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依頼と踊る下僕2

 お天道様が元気一杯に光を頂上辺りから降り注いできた。カチカチと掛けてある時計は針を動かし、腹を空かせた学生を喜ばせる瞬間を指す。それと同時にチャイムは鳴り響き、無事に四限目を終える。

 おめでとう諸君昼ごはんの時間だ、と時計は言っているのか知らないが針は変わらず動き続けて新たな時を刻むのだ。


 まちに待ったこの時間に遅れまいとクラスの委員長が号令をして、感謝の気持ちの欠片もなく言葉を発した。


 机の上に広がったノートを机に突っ込み、いつものようにお嬢様のお昼ご飯ゲット大作戦に移ろうかとしたのだが。

「今日は弁当があるから行かなくていいわよぉ」


 はて、どうしたものか。あいにく逢沢は部活会議に借り出されてしまっている。ということは、他の連中もそうだろう。

 滅茶苦茶久しぶりに一人飯という名のボッチ飯か。

 あいにく昼ごはんを持ってるわけではないので、コストパフォーマンスを考えると学食だが、一人にはちょっと厳しいかな……。ここは購買で買って教室で食うのが一番な気がしてくるんだよな。

 というわけで購買に行こうかとすると。


「全く、作り過ぎたって言っても限度があるでしょぉう」

 そしてお嬢様の鞄から出てきたのは三段のお重。意味が分からない。


「なんと言うか、凄い弁当だな。うん、それしかないわ」

 

「本当よぉ。久しぶりに弁当かと思ったらぁ、……。これよぉ?こんなの持ってくるものじゃないわぁ」

 そう言いつつ中身をパカパカ開けていくお嬢様。 

 見るからに美味しそうな品の数々。ていうか絶対美味い。お嬢様の家で夜ご飯を食べたからわかる経験談だ。間違いなく美味いと断言する。


 俺は思わず吸い寄せられてしまったが、自分の昼ごはんを確保しなければいけない事を思い出した。

「やべえ。ここで時間食ってるうちに無くなっちまう」

 

「ね、ねぇ!あなた昼ごはんないんでしょぉう?なら、一人でこんな量食べきれないしぃ……、一緒にどうかしらぁ?」

 何かを躊躇いながらも勇気を振り絞って言ったのだろう。お嬢様は俯いてしまい俺とは目を合わせてくれない。


 それなりに俺のことを信用してもらえているということなのだろうか。まあ、何より、目の前にこんなご馳走があるのに断るわけにはいかない。

「いいのか?俺もそれ食って?」


 その瞬間、驚いた様に顔を上げるお嬢様は少し照れくさそうになりながらも。

「もっ、もちろんよぉ!」


「まじか。じゃあ、ありがたく俺も頂くかな」

 お嬢様の前の席はこの時間空席なので遠慮なく椅子に座り。

「いやー、楽しみだわー。これ作った人は料理人さんなのか?」


「そうなるわねぇ。このサイズの弁当を作るように仕向けたのは奈央しかいないわねぇ」


「あのメイドか」


 俺が思わず憎み節で発言したのでお嬢様はニヤリと笑みを浮かべた。

「まあ、あなたが下僕になったのは奈央のいきあたりばったり大作戦に引っ掛かったわけだからねぇ。……下僕になって私を恨んでる?」

 少し視線を落としながらお嬢様は言った。


 今更になってそんなこと気にしてんのか。 

 俺は思わず脱力して、今どう感じているのか自分の本心について考えてみた。

「そりゃ当たり前だろ?滅茶苦茶な生活をさせられるし、地味に色んな人から白い目で見られたりしたりだとか。最初のうちは最悪だと思ったし、なんだよこいつとか思って―――」


 俺の言葉を遮るように呼び出しが流れる。

『二年四組、京橋龍太くん。至急、生徒会室へ来てください』

 声からして西宮と分かる。


 なんか最近呼び出されてばっかだよなあ。そろそろ、不良だから生徒会に呼び出されて矯正されてるって噂されてもおかしくないんだよなあ。不良じゃないのになあ。

 思わずため息を漏らして椅子から立ち上がった。

「悪いなお嬢様。呼び出されちまったよ」


「ええ、そうねぇ……」

 心なしかお嬢様のテンションがさっきより低く感じたが、俺は生徒会室へと足を走らせた。


 本当に面倒な役回りだ。呼び出されるのはいつも突然で。こっちの状況とか関係ない。放課後ばかりと固定されてるのではなく、昼休みに呼び出されると昼ごはんを食べることのできない仕打ち。

 そして何かと面倒な依頼に首を突っ込んだもんだ。愛を告げるだけ?そんなのでお嬢様が陥落するわけ無いだろ。なんなら、放課後の決闘でボコボコにリンチされる未来しか見えない。


 生徒会室に辿り着き、荒々しくノックしてやる。こっちの事を考えるなら朝一番か放課後にしてほしいものだ。昼ごはんを食べられないのは男子高校生にとって死活問題。

 もし、一食抜いたことによって身長が止まりでもしたらどうしてくれるんだ。俺は生徒会を許さないだろう。セノビックを買えと要求してやる。

 そう胸に誓いドスドスと生徒会室へと乗り込んでやる。

「おい西宮!また急に呼び出しやがってなんだ、よ……」


「やあ、朝ぶりだね」

 なんとそこには御門晴哉が涼し気な表情で座っていたのだ。

「この依頼のために時間を割くのは嫌なのかな?」


「いえいえ、そういうわけじゃないですよ」

 俺はそう言って機嫌が悪くならないように配慮しつつ、西宮を鋭い目つきで睨んでやる。

 おいおい西宮、何してやがるんだ。

 

「さあさあ、そんなに熱い視線で私を見つめていないでこっち来てください」

 西宮はいつもとは違う席に座っており、机を挟んで御門と対面する形になっている。俺は悪態をつきたかったが、結局何も言わずに西宮の隣の席に座った。


 顔を上げるとその先には御門と、黒縁メガネの男が一人。

「はじめまして。第二四期青春委員の代表をしている新田(にった)宗一郎(そういちろう)という。簡単に言うなら三年の青春委員の代表の新田だよろしく」

 そして座ったままお辞儀される。


「いえ、こちらこそ。二年青春委員の京橋龍太です。よろしくお願いします」 

 とりあえず社交辞令はしておくことにした。

 先輩だし。挨拶されたら返すものだと、小さい頃に田舎の英才教育で身に着けたからな。俺の田舎のコミュニティ舐めるなよ。


 そして、ふと気になった。この場は俺の担当する御門の依頼についての話し合いで間違いないだろう。向こうは御門晴哉と三年青春委員の新田宗一郎。対するこちらは、青春委員の俺と生徒会の西宮美乃梨。

「なんで生徒会のお前がここにいるの?ていうか今回関わりすぎじゃない?」


「この依頼は二年青春委員側は京橋くんの一人任せ。あの二人は他の一般的な依頼の担当をしている状態じゃないですか。なので、関与していない二年青春委員の代表の水穂よりも私の方が適任かと。それに私はどうなるのか見届けたいですからね」


「あっそう。まあ、生徒会が少しでもバックアップみたいなことしてくれるなら、こっちも気楽になれるわ」

 まあ、多分。バックアップなんてないんだろうけど。監視されてる気分だ。


 げホンげホンと咳払いをする新田は注目が自分に集まることに満足したのか。

「昼休みは長くない。もう内容に入ってもいいか?」


 頷きながらどうぞと返事をしておく。


「この依頼に関して御門君が乗り気であるということは周知の事実であるということは皆分かっていると思う。つまり、問題点は花園ミーナというわけだ。彼女には御門君の告白をどんな形であれ受け入れてもらい、恋人になってもらうことがこの依頼の達成条件。つまり、三年青春委員の代表としてここに来てこんなことを言うのはあれだが、ぶっちゃけこっち側からできる事は何も無い」


「それは分かってますよ。この依頼は俺がなんとかしないといけない」


「分かってくれているのなら話は早いな。今日を含めた四日で蹴りをつけてくれ」


「はぁ!?いきなり何言ってるんですか。しかも今日を含めた四日!?意味が分かりませんよ!ていうか土日挟んでるし厳しいでしょ!だいたい、この依頼の難易度滅茶苦茶高いの分かってての発言ですか!?」

 いきなりの宣告に思わず動揺した。隣にいる西宮は無言で冷静を装っているだろうが、目が大きく開いていて状況を読み込めていない。


「意味はないさ。ただ、僕がそうするようにとお願いしただけだよ」

 そう言う御門を睨みつけてやりたい。

 あんたのお願いは強制の間違いだろ!そうでもなきゃ、いきなりこんな事を同じ青春委員の立場の人間が言うはずない。

「今日の放課後、僕が彼女に愛を告げる。そこからどう転ぶか、君ならもう分かっているんじゃないのか?」


「……放課後の決闘ですか」


「そうだよ。放課後の決闘。実際、なんの為にこんな事をしているのか分からないけど、彼女の隣に誰が相応しいかの選定であるとしたら仕方がない。僕は戦士として戦うしかないわけさ」


「確かに、放課後の決闘で勝てば花園ミーナも御門さんを受け入れざるを得ないと思いますが。……失礼を承知で聞くんですけど、勝てるんですか?」


「無粋な質問だね。勝てるわけないだろ?だから、僕は勝てる状況、もしくは戦う事すら必要としない状況を作り出す。詳しくは言えないがね。だから、まあ、君がするべき事は、花園ミーナに後押しをするぐらいでいいよ。さっきまで考えていたんだが、これが一番の方法だね」


「では、この依頼の担当をしている京橋くんには基本的に傍観者でいていいという捉え方でもよろしいのでしょうか?」

 西宮は俺の腕を掴んでいた。これ以上出しゃばるなというメッセージだろうか。俺は深呼吸をして、やっと椅子に深くもたれかかった。


「ああ、別にそれでいいよ。その代わり、花園ミーナ側の情報を何でもいいから流す事。いや、僕が求める情報が分かればでいい。君、仲良いんだろ?」

 御門から冷たい視線を向けられる。


「できる範囲でなら」


「いいよ、それで。とりあえず今日の放課後よろしくね。さあ、もう解散しよう。折角の昼ご飯を食べる時間がなくなってしまう」

 そして、御門晴哉は勝手に立ち上がり、周りの人間に見向きをする事なく出ていった。


 新田は思わずため息を漏らし、少しこちらに笑みを向けてきたがそれに応じるつもりはない。

「西宮、用件がこれだけならもういいよな」


「そうですね。お疲れ様です」


「互いにな」

 そう言って俺も生徒会室を出た。廊下に出ると大きく何かをぶちまける様に、意味もなく声を吐き出したくなったが、ため息だけで堪える。疲れた。


 教室に戻ろう。そうして、足を動かそうとすると。

「京橋君!」


 俺を後ろから呼び止める声。誰かは分かる。

「どうしました。新田先輩」

 

 すると人は変わったが肩をまた掴まれた。朝とは違い強く掴まれてはいない。それでも、とても重く感じてしまった。

「今回は御門君が自由気ままに動いているせいで君には大変負担をかけていると思う。申し訳ない。けれども、三年青春委員が今できるのはこんな事ぐらいしかない」


「いえいえ、それは分かってますよ。仕方がないですって」

 早く解放されたい。


「君も話には聞いているとは思うが、この依頼を達成すれば破格の報酬が入ってくるのは知っているだろ?」

 

「ええ、まあ……」

 

「そこでなんだが、頼むッ!何が何でもこの依頼を達成してくれないか?俺たち三年青春委員は受験生なんだ。いくらこの学園の生徒だとしても得られるアドバンテージにも限度がある。だから、大学受験のためにも青春委員として毎日他人の青春に構ってる程余裕はない。この依頼は二年青春委員にも、三年青春委員にも同等の報酬が入るんだ」


「もう、青春委員として活動する必要がないってことですか?」

 

「ああ、そうなる。だから、無理だったとしても花園ミーナを何が何でも説得してくれ。俺たち三年青春委員のために―――」


「そう言う発言は控えてもらっていいですか?」

 新田の熱弁に水を差したのは、西宮だった。

「青春委員としての職務放棄宣言だとすれば、なかなかの問題になるかと思いますが?」


「はは……。冗談だよ冗談。御門君から何もしなくていいと言われた彼のモチベーションを少しでも高めれたらと思っただけだ。そんなに熱くならないでくれよ次期生徒会長」

 そして新田は、立ち去る際に俺の肩をポンポンと叩いて行った。

 もう分かってる。あれが冗談じゃないことなんて。もしこの依頼が失敗でもすれば、あの人はずっと俺のことを恨むのだろう。面倒くさい人間関係だ。


 新田の姿が見えなくなってから西宮は口を開けた。

「流石にこれは同情しますよ。先輩たちのせいで色々と押し付けられて、背負うものが勝手に増やされ続けている。あなた一人の負担がでか過ぎます」


「だな。さっきは助かったよ、ありがと」


「いえいえ、見ていられませんでしたから。……今更こんな事を言うべきじゃないのは百も承知なのですが、あなたは花園ミーナに後押しをしてもいいですけど、本来あるべき青春委員として彼女と接してあげてください。っても、本来あるべき青春委員の姿なんか分かりませんけどねー」


「そうだな。考えとく」

 何も考えることなく発した言葉はきっと薄っぺらいものだろう。それでも、生き残るためにはこんな言葉が必要不可欠なのかもしれない。

 ほんと、嫌な依頼だ。


 西宮と別れて教室に戻ったがお嬢様の席にはお重がなく、お嬢様の姿も無かった。鞄はあるので学園にはいるのだろう。トイレに行っているのかもしれない。

 悠長にそう考えていたが彼女が戻ってきたのは五限目の途中だった。  

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