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依頼と踊る下僕4

「―――って言うことでもう、俺がお役に立てるような事は何も無いかと思います。すみません」

 俺は深々と頭を下げる。要求されるのなら、土下座だってしてやる。実際、俺が出来ることなんて何もないからだ。今の俺が何を言ったところでの話だ。

 なので、謝罪。人通りの無い校舎裏だから土下座しても平気だ。こういう事を通して、人はプライドの無い謝りマシーンへと変化するのかもしれない。生き残るための変化、大事よ。


 おそらく腕を組んで俺を上から見下しているであろう御門は。

「全く、使えないね。それで本当に青春委員なのかい?まあ彼女が孤立することになったと考えれば、これはこれでありなのかもしれないね」


 ニヤけているのだろうか。俺はゆっくりと顔を上げて。

「質問、いいですか?」


「ああ、かまわないよ」


「初めて会った時からそうなんですけど、なんで花園ミーナが孤立、一人ぼっちであることにこだわってるんですか?」


「なんだ、そんなことか。理由は簡単だ。花園ミーナに頼れる人間が一人でも減れば彼女は自然と僕を頼らざるを得なくなる。一人ぼっちの彼女には僕しかいないわけだ。それはつまり、花園ミーナの何もかもが僕の物となる。完全完璧に手に入れられるということになるわけさ」

 不吉に口角を上げ、開けていた手を握り締めた。


 こいつは結構ヤバいやつなんじゃ。独占欲の塊か?花園ミーナの体と心を支配したいのか?それとも、花園家か?

「なぜそこまで彼女を完全完璧に手に入れることにこだわるんですか?好きだからっていう理由だけじゃないような気がするんですけど」


「気がしているではなく、予想しているんだろ?まあ、僕は花園ミーナのことが好きだというのもある。彼女の綺麗な髪や目。そして、柔らかな白い肌を隅々まで舐め回せるまで僕のものとしたい」


 お、おう。なかなかにハードな、アレだな。

 だが御門は若干引き気味になっている俺を気にすることなく続けた。

「ていうのが二割ぐらいか。そして残った八割が家のことだよ。もうぶっちゃけちゃうけどさ、花園家は有名企業だよね。だから金も超あるし力もある。うちの御門家も有名なんだけど、花園家と比べると劣っているんだよ。だから、まあ、花園ミーナを手に入れて花園家を取り込んじゃおうかって話だ。花園家の何もかもを御門家の手中に収める」


「それで、花園家は満足するんですか?言い方からして、花園家は御門家の操り人形……。難しい話とか表現の仕方とかよく分からないですけど、花園家と御門家の上下関係みたいなのが逆転するような」


「表現の仕方はイマイチだけど、捉え方としては間違ってないだろうね。御門家としては花園家を取り込んで下にしてやりたい。僕も花園ミーナを自分の物にしてやりたい。花園家はどう考えているか知らないけどね。ま、どうせ娘の将来の安定とか幸せとか考えた甘い甘い脳天気な考えなんじゃないかな?」


「酷え……」


「ハッ、そんな君の感じ方なんて興味がないね。さて、話はこれだけでいいかい?僕はもう一度彼女に愛を告げるための言葉を考えなきゃいけないんだ」


「それが上っ面だけだとしてもですか?」


「口が悪いな。まあ、間違ってないんだけどさ。口には気をつけろよ?役立たずの後輩」

 そうして御門はこの場から立ち去ろうと足を動かそうとする。が、その動きをやめると俺へと足を踏み込み威圧してきた。今ここで叩き潰すことも出来るんだぞと。

「僕の邪魔をするようなことは考えていないよな?」


「……それはもちろん。俺は損得だけで動く青春委員ですから」

 口の端を釣り上げて出来るだけの悪い顔をして見せてやる。


「クソ野郎の顔だな」

 御門は笑みを浮かべ今度こそこの場から立ち去った。

 

 体の中で溜めていたものを大きく息を吐き出す。どっとストレスが抜けたかと思えば、次は新たに疲労感が押し寄せてくる。

 面倒くせえなあ。

 今の俺は青春委員として御門と花園が付き合うことを応援している。いや望んでいるのだ。青春委員だからこの考えは当たり前。おまけに、三年生の青春委員の先輩からも今日の昼に圧をかけられたばっかり。今後の付き合いがある可能性を考えると、どうするべきかの後押しになる。

 青春委員ねえ。

 

 おそらくだが花園ミーナが御門晴哉と付き合えば、彼女の俺に言ったお願いは叶うことはない。御門が行動に制限をかけそうだし、頼れる存在がいないことを望んでいる。なら、友達というのは絶対に作らせないはずだ。

 悲劇のお嬢様は、御門の敷いたレールの上を走らされる。


 そこで、だ。

「もう大丈夫だぞー」

 すると、真上にある二階の廊下の窓から白石が顔を出した。

「俺、どうしたらいい?」

 今更だが、一人で抱えきれなくなったので頼れる仲間を使うことにした。


 白石は呆れたように額に手を当てている。今からもっと早くから頼れと説教されるかもしれない。それでも俺は彼女を待たずに続ける。

「緊急に意見を聞きたい」


  ●     ●     ●     ●     ●     ●


 なんだか今日は大忙しだ。ゴールデンウィークが明けてから、いや明ける前から忙しかったか。

 全く、こんなに大変なら前もって教えてくれてもいいじゃないか。なあ?神様仏様?そしたら前もって準備が出来ていたかもしれないのに。

 

 フッと思わず笑ってしまう。自虐だ。

 俺には無理か。


 俺と白石は最終下校時刻まで学校にいて少し話し合った。これから俺はどう動くべきなのかと。

 結局、結論は何も出なかったが、少し気楽になれた気がしたので俺的には充実した時間だったんだろう。


 青春委員の損得で動くのなら、御門晴哉と花園ミーナを付き合わせるべき。しかしその損得を全く考えなかった場合なのだ。その時は付き合わせるべきじゃないような気がしてしまう。

 分からねえ。

 付き合えば理由はどうであれ御門晴哉的には幸せなのだろう。だが花園ミーナはどうなるんだ。付き合って結婚して、何不自由ない生活はきっと幸せなんだ。じゃあ彼女の気持ちはどうなんだ。

 幸せ。人によってその時その時に捉え方は変わる。難しく考えれば考える程難しくなってしまう。


 きっと答えなんてないんだろう。幸せも。青春も。だから色々考えて感じて成長するんだ。今の俺はその途中。だから答えなんて分からない。幸せにも、青春にも、正解を導き出すことの出来る公式なんてないんだから。

 だから、分からなくていい。


 白石が最後にかけてくれた言葉を思い出す。

『あなたがどんな決断をしたとしても私はあなたを尊重するわ』

 多分、気づかないうちに俺は右往左往していたのだろう。だから背中を押してくれた彼女の言葉だけで十分なんだ。


 帰りの足取りが少し軽く感じ、割引シールの貼ってある惣菜でも買いに行こうかと気分転換した時だった。


「京橋様ー!!ストップストップ!」

 必死に呼びかけてくる女性の声。

 俺は言葉通り立ち止まり声のした後ろを振り向くと。

「ハイ捕まえましたッ!!」

 俺の手首を掴み息を荒げている女性。逃がすまいと掴んでくる力は強い。


「あのー、なんですか?」


「はあ、はぁ。…な、なんですかとはなんですか!」

 

「……帰りますね。屋敷の仕事頑張ってください」


「ちょおっとぉ、待ってくださいよ!!」

 帰ろうと踵を返した俺の襟を思いっきり引っ張ってきた。

 

 俺は思わず咽る。そして、振り返って睨みつけた。

「なんのようですか?坂上奈央さぁん?」 


 すると乱れた呼吸をやっと整えた坂上があからさまにため息を吐いた。それは大きくて俺に見せつけるためにしたものだとすぐに分かった。

「単刀直入に言います。お嬢様を助けてください」


「はあ?」

 なぜと聞きたかったが思わず声が漏れていた。こんなにもストレートに頼まれるとは思っていなかったからだ。


「もう、これ以上、お嬢様からなにかを失われていく姿を見たくないんです」


「いやいや、そういうことを聞きたいわけじゃなくてですね……」


「セバスティアンが何者かに襲われて、今は手術台の上です。傷つき方は酷くて、……目も当てられません。そして、お嬢様は、……」

 やがて坂上奈央は嗚咽を溢しながら涙を流し膝から崩れ落ちた。

 

 暗がりの外灯の下で俺は呆然と立ち尽くす。話についていけないのだ。小さな風が俺の頬を撫でる。それだけで、全身の熱がもっていかれた気さえした。

 なあ?神様仏様。今、この依頼に、何が起こってるんだよ。

 

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