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奇妙奇天烈奇異奇譚  作者: 清野詠一
2/2

消えたうp主


と言うわけで休日の朝……

俺はラフな私服姿で、指定された駅前にボンヤリと佇んでいると、

「お待たせしました、宏之さん」

喜連川先輩、参上。

うむ、相変わらず美しい。

さすがお金持ちな上に美人系のDNAを持っているからか、まさに深窓の御令嬢……

と言った感じは残念ながらしない。

何しろまぁ、そのお姿が個性的過ぎる。

服は、まぁ良い。

飾り気の無い、シンプルなワンピースだ。

気品もあるし、清楚な感じもする。

問題は、装備しているトンガリ帽子と黒マントと髑髏の杖。

オマケに肩には市松人形で腰には藁人形が括り付けてある。

そして足元には黒猫と来たもんだ。

最早通報レベルである。

行き交う一般ピープルも、実に奇異な目でチラチラと此方を見てくるし……ま、俺は既に慣れたけどね。


「おはよう御座います、先輩」

取り敢えず挨拶し、黒兵衛を抱き抱える俺。

「んで、今日は遠出と言うことで、車で行くと聞きましたが……」


「あちらです」

先輩が指差した先に置かれていたのは、THE装甲車だった。

一見しただけで、地雷とか対戦車ミサイルも平気です、と言う感じ。

てっきり黒塗りのリムジン的な高級車を予想していたのだが……

や、これも多分、高級車だとは思うが、一般道を走っても良いのだろうか?


と、その装甲車のドアが開き、出て来たのは黒サングラスに黒スーツ姿のマッチョメンだった。

80年代の筋肉系ハリウッドスターのようなムキムキな偉丈夫だ。

胸元なんか、気合と共に服が張り裂けそうなほどピチピチとしている。


あ、確かこの人は、前にも数回見掛けたけど……九里栖さん、だったかな?

喜連川先輩の数いる御付の一人で、執事兼ボディーガード役だと聞いた。

何でも元は傭兵で、各国要人のSPなども勤めた経験があるとかないとか……

ともかく、凄い人らしい。

確かに見た目からして、一人で敵地へ潜入して大軍団を壊滅させそうな感じではある。

ただ、一つだけ弱点があるとも聞いた。

それはズバリ、オカルトに弱い、と言う事だ。

もちろん、怖がりと言うワケではない。

暗がりだろうがお化け屋敷だろうがホラー映画だろうが、はたまたその辺で良く聞く心霊スポットだろうが、そう言うのは全然平気らしい。

どうも、科学では解明できない超摩訶不思議な現象には、てんで弱いらしい。

多分、傭兵だのSPだの超現実的な仕事をして来た所為か、その辺の耐性は常人より遥かに低いんじゃない、と酒井さんが言っていた。

と言うのも、何でも以前、彼女のプライベートタイムを見てしまい、悲鳴上げて気絶した事があったそうだ。

……

いや、それは割と普通なんじゃね?と俺は思う。

思うが……そんな人が喜連川先輩の護衛役と言うのは、些か致命的な人事ミスなのでは?

そう酒井さんにコッソリ尋ねた所、彼女は軽く首を振り、何でもかんでもオカルトに結びつけるのは良くないわ、と言った。

どう言う意味?と聞いたら、オカルトな事件や現象のその半数以上は、実は人為的なモノやただの自然現象らしい。

もし仮に怪異を調査しに行って、それが人の仕業としたら……色々と危険でしょ?だから彼みたいな対人間用のエキスパートが必要なのよ。

そう酒井さんは言うが、先輩は一人で万を超える人を焼き殺せるような気がするのだが……

ともかく、怖いのは悪霊や化け物の類ではなく人間だ、と酒井さんは言った。

いやいやいや……

煎餅齧りながらテレビゲームに興じている呪いの市松人形に言われても、実に説得力が無いです。


まぁでも……確かに、頭の悪そうな輩とか犯罪者の仕業とかだったら、こう言う人の方が役立ちそうだよな。

的確に捕らえたり尋問とかやってくれそうだし……

先輩とか酒井さんだと、間違い無くその場で殺しちゃいそうだもん。


「では、そろそろ参りましょうか」

喜連川先輩はにこやかに微笑んだ。

何だかとても嬉しそうで、その笑顔を見ているこっちも微笑ましい気持ちになる。

「今日は一体、どんな怪異が待っているのか……もし人為的なモノだとしたら、首謀者を捕らえて実験材料にしましょう♪」


「……」

前言撤回だ。

微塵も微笑ましくない。


「九里栖。宜しくお願いしますね」

「は、お任せ下さい、お嬢様」

きびきびとした態度で頷くマッチョメン。

「頼むわよ、ゴリちゃん」

と、酒井さん。

「……」

「あ、いけない……つい喋っちゃった」

テヘヘ~と和人形特有の下膨れの顔を微かに歪めて酒井さんが笑うが……多分、今のはワザとだろう。

現に先輩もクスクスと笑っているし……何だかなぁ。

ちなみに九里栖さんは、立ったまま微動だにしなかった。

どうやら一瞬で気絶したらしい。

……

いきなりこれとは……今回の調査、大丈夫か?

宏之……ちょっと不安です。



さて、そんなこんなで車に乗り込み、いざ出発。

目的地は隣県の山間部だ。


「運転席とは完全防音なので、もう喋っても良いですよ」

そう喜連川先輩が言うと、酒井さんは『う~』と唸りながら腕を伸ばし、

「あ゛~……人形のフリは疲れるわ」


「いや、フリって……元から人形が本職のような気がするんだけど……」


「何か言った、宏之?」


「何でも無いです、はい」

そう言って俺はチラリと窓の外を眺め、懐から地図を取り出しながら、

「目的地は……山の麓にある廃ホテルでしたね」


今回の調査は、何かしらの怪異が起きていると想定される、廃業したホテルの探索だ。

事件のあらましはこうだ。

とある廃墟マニアが、このホテルを訪れ、色々と撮影。

それを動画サイトにUPして以降、そのチャンネルの更新が止まる。

そしてまた別の廃墟マニアがここを撮影し、サイトへとUP。

そのチャンネルも、それ以降の更新が止まる。

そんな事が数回続き、これは何かあると、今度は心霊系グループが訪れ、また同じように動画を撮影し、それをUPするも、それから更新が止まる。

これがまた結構な有名投稿者だったらしく、撮影した人は死ぬか行方不明になると言った噂が都市伝説的に広がり、それからまた様々な投稿者が訪れ、何れも音信普通に……そう言った話だ。


「しかし……どこまで本当なんですか?なんちゅうか、胡散臭さが漂っている気がするんですが…」


「いえ、これがまた結構な事実なのです」

喜連川先輩はそう言うと、ワクワクが止まらないと言った表情で、

「実際、この廃墟の動画が乗っているチャンネルは全て更新が止まっています。それも何の告知もせず、いきなり更新が途切れているのです。少々ツテを頼って調べましたが……投稿者は消息不明になっているみたいです」


「ほほぅ……それはまた、何とも……」

その廃墟を撮影した動画主は、何故か行方不明になると……また奇妙な事件ですねぇ。

「ふ~む……黒兵衛。どう思う?」


「あ?せやなぁ……」

俺の腿の上で何故かエラソーにふんぞり返っている使い魔の駄猫は、前足の肉球辺りを舐めながら、

「わざわざ投稿してから失踪……ってのが腑に落ちんな」

「黒ちゃんの言う通りね」

と酒井さん。

「その廃墟に何かしらの怪異が潜んでいるとしたら、その場で憑り殺している筈だし……」


「ふむ……その動画自体は、別に何も無かったんですよね」

昨日までに幾つかの動画を観させて貰ったが、特に変わった所は無かった。

普通につまらない廃墟動画だった。

「先輩、他に何か情報は?」


「そうですね……不確定ですが、どうも一般人……動画等を撮らない廃墟マニアや素人のオカルト関係者の何人かが失踪していると聞きました」

「動画の投稿主は投稿してから。他の人はその場で……って事ね。中々に興味をそそられる怪異だわ」

マニアにとって一番興味の対象であろう生き人形の酒井さんが、独りウンウンと頷いた。


「うぅ~ん……失踪者の数からして、偶然ってのは無いですよねぇ」


「無いわね」


「そいつは困った。これはかなりの猟奇的且つ危険な調査じゃないですかぁ」


「そうよ。ふふ……腕が鳴るわ」

物凄く嬉しそうに酒井さんは言った。

喜連川先輩も満面の笑みで

「超楽しみです」

とか、のたまってくれる。

全く、何てアナーキーな人達何だか……

俺は黒兵衛と顔を見合わせ、ヤレヤレな溜息を吐いたのだった。



車を走らせること約二時間……道路がいきなり無くなったのでここからは少しばかり徒歩だ。

「しかっしまぁ……幹線道路からは外れてるわ鉄道からも見放されているわ……よくこんな辺境の地で、ホテルを開業しようとか思ったもんですねぇ」

素人の俺から見ても、確実に失敗する立地ですぞ。


「調べた所、何でも良質の温泉が出るそうです」

と喜連川先輩。

その肩に乗っている酒井さんも、辺りの景色に目を細めながら、大きなリュックを担ぎながら先行して歩いている九里栖さんに聞こえぬよう小さな声で、

「その温泉を拠点に、この辺りに一大リゾート地を作る計画だったみたいよ。鉄道や観光バスなども誘致してね」


「そりゃまた剛毅なプロジェクトですな」


「で、その後はお約束どおり、バブルが弾けると同時に計画は頓挫。先に営業を始めていたホテルの維持もままならぬまま開発会社は倒産。建物はそのまま放置……って所ね」


「地元自治体にしては迷惑な話ですねぇ」


「そうでもないわよ」

酒井さんは辺りの景色を眺めながら、微かに目を細める。

「元々何も無いところだし、少なかった集落も過疎化が激しくて廃村になったみたい。廃墟になったホテルがあったとしても、誰にも迷惑になってないわ」


「むぅ……まさに日本の暗部ですね」


「こんな場所は全国各地に……」

と、そこで急に酒井さんは口を噤んだ。

どうしたのかと思いきや、先行していた九里栖さんが此方を振り返り、

「お嬢様」

「どうかしましたか?」

「は。どうも先行者がいるみたいです」


「先行者?俺達より先を歩いている物好きがいるって事ですか?」


「うん、そうだ。足跡の残り方からして……10分程前にここを通ったみたいだな」


「へぇ…」

そこまで分かるのか……さすがプロだね。


「人数は……5ないし6。女もいるな」


「また動画主とかオカルトマニアですかねぇ」

俺がそう尋ねると、九里栖さんは軽く肩を竦め、

「そこまでは……な。ただ、歩き方からして素人と言うか、山道には慣れてないみたいだな。お嬢様……如何致しましょう。排除しますか?」


「……いえ。敵意が無い限りは普通に。ともかく、少し気になるので追いつきましょう」



「あれ?神代君?」


ゲッ……

先行している連中に追い付くため、少し早歩きで進む事数分……休憩しているその連中に出くわしたのだが、それは俺のちょっとした知り合いだった。


「あ、えと……早坂さん?」

そこにいたのは男女3人ずつの6人組。

去年のクラスメイトだった早坂さんと、えと……もう一人の女の子は確か千草さん。

男の方は、田中だったか鈴木だった……そんなポピュラーな姓を持っていたと思う。

その他は別クラスの生徒だろうか、或いは他校の生徒か、俺は全く知らない。

初対面だ。


「こんな所で奇遇だね、神代君」

そう言って彼女は俺の背後にいる喜連川先輩に気付き、驚いた顔で軽く会釈した。

他の面々も、「どうも…」とか言いながらそれに習う。


まぁ……先輩は色々と有名ですからねぇ……

美人だしお金持ちだし……それ以上に変だしな。


「ほ、本当に奇遇だね。早坂さん達はこんな所で何を……」


「え?私達は……ちょっとね」

ちょっとだけ、はにかみながら早坂さんが言葉を濁すと、名前すら知らない少しばかり派手目な女の子が笑みを浮かべながら、

「探検に来たのよ。知ってる?この先にある廃墟が今話題の超オカルトスポットなのよぅ。すっごい楽しみ。オカルトとか結構好きだしね」


「た、探検って……」

あ、こりゃアカン。

思わずゴクリと唾を飲み込む。

どんな道、または趣味……登山やスキー等のスポーツから読書からゲームに到るまで、本気でそれに取り組んでいる人にとって、素人ならまだしも遊び半分で入ってくる連中を快く思わないのが人の世の常だ。

ましてや喜連川先輩と酒井さんは、ガチ中のガチ勢だ。

そんな人達の前で、ピクニック気分で心霊スポットに来ましたぁ、みたいなノリで言うなんて……今ここで、本当の地獄を見ることになりますぞ。


だがそんな俺の不安を他所に、喜連川先輩は穏やかな笑みを浮かべ、

「まぁ、それはそれは。ですがこの先の廃ホテルは、老朽化が激しいと聞いておりますので……どうかお気を付けて」

柔らかい口調でそう言った。

しかし俺は見逃さなかった。

彼女も、そして酒井さんも、微かに唇の端を歪め、何か企んでいる様な不敵な笑みを溢している事に。


ぬ、ぬぅ……

「あ、あのぅ……先輩?」

去って行く知り合いの後ろ姿を横目で見ながら、オカルト研究会部長、喜連川摩耶に声を掛けるが、先輩は静かな声で、

「九里栖。例の物の準備を……」

「は。お嬢様」


「???」


九里栖さんは担いでいたリュックを下ろし、黒いケースを取り出しすと、何やら機械的な物を組み立て始めた。


「宏之さん。ちょっとこっちへ……」


「は、はい。何でしょうか……と言うか先輩」


「はい?」


「い、いやいやいや……先輩。あのぅ……マジでアイツ等を行かすんですか?止めたりはしないんですか?」


「え?止める必要は全く無いでしょ?」

先輩はキョトンとした表情でそう言う。

そしてその肩に乗っている酒井さんも、小さな声で、

「そうよ。せっかく飛び込んで来たカナリアだもの。有効に使うわ」


「へ?カナリアって……はッ!?まさか……ワザと先に行かせて、その様子を観察するとか……」


「その通りです」

先輩は、さも当たり前と言った口調で言った。

「実に幸先の良いスタートです。色々と手間が省けました」


「い、いや、さすがにそれは……」


「……やれやれね。宏之……何か勘違いしてない?」

と、酒井さん。

「私達は何しに来たの?怪異の調査よ。分かってる?人助けに来たワケじゃないのよ」


「そ、それはそうだけどさぁ……」

俺は唇を少し尖らせ、足元にいる黒兵衛に視線を送るが、馬鹿猫は何が気持ち良いのか知らんが地面をゴロゴロと転がりながら、

「ま、しゃーないな。自己責任って言うヤツや。何が起きても自業自得っちゅーこっちゃな」


「ぬぬぬ……そ、それはそうかも知れんが、やっぱ人として……」

いや、良く考えたら黒兵衛も酒井さんも人じゃないし、先輩も……どちらかと言うと人の範疇を超えている存在だ。

「むぅ…」


「何か不満でもあるわけ、宏之?もしかして、あの連中と親しいの?」


「え?いや別に……そもそも名前だってうろ覚えだし……」


「なら別に良いじゃない。アンタの人生に取っては只のモブキャラでしょ?それともなに?アンタがカナリアになる?」


「え?それは嫌だなぁ……物凄く嫌だ」


「でしょ?だったら大人しく見物してなさい」

どちらかと言うと悪方面に心が傾いている魔人形は、クスクスと笑いながら、

「さてさて、あの子達はどんな喜劇を見せてくれるのかしらねぇ」


「う、うむぅ…」

俺としては少々顰めっ面だ。

確かに、心霊スポットやらホットスポットやら……そう言うのが好きな人間は大勢いる。

怖いもの見たさ、と言う言葉もあるぐらいだ。

だが、世の中には触れてはいけない物や場所は、確かに存在する。

過剰な好奇心は身を滅ぼす……好奇心は猫を殺すと昔から言うではないか。

だからそんな場所にわざわざ出向く輩は、仰る通り自己責任とも言えるが、それを傍観しているだけと言うのも、ちょっと……

例え自己責任とは言え、未然に防げる事象に対し、注意を喚起しないのは如何なものだろうか。

「どう思う、黒兵衛?ちょっとばかり言ってやった方が良くないか?」


「あ゛?」

使い魔の黒猫はキョトンとした顔で俺を見上げると、ヤレヤレと言わんばかりに首を横に振り、

「そいつは……止めとけや」


「何故に?」


「アイツらリア充やないけ。能天気を絵に描いたようなパリピやったで。見て分かったやろうが」


「ま、まぁ……ちょっとな。楽しそうな感じだったな」


「せやろ?そんな浮かれてる馬鹿どもの所へ言って、危ないから止めとき、何て言うてみぃ……自分、めっちゃウザがられるで」


「あ~……なるほど。何となく、その光景が目に浮かぶよ」

最終的に面と向かってキモいとかまで言われちゃいそうだ。


「ま、そーゆーこっちゃ。お前がわざわざ他人の尻を拭く事はないんや。馬鹿には馬鹿の末路ってのもあるんや」


「で、でもなぁ……正直、何かあった場合……僕チン、自己嫌悪に陥るような気がする」


「大丈夫やろ。お前は妙に神経が太いからな。例えあいつ等が無残な死に方をしても、一日も経てば忘れるわい」


「そんな……飼ってた金魚が死んだだけで泣いちゃう心優しき俺が?」


「真面目な顔で嘘を吐くなや」

黒兵衛はそう言って鼻を鳴らしながら笑った。


うぅ~む……先輩達が言ってることは、厳しいようだがある意味、正しいとも言えるが……やっぱ釈然としないよなぁ……


「準備、整いましたお嬢様」

九里栖さんの手の平には、奇妙な黒い機器が乗っている。


「では、観測に適した場所まで移動しましょう」


「は、畏まりました、お嬢様」


「先輩。あれ……何です?何か、小型のドローンようにも見えましたけど」


「その通りです、宏之さん」

喜連川先輩はコクンと小さく頷き、

「芹沢博士に頼んで作ってもらった、最新型の超小型観測ドローンです」


「なるほど。で、付かぬ事をお尋ねしますが、芹沢博士って誰です?」


「ウチの研究所にいる主任研究員です」


「ほぇ……そうですか」

ウチの研究所って……先輩の家にそんな施設があるのか?

全然知らんけど、やっぱお金持ちのお嬢様は、俺のようなTHE庶民とは色々と桁が違いますねぇ。


「芹沢博士は表向きはウチの会社の研究施設で働く工学博士ですが、本当は……魔導と科学の融合を目指している、中々にマッドでサイコな博士です」

「オカルト研究会の特殊備品の幾つかも彼の製作よ」


「なるほど。現代版、錬金術師って所ですかね」

なんか凄そうな人だなぁ……ヤバ気な香りがぷんぷんとしますよ。


「何となくだけど、宏之に似ているわね。ふふ…」


「え?それって……意外に普通な人って事ですか?」


「アンタの何処が普通なのよ」

酒井さんが呆れた声を上げながら俺を見つめる。


「いやいや、俺っちは何処にでもいるオーディナリーピープルですよ?」


「自分でそう思ってるだけでしょ?そもそも普通の人は、私や黒ちゃんと平然と喋ったりしないわよ」


「そうですか?なんちゅうか、慣れもありますけど……どんな特異な事でもこれが現実だと一度認識すれば、それが普通になると思うんですがねぇ。例えば大昔の人に、電子レンジを使っても、魔法とか言われそうですけど、細かく原理を説明すれば、納得して、それが当たり前になり、やがて誰も不思議と思わなくなると……ついこの間酒井さんが言ってた、24時間幽霊が出ている場合の心理と同じですよ」


「そう?アンタの場合はかなり特殊よ。そもそも私や黒ちゃんの原理ってなによ?」


「え?酒井さんは元は人間で黒兵衛は使い魔でしょ?喋れるのは当然じゃないですかぁ」


「……凄いわね、アンタ」

酒井さんは呆れたような感心したような、不思議な顔で俺を見つめたのだった。







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