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依頼者ー早川力也6

 早川が遠野を遊びに誘った。そのことの経緯を最初から最後まで、少し不機嫌そうな白石と春風に説明し終えた俺は、向かいのソファーに座っている早川を睨む。

 しかし、早川はそんなことに気づくことなく幸せそうな顔をしていた。


 分かってますよ、責められるのは俺。何の相談もなしに勝手に行動したから。失敗してたら絶望的な状況になることを知っていたうえで、リスキーな賭けを止めなかったから。責められるのは分かる。

 それでも、・・・なんか早川(コイツ)はムカつく。


 白石は一通り話を聞いたので、納得したのか数回頷いてから隣の俺を見る。

「あなたも災難ね」


「ああ、災難だ。あれ、俺の肩を持ってくれるのか?」

 意外。あの白石水穂だぞ、・・・ちょっと嬉しいじゃねーか。


 白石は春風のスマホの画面を眺める。

「これでこっちの件も解決ね」


「こっちの件って何だよ」

 俺がそう言うと春風が手を伸ばしてスマホを渡してくる。俺は受け取り、画面を眺めると遠野唯とのトーク画面が開かれていた。

 ああ、そういうことか。

『来週の日曜日予定入っちゃったから、映画観にいく日変えれないかな。ほんとごめん!!』

 遠野のからの最新のメッセージを見て大体の察しがついた。


 送られてきた時間からして、早川が遠野を遊びに誘ったすぐ後だと分かる。

 なるほどね。前から春風と遠野は映画に行く予定を立てていた。だが、早川に誘われ、そちらを優先するために春風にはごめんという形になったってことだ。つまり、春風より早川を優先した。


 やっぱり俺の予想が合ってるような気がしてきたぞ。

 

 俺はスマホを春風に返し、頭の中がお花畑に違いない早川を見る。

 うん、嬉しい気持ちは分かるが、まだ付き合えたわけじゃないからな。そこんとこ理解してるよね。理解してなきゃ困る。

 もしかしたら、女子が男子と二人っきりで遊ぶということは、もうお付き合い成立という事なんだとか言い出したら殴ってやろう。そんなに世の中甘くないんだって叩き込んでやる。

 俺は密かにそう誓っていると、白石は鬱陶しそうな視線を早川に向け。

「さっきからなんでそんな顔をしているの。キモチ悪いわよ」


「ちょっと言い過ぎだよー」


「あら、美咲さん。もしかしてあれを見てもキモチ悪いと感じないの?」


「いやー、そんなことはないけど。・・・キモチ悪いって言葉にしちゃったら相手に聞かれるんだから、思っておくだけにしておこうよ。現に私はそうしてるし」

 おーい、春風さん。今キモチ悪いと思っていますと言葉にしちゃったの気づいてる?


 女子二人からキモチ悪いと言われた早川は少し悲しそうな顔をしていた。

 まあ、お花畑いっぱいの顔よりはこっちの方が見ていてムカつかないからいいけどさ。


「んで、どうするよ。早川は遠野を遊びに誘い出せたし、そのことにこっちがとやかく言うわけにはいかねーだろ?」


「そうね。彼が遠野さんとどこで何をするかまでこちらが口出しすることではないでしょうし、・・・。いいえ、やはり一応聞いておきましょ」

 白石は明らかに早川を不安視している。その気持ちは分からんでもないので俺は相槌を打った。


「早川。一応青春委員として聞いておきたいのだが、その当日はどういうプランなのかとかもう決めていたりするのか?」


「もちろんだ。今考えているプランだと、まずは遊園地で遊んでから次にウィンドウショッピングをして、夜はビルの最上階にあるような洒落た店で夜景を二人で眺めながらのディナー。そして、帰り際に告白しようと考えている。何かアドバイスとかあったら是非言ってくれ!」

 そう言って早川は腕を組んで胸を張った。よっぽど今述べたプランに何かしらの自信があるのだろう。

 まるで、アドバイスが出せないぐらい、むしろ凄いと感嘆してしまうプランだろと投げかけているような表情をしている。うん、バカだろ。


 俺は白石と春風の方を見て同じようなことを思っていそうな表情をしているのを確認する。二人とも呆れていると表現するのが適切だろう。

「さてと、早川が是非アドバイスをくれって言ってるんだ。ここは青春委員としてせっかくだから一人一個ずつ何か言っていこうぜ」


「そうね。京橋君から順に言っていきましょうか」


 白石の同意を得られたので俺は早川を真っ直ぐと見た。

「俺からのアドバイスとしては、遊園地はやめておこうな」


「んなっ!?なんで遊園地が駄目なんだよ!」

 早川はお手本のような反応を見せてくれた。そりゃそうだろう、俺が今言ったことは早川のプランの否定になるからだ。

 おそらく遊園地で大部分の時間を割こうとしていたのだろう。そりゃ憧れるよな。好きな子と二人っきりで遊園地デート。俺もしたい。でも、オススメはしない。


 俺は早川に問いかける形で言っていくことにした。

「ほら遊園地って乗り物に乗ったり、お化け屋敷とかに入る前後とかって結構興奮して盛り上がってくるだろ?」


「そうだよ、その通りだよ。で、なんで遊園地は駄目なんだよ」


「いやいや、二人っきりの初デートで遊園地が駄目なんだよ」


「で、デートおぉ!?」

 そんな露骨な反応をしなくても。


「デートみたいなものだろ。んで、続きを話すぞ。初デートっていうのはな、いくら好意を抱いていたとしても品定めみたいな要素が少なからずあるんだよ。この人とはそりが合うなー、とかな」


「そういうものなのか」


「そういうものだ。そして遊園地な。遊園地には必ず待ち時間というものがあるだろ。問題なのはこの待ち時間なんだ。最初は話すネタがあっていい感じなのかもしれない。だけど待ち時間が長すぎると段々と話すネタが無くなってくる。すると、沈黙が増えたり、気まずいなとか思ったりするようになるんだ」

 

 俺は一呼吸置く。誰も口を挟む様子はないので続けた。

「するとな、じわじわと退屈とか苦痛とかそういう感情が芽生えてくるんだ。そして、どっちかがスマホに逃げると余計に話しかけずらくなる。分かるか?まだ付き合ってない段階でちょっとのマイナス評価を受けるってことだ。それの積み重ねが大きな痛手になるんだ。しかも遊園地は長時間拘束する場所だ。同じ場所に長時間拘束するのは、やめといた方がいいだろ」

 まあ遊園地に反対するのは、近場に無いというのもあるんだけどな。ちなみに逢沢も初デートで遊園地は避けてたらしい。


 言い終えた俺はソファーにもたれかかる。早川は反発することなく、そうだなと呟きながら何度も頷いた。聞く耳を持ってくれるのはこっちとしてもありがたい。


「お前、恋愛マスターだな」

 前言撤回。こいつは何を聞いていたんだ。


 こほんとわざとらしい咳払いをした白石は自分に注目を集める。

「次は私ね。遊園地からのウインドウショッピングと考えていたのだろうけど、あまりにも統一感が無いように感じるわ」


「た、たしかに・・・」


「京橋君は遊園地をやめるように言ったわよね。なので、ウインドウショッピングをしながらその町で行えるようなことをすることをお勧めするわ。例えばそうね、映画館なんてどうかしら。映画を観ている間は無理に会話をする必要はないし、観終わった後に互いに感想とかを言い合えるから良いと思うのだけど」

 確かに共通の話題があるというのはとても良いことだ。つまらない映画を引き当てる可能性がないわけではないが、ネットで評判などを事前調査しておけば問題ないだろう。


 春風は、俺と白石を見て。

「二人は凄いね。私は二人みたいなことは言えないよ」

 自信無さげに呟く。

 

「美咲さんは美咲さんが思ったことを言えばいいのよ。誰かの真似をするわけでなく、自分の言葉で言ったほうが聞き手には良いものよ」

 優しく笑みを浮かべた白石は春風を励ました。


「私なりに、・・・」

 何か思った春風は早川を真っ直ぐ見る。

 俺と白石が言ったことは堅苦しかった。おそらく、これから春風が言うであろうことよりも説得力があったかもしれない。しかし、思ったことをありのままに言うことに関しては春風がこの中で一番だと思う。

 たとえ曖昧なことを言ったとしても参考にしなければいけない意見だ。曖昧になった理由を追求していけば、そうなった問題の解答に繋がる。


 だから、春風美咲の意見は重要だ。


「私が思ったことは。夜ご飯を高いお店にするってところなんだけど、私が唯の立場なら身構えちゃうなー、て思うの。なんか、居心地が悪い感じかな」


 なんだ、ちゃんとした答えで不安がる必要は一切ないじゃないか。

 今、春風が言ったことが早川の考えていたプランの中で一番改善する必要がある点だろう。


 俺の場合、有名過ぎる遊園地で無ければ待ち時間問題はなんとかなるかもしれない。さらには、早川と遠野が最終的に行って良かった楽しかったと思えるのなら遊園地でも問題ない。


 白石の場合は、統一感というものは今回どうでもいいと割り切れるのであれば全く問題ない。遊園地の近くにショッピングモールがあるとなれば、尚更問題ないのだ。


 しかし春風の言った、夜ご飯を高いお店でするのは居心地が悪い、というのはどうしても解決出来ない。

 春風から教えてもらった遠野の情報からすれば、寮生活で親からの仕送りと毎週二日のバイトでやり繰りしているらしい。そして、高い買い物を好んでせず、家計簿をこまめにとっている。

 そしてなにより、奢られることに抵抗を感じるとのことだ。


 そんな彼女が早川に奢ってもらってなんとも感じないわけない。たとえ、割り勘になったとしても高いお店なので乗り気にはなれないはずだ。


 俺はちらりと早川を見る。先程まで好きな女子と二人っきりで遊ぶことに誘えたといってはしゃいでいた姿が、今はもう見ていられないほど無様な姿になっていた。

 自分の考えていたプランがコテンパンにやられたからだろう。なーに、アドバイスを求められてそれに応じただけのこと。俺たちはなにも悪くない。


 目の前にいる、もやしメンタルこと早川力也。こんな調子で本当にデート当日に告白まで持っていけるのだろうか。いや、告白までとはいかなくても、上手くデートをやり遂げられるだろうか。

 

 押し寄せる不安を押し返すことができず、ただただこの場にあった言葉を口にするしかなかった。

「前途多難だな・・・」


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