闘の次の日からだな。龍太の頼みに皆が乗ったわけさ。それで、花園さんと話してるうちに全然怖くない、むしろ可愛いいなんてなったわけで、今じゃクラスの女子たちのお気に入り。もう花園さんに惚れたって公言してる男子もいるぐらい」

 

「俺のいない間に飛躍しすぎだろ」


「まあな。きっかけさえあれば良かったんだよ。その大事なきっかけを作ったのは龍太、お前だからな。お前がいきなりクラスのラインとかで花園さんは悪い子じゃないって力説した文章をいきなり送りつけてきた時には焦ったけどさ、皆それに動かされたんだろうぜ。そして極めつけは放課後の決闘の時らしいし。俺もカッコいい龍太の姿見たかったなー」


「うるせーよ」

 俺はそう言って彼女に目を向ける。彼女はクラスメートと話しながら、まだどこか恥ずかしそうに、だけど時に楽しそうに笑う姿を見て俺も釣られて頬が緩んでしまう。

 やっと、スタートラインに立てたな。

 あんなに女子からも男子からも人気者になれたのなら、俺はもうお役御免だろう。多分、俺から話しかける事は少なくなると思う。理由なんか簡単だ。もう彼女の周りには沢山の笑みで溢れているから。


 そう思っていた時もありました。


「龍太ぁ、これから青春委員しに青春室に行くんでしょぉ?」

 放課後開始のチャイムが鳴ると一目散に彼女が鞄を持って俺の席までやって来ていました。


「そりゃ青春委員だからな。行かなきゃ怒られるし」


「そう。なら、私も行くわぁ!」


「はっ?なんで?クラスの女子とかとカラオケ行くんじゃなかったの?」

 昼休みにそういう話をしているところを俺は聞いていましたよ。


「そうだけどぉ。断ったわぁ」


「えぇー、なんで。お前からしたら友達いっぱい作れるイベントでしょ?」

 俺は思わず額に手をやりため息を吐いていると。


「ミーナちゃん、また明日ねー!そして、頑張れいッ!!」

 今日見てる限りじゃ、一番親しげにしていた女子のグループがそう言う。


 えぇ、なんで帰るの。君たちこれからカラオケ行くんでしょ?この子も無理矢理連れて行くところでしょ?


 かくいう花園はギュッと両腕に力を込めて。

「頑張るッ!!」


 何その返事。何を頑張るんですか?ちょっと詳しく教えてくれません?


 そして、数人の男子の視線が俺に痛々しいほど突き刺さる。

 えぇ、なにこれ……。


 逢沢は笑いながら俺の肩を叩き。

「まあ、頑張れよ龍太。それじゃーな、お二人さん」 

 そう言って教室を飛び出し部活へと走っていく。


 俺は今日何度目か分からないため息を吐き出す。とりあえずここから脱出しよう。

「行くか、青春室」


 そしてやって来ました青春室。俺は定位置の場所に座り、横にいる白石が用意した紅茶、そしてその白石の横にいる春風が用意した茶菓子に舌鼓を打ちながら向かいのソファーに座る二人に目を向ける。


 西宮美乃梨と花園ミーナだ。二人は楽しそうに談笑している。そして、見ていて意外な部分だなと思うのは、花園と話している時の西宮がどこか嬉しそうに見えたところだ。


 俺は紅茶を味わい、柑橘系の甘い香りが鼻を抜ける。あー、平和だ。この感覚、久しく味わってなかったな。そう思うと安心からか眠たくもなってくる。


 あくびをなんとか堪えていると談笑は終わっており、少し真面目な顔をした花園がいた。

「この度はぁ、私のために多大なる協力と損失、ありがとうございます」 


「か、顔を上げてよミーナちゃん。私たちは青春委員としてミーナちゃんの青春を守る選択をしただけだから。それに、お礼なら、」


「ええ、そうね。今回の件は京橋君に一任していたから、お礼なら彼だけで十分だわ。だから、あなたがわざわざ頭を下げてお礼をして、そこまで気にする必要はないのよ花園さん」


 安定の春風と白石のムーブ。これこそ、この青春委員に帰ってきたという感じもする。

 それに。

「俺はもう何回もお礼をされた。病院でもされたしな。今のところ毎日されてるな。これじゃきりがなくなる。だから、まあ、俺から言えることなんか全然ないけど」

 

「そうね、京橋君はボキャブラリーを増やすべきだわ」


「うっ、うるせー!」


「いやー、なんかこんな会話を久しぶりに聞くと安心しちゃうな」


「安心する前に白石を止めてくれ!……っと、ちょっと脱線したけどさ、俺から言えることなんか、良かったと思える青春を送ってくれ。こんなことしか言えないんだよ」


 花園は流れそうになる涙を堪えながら震える声で言った。

「はい。…わ、分かった、わぁ」


 そんな彼女の様子を見て俺たちは力が抜けて微笑む。こうしてこの大きな依頼が終わったのだと実感した。色々と紆余曲折があって彼女を守る選択をしたけど、俺はそれで良かったと思えた。


 目の端に浮かんだ涙をハンカチで彼女は拭き終えると一つの提案をした、それは。

「決めたわぁ!私、花園ミーナは青春委員になるわぁ」


「は、はぁ!?」

 俺は思わず声を上げる。

「いやいやいやいや、花園さん?青春委員になったらまともな青春送れないんですよ?それを承知で?それとも泣きすぎて頭やられたのか?」


「下僕生活が終わった途端、馬鹿にする口が達者になったみたいねぇ。そもそも私は何が青春なんだか知らないから、私が青春だと思えば問題なくなるじゃなぁい?私からすれば今この瞬間も青春よぉ」


「んな滅茶苦茶な」


 白石は額に手をやりため息を吐いている。春風は花園の勢いに押されながら空笑いをしている。  


 まあ、人数が増えて戦力増強と捉えれば問題ないのか?そう思っていた矢先だった。

「却下ですねー」

 花園の横にいる西宮が笑顔で言ったのだ。そして彼女は喉を潤すように紅茶に口をつける。


「えぇー、なんでなのかしらぁ?理由を教えてもらえるぅ?」


 西宮は落ち着いたように紅茶の入ったカップを机の上に置いて、俺を一瞥しから言ったのだ。

「だって、ミーナさん。あなたの中で今している青春のために青春委員に入ろうとしているじゃないですか。それは青春委員が禁止されていることなんですから」 


 随分とまわりくどい言い回しをするもんだと感じていると、春風は口を開けたまま固まり、白石は再びため息を吐いて俺を少し睨む。

 なにその反応。もっと別の意味でもあるのか?

 俺は花園ミーナに視線を戻すと。

 

「スタートラインよぉ」

 そして彼女は楽しそうに満面の笑みを浮かべて笑う。窓から差し込む夕日が彼女の綺麗な金髪を照らし、花園ミーナを魅力的にキラキラと輝かせた。






 ここまで読んでいただきありがとうございました。『青春へのスタートライン』で青春劣等生が誰かの青春を助けるのはいけませんか?の五月編が完となります。


 四月編から読んでくださっている方からすれば、五月編は大きく変わったなーと思われ、賛否両論あるかもですが批判はあまりしないでもらえると作者はあまり傷つかずに済みます。


 さて、五月編では新キャラクターの花園ミーナを中心に話を進めさせてもらいました。正直なところ、何回も花園と御門を付き合わせて青春委員は報酬バンザーイという流れにしようと考えていたりしていたのですが、悩みながら書いたので途中でグダグタになったかなと、反省点だなーとか思ったり思わなかったり。

 ま、無事終了したんだし良いじゃないかと。


 さて、次書くとすれば六月七月編になりますが、書くなら気楽な話を数本かけたらなとか思ってます。


 とりあえず、無事に五月編を終了させれてよかったです。


 次また続きを書いてたら応援して頂けると幸いです。ブックマークや評価や感想お待ちしてます。めっちゃ喜びます。


 こんなことしてみたかったんだよなー、と思いつつ。

 それではー。

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