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奇妙奇天烈奇異奇譚  作者: 清野詠一
1/2

ニュー・カマー

書きたいネタが溜まったので

何気に新連載。

連載中の俺日とは関係ありませんw

「ブニャーーーッ!!」

黒猫がしゃがれた声で威嚇をする。

「キーーーッ!!」

市松人形も奇声を上げる。

「……行きます」

艶やかな黒髪の美人魔法使いがグリモワールを広げる。

そして俺は……

「うわぁぁぁぁぁん!!」

いつも通り最前線で死に掛けていた。



俺の名前は神代宏之。

地元の中堅高校に通う、成績は中の中、運動神経も中の中でルックスも中の中。

友達もそれなりにいる、極々普通の男子高校生だ。いや、男子高校生だった。

そう、去年までの俺は、本当に平々凡々な学生だったのだが……何の因果か、はたまた神か悪魔の陰謀か、俺は現在、オカルト研究部と言う謎の倶楽部に在籍してしまっている。

オカルト研究部……通称オカ研。

良く言えば独創性に満ち溢れた倶楽部。

悪く言えば学園の禁忌、超腫れ物扱い。

それまでそれなりに順風満帆だった俺の人生は、齢17にして早くも路頭に迷ってしまった。

ま、どうしてこの平凡な俺が、新入生でもないのにこの倶楽部へと入ったのかは……追々語るとしよう。

そりゃ確かに、俺も普通の高校生であるからにして、オカルトとかホラーとか超常現象の類に、それなりに興味はあった。

もちろん、のめり込むほど傾倒していたワケではない。

かと言って、頭から否定するほど醒めていた訳でもない。

世の中には不思議な事もあるもんだねぇ……と言った、至極普通の感覚しか持っていなかった。

それが今では、普通の生活に戻りたい、と陰でこっそり咽び泣く日々だ。

ともかく、このオカ研に入ってから、俺の生活は激変した。

代わり映えのしない平穏な日常は遥か彼方へ飛び去り、訪れたのは悪夢のような非日常生活だ。

お陰で、仲の良かった友達の何人かは俺から距離を取ってしまった。

その代わり、新しい友達が出来た。

ただ、人間じゃないのが非情に残念なのだが……



「しっかし、人間ってのは環境に慣れるのが早いよねぇ……だから進化したのかな?」

俺は部室のパイプ椅子に腰掛け、購買で買ったコーヒー牛乳を啜りながら何気に独りごちた。


「あ?なんや、いきなり……」

机の上で眠そうな顔で転がっている小汚い黒猫が、薄目を開けて俺を見やる。

コイツの名は黒兵衛。

この倶楽部の部長である魔女様に仕える使い魔で、本人(?)曰く上級悪魔だと言うが、どうにも胡散臭い。

ぶっちゃけ、場末の安居酒屋のカウンターで管を巻いている、やさぐれたオッサンのような駄猫である。


「や、だってよぅ……この狂った状況ですら、難なく受け入れてるんだぜ?人間の環境適応能力ってスゴくね?猫は喋るもんだと今では普通に思っているし……」


「アンタが特別なだけよ」

そう言ったのは、体高30センチ前後の民芸品。

下膨れた顔がお茶目な、市松人形と言うヤツだ。

それがテーブルの上に座り、呑気にお茶を啜っている。

彼女の名は酒井さん。

生き人形と言うヤツだ。

もちろん、その辺で噂になる生き人形の比ではない。

普通に動くわ喋るわあまつさえ飯まで食うわ……彼女に比べたら、髪が伸びる程度の人形はただのオモチャだ。

ちなみにこの酒井さん、元はこの倶楽部の初代部長とか何とか……

それが何故、市松人形の姿に?

その理由は、本人も知らないらしい。

ま、知りたくはないが……きっと生前、悪さばかりしてロクでもない死に方をしたのだろう……と俺は思っている。


「特別?この俺が?常に心の平穏を願っている、人畜無害の僕チンがですか?」


「宏之……アンタ、自分の事をいつも普通とか何とか言ってるけど、ちっとも普通じゃないわよ」

「せやな」

と、黒兵衛も伸びをしながら頷いた。

「馴れ方が尋常やないで……自分」


「そ、そうか?」

これでも最初は酷かったと思うんだが……

倶楽部初日はいきなり気絶したし、二日目は悪夢に魘された。

そして三日目はこの歳でお漏らしまでしてしまった。

ま、確かに四日目ぐらいからは慣れてしまったが……

「いや、今でも普通に怖いと思うぞ?目の前で起きる怪奇現象に膝なんか常時ガクブル状態ですよ?」


「そう?」


「そうだよ。俺は環境の変化に弱い現代っ子なんだよ。豆腐メンタルな男子高校生なんだよ。あ、ジュリエッタ。俺にもお茶を淹れてちょーだい。コーヒー牛乳飲んだら、余計に喉が渇いちゃったよ」

俺は机の上に横たわっている100%ハンドメイドの藁人形に声を掛けた。

胸元に打ち込まれている五寸釘がチャームポイントの藁人形はムクリと起き上がり、いそいそと急須から湯飲みに茶を注いでくれる。

うむ、中々に器用だ。


「……どこが弱いのよ……」


「あん?何か言ったか、酒井さん?」


「何でもないわ。ま、私としては宏之のような図太い男がいて助かったわ。摩耶が卒業したら、また倶楽部が休業状態になってしまうしね」


「ってか、何で部員が俺だけなんだ?」


「アンタだけじゃないでしょ」


「や、人間の部員としての話ですよ。俺、途中入部でしょ?ま、入部と言うか強引に拉致られたんですけど……しかも二年になったワケだし……一年とかは勧誘しないんですか?」


「したわよ」

酒井さんはそう言って、黒兵衛と顔を見合わせ、軽く肩を竦めた。

「去年の話だけど……摩耶が二年になった時、新入生を何人かね」


「俺の世代ですかぁ……んで、そいつ等は?」


「さぁ?暫くして、全員転校しちゃったわ」

「不登校になったのもおったで」

「そうだったわね。それで学校から、勧誘禁止の処分を受けたのよ」


「……嫌な話を聞いちゃったな。って言うか……それだと僕チン、禁止処分中に勧誘されたって事になるんですけど……」


「それは成り行きよ」


「成り行きですか?まぁ……別にエエですけどねぇ。んで、その部長は?喜連川先輩、今日は遅いッスねぇ」


「摩耶は今日、進路相談とか言ってたわ」


「まだ四月なのに?」


「三年になると色々とあるのよ」

そう酒井さんが言うと同時に、他の倶楽部の部室とは全く異なる重厚な扉が開き、

「皆さん、こんにちは」

オカルト研究会の部長、喜連川摩耶先輩が入ってきた。

黒く艶やかな長い髪に物憂げな瞳。

透き通る白い肌に漂う妖艶なオーラ。

ぶっちゃけ、超美人である。

……

見た目だけはね。

中身は、もうなんちゅうか……色々と拗らせてしまった残念な人だ。


「ちわっす、部長」


「はい。ちわっすです、宏之さん」

ペコリとお辞儀し、ゆっくりとした気品ある所作で椅子に腰掛ける。

「酒井さん。すみませんがお茶を一杯……」

「今、淹れるわ」


「ん~……何かお疲れですね、部長」


「……少しばかり、先生と議論になりまして……」


「何か進路相談とか聞きましたけどが……先輩、希望進路は?やっぱ大学ですか?」


「です」

コクンと可愛らしく頷き、優雅にお茶を一啜り。

「私の希望進路に、先生が嫌そうな顔されたので……それでついつい議論が白熱しまして、もう喉がカラカラです」


「へぇ……んで、何処の大学が希望なんです?」


「ミスカトニック大学です」


「……」

そりゃ議論にもなるわ。

ってか、そのネタが分かる先生も中々に凄いとは思うが……


「どうして日本の大学には、魔法科とかがないのでしょうか……実に閉鎖的です」


「い、いや……世界の大学にも無いと僕チンは思うのですが……あれですよ。神学系とか仏教系の大学とかはどうですか?」


「……悪魔系の大学なら行きますが……」


「ん~……OK。この話はこれで終わりにしましょう。僕チン、少し心臓が痛くなって来たので……てへへ」


「宏之さんは相変わらず事勿れ主義です。ダメダメのダメです」


「何を仰ってるのかサッパリ分からんのですが……今日の部活動はどうします?」


「今日は新入生の勧誘を行います」

そう言って喜連川先輩は酒井さんを抱きかかえ、窓際へと寄ると、

「見て下さい校庭を。新入生という名の哀れな子羊があんなにたくさん……オカルト研究会の生贄には最適です」


「……おい、黒兵衛。何か凄いこと言ってねぇーか?」


「言うなや。聞かなかった事にしとけや」


「と言うわけで、今から無垢な新入生を勧誘するのです。どんな手を使っても」

どこか鼻息も荒く、喜連川先輩は言い放った。


「い、いやいやいや……ちょっとお待ちなせぇ、部長様。酒井さんから聞いた話だと、勧誘禁止処分が出てるとか何とか……」


「それは昨年度の話です。新学期が始まったのでノープロブレムです」


「そ、そうなのか黒兵衛?」


「や、知らんがなワシ……」


「さぁ行くのです。目標は最低10人です」

喜連川先輩は高らかに宣言すると、酒井さんを抱えたまま、部室から出て行ってしまった。

その後を、ジュリエッタを始めとする呪い系人形や古物から劇的な進化を遂げた九十九神達がゾロゾロと付いて行く。


「あ、あ~あ~……行っちゃたよ」

そして案の定、校庭は阿鼻叫喚の地獄と化したのだった。



普通に学校へ行き、普通に授業を受け、普通に昼食を摂り、また授業を受け……普通じゃない放課後活動の始まり。

俺は鼻歌交じりに、どこぞの大企業の重役室のような扉を開けると、そこはとってもワンダーな世界だ。

「しっかしまぁ……相変わらず趣味全開の部室ですなぁ」

壁一面、所狭しと並べられたオカルトグッズの数々は中々に圧倒的だ。

ホルマリン漬けの胎児とかも置いてあるけど……何に使うのだろう?

それに部屋の中央には巨大な魔方陣が描いてあるし……ここまで気合が入っていると、逆に何も言えないよね。


「おろ?誰もいねぇーし……」


「ワテがおるやろうが」

と、テーブルの上で、猫用ドライフードをガリガリ喰ってる黒猫が、少しだけ上目で俺を見やる。


「なんだ、オヤツの時間か」


「オヤツって言うな。なんやガキみたいやないけ」


「むぅ……今更聞くのもなんだけど、何でお前は普通に喋れるんだ?」


「ホンマに今更やな、自分」

黒兵衛は呆れた声を上げながら顔を上げると、何故か胸を張りながら、

「前も言うたけど、ワテはこれでも上級悪魔や。人語なんぞは余裕のよっちゃんはサリーちゃんの友達やでぇ、自分」


「や、猫餌をガリガリ喰いながら上級悪魔だとか言われてもなぁ……」


「これが美味いんや。宏之……ちょっと喰ってみるか?」


「……少しだけ好奇心が擽られるけど……止めとく。それを喰ったら人として大事な物を失うような気がするから」


「まだ失うモンがあるんかい」


「残念ながらあるのだよ」

そう言って俺は部屋の片隅の戸棚から湯飲みと紅茶のティーパックを取り出し、そこに電気ポットからお湯を注ぐ。

「しっかし……最初、お前や酒井さんが喋った時は心底驚いたなぁ……ガチで気絶しちゃったし」


「遠い昔みたいに言うなや。つい一ヶ月ぐらい前の事やないけ」


「そうだったっけ?」


「ホンマにお前は図太いっちゅうか……慣れるのが早過ぎや。ま、それも才能かのぅ」


「どんな才能か分からんけど……いつもそうなのか?」


「あ?何がや?」


「や、俺が来る前に新入生を何人か勧誘したとか前に言ってただろ?そン時も普通に喋ったのか?」


「もちろんや」


「……そりゃ学校にも来なくなるわ」


「アホか。一番最初に現実を分からせたるんや。その方が楽やし、怪異の類にも免疫が付くやろーが」


「現代っ子にはもっとマイルドに接した方が良いと思うんだけどねぇ」

俺は軽く肩を竦めながら、紅茶を一啜り。

うむ、美味い。

何処のブランドか知らないけど、香りも強く中々に美味い。

かなりの高級品と見たね。

「でも、何時でも何処でも、普通に喋るワケじゃないんだよなぁ」


「はぁ?当り前やろーが」

黒兵衛は呆れた顔で俺を見つめる。

「ワテや酒井の姉ちゃんだって、ティーピーオーは弁えとる。一般人の前ではワテは普通の猫やし、酒井の姉ちゃんはただの人形のフリをしとるわい」


「本当にか?」


「ワテはな。酒井の姉ちゃんは……時々……ワザと人を驚かそうとしとるけどな」


「……そうだな。気が付くと普通に廊下を歩いてたりしてるモンな。ってか、その酒井さんはどこに?」


「屋上や。九十九神達を連れて日光浴をするとか言うてたで」


「言ってる傍からそれかよ。道理で、さっき女子がキャーキャー叫びながら廊下を爆走してたわけだ。ってか、TPOは何処へ行った?ぶっちゃけ、新型の二足歩行ドロイドだよって言う誤魔化しも、そろそろ通用しなくなってきたぞ」


「せやなぁ……」

と、黒兵衛が前足をペロペロしていると、いきなり部室の扉が開き、

「あら…」

件の市松人形が手下の九十九神達、瀬戸大将や鳴釜を引き連れて入って来た。

……

どうやって扉を開けたのだろう?


「どうしたの宏之?」

俺の膝ぐらいの高さしかない酒井さんが、小首を傾げた。


「や、別に……」


「そう?」

と、そのままサッと両の腕を振り上げる。


「あ、はいはい……っと」

俺は苦笑を溢しながら彼女を持ち上げ、テーブルの上へと置いた。


「ところで摩耶は?」


「部長ですか?まだですねぇ……掃除当番か何かじゃないですか?それよりも酒井さん」


「ん?なによ宏之」


「や、今も黒兵衛と話してたんですが、ここ最近、行動が少々大胆過ぎやしませんか?」

俺は言いながら膝の上に飛び乗ってきた猫形態の九十九神、五徳猫の背中を撫でながらそう言った。

うむ、黒兵衛よりこっちの方が触り心地が良いな。


「それ、どう言う意味よ?」


「ですから、余り人目に付かない方が宜しいのではないかと……ぶっちゃけ、噂とか目撃例とかが広まり過ぎると、ワケの分からんマスコミが来たり誰かに動画とか撮られて配信されちゃいますよ」

ま、酒井さんの動画ならリアルに1億とか再生回数を稼げるような気がするし……


「大丈夫よ。マスコミなんか追い返せるし、動画も平気。と言うか以前、自分で動画を撮って有名サイトへ上げた事があるけど……」


「あるのかよ」


「その時も、良く出来たCGだって言われたわ」


「あ~……なるほど。逆にリアルな怪奇現象ほど、トリック的な何かがあると思ったりするんですね」


「そう言うことよ。チョコチョコ目立たないように動いているより、堂々と動き回っている方が逆に目立たないわ。それが日常と言う認識にした方が楽なのよ。極端な話、例えば幽霊が出るトンネルとかあるでしょ?あれでもし、その幽霊が24時間、常時出っ放しの状態だったらどうなると思う?最初はパニックになるでしょうけど、その内に慣れるし、誰も怖がらなくなるわよ。あまつさえ観光名所になるかもね」


「本当に極端な話ですね。でもまぁ……それもまた真理か」

と言うか僕的には、酒井さんが動画投稿用のアカウントを持っていると言う事実に、色々と突っ込みたいのだが……

「つまり酒井さんは、敢えてこれが普通だと思わせる為に、わざと出歩いていると……そう言うことですね?」


「え?違うわよ。怖がるのが面白いから歩いているだけ」


「あ、あのなぁ……」


「あはははは♪」

市松人形は高らかに笑った。


いや、本当にこの下膨れ顔の性悪人形は……


「ま、私も気を付ける時には気を付けているわよ。摩耶の家にいる時は、普通の人形のフリをちゃんとしているんだしね」


「それ本当ですか?」

言いながら俺はチラリと黒兵衛を横目で見やると、黒猫は疲れたような顔で、軽く首を横に振った。

ん、なるほど。

深く聞くのは止めておこう。

「しっかし喜連川先輩、今日は本当に遅いですけど……何か準備でもしてるのかな?」


基本的に、オカルト研究会の部活動は2種類ある。

一つは魔法の研究や練習、及び錬金術に関しての勉強や実験等の屋内活動。

ま、これならまだ辛うじて、学校の倶楽部活動と言えるが……問題はもう一つの活動だ。

ズバリ言うと実践。

怪奇現象の探索をしつつ、もし悪霊が出たら退治してやろうとか……

いやいやいや、それって学校のクラブ活動ですか?その手の専門家に任せた方が良いんじゃないんですか?と、喜連川先輩や酒井さんに言ったら、ニッコリ笑顔で『趣味ですから』と返された僕チンは号泣モノで御座るよ。


「もしかして、また遠出するのかなぁ……」


「なによ宏之?不満なの?」


「もちろん。だって一応、僕チン達は学生ですよ?学業が本分ですよ?休日ならともかく、平日に遠出は……それが野良九十九神の捕獲とかならまだしも、ガチの鬼退治とかだったら……あ、思い出したら尿意が」

そうなのだ。

倶楽部に強制的に入れさせられてから数日後……俺はいきなり、鬼だか悪霊だかの調伏に参加させられたのだ。

しかも罠を仕掛けるための囮役として。

いやはや、あの時は参った……何しろ本当に死に掛けたワケだしね。

「さすがにアレは、今でも恐怖ですよぅ」


「そう?結局あれはただの低級霊だったワケだし……そんなに怖かったかしら?」


「怖かったですよ」

ちなみに言うが、化け物が怖かったワケではない。

死に掛けたのも、何故かそんなに怖くはなかった。

俺が怖かったのは、素人の俺に殆ど説明も無く囮とかやらせた先輩と酒井さんの神経が怖かったのだ。

「ま、ほんの数日で、一般ピープルが一生掛かっても体験できない恐怖を味わいましたからねぇ……お陰で僕のナイーブな神経は麻痺して、今では殆どの事に動じなくなりましたよ」


「結果オーライじゃない」


「そうですか?なんちゅうか、人生の楽しみとか感動とか、そーゆーのが消失したと言うか……サイコパス誕生って感じですよ?」

ぶっちゃけ、ホラー映画を観ても笑ってしまうし、もし仮に目の前に惨殺死体が転がっていても、ベテラン検視官ばりに観察しちゃうよ、今の俺は。

「世の中に、本当に普通の人が知らない世界……知らなきゃ良かったって言う世界があるんだなぁ……と、今更ながら後悔ですよ」


「でもそれが真実よ」


「僕チンは虚構の世界で楽しく人生を過ごしたかったですよ」

と、そんなこんなで市松人形と黒猫と小一時間ほど世間話をしていると、部室の扉がゆっくりと開き、

「遅くなりました」

相変わらず美人だけどどこか存在感が透明な部長様が登場した。


「ちっす、先輩」


「ちっすです、宏之さん」

喜連川先輩は優雅な動きで、九十九神達が引いた椅子に腰掛けた。

「少々調べ物をしていたら、遅くなってしまいました」


「調べ物ですか?」


「です。喜んで下さい宏之さん。ちょっと遠くへ調査へ出掛ける事になりました」


「や、喜べと言われても……叩かれてブヒブヒ言う性癖は持ち合わせて無いで御座るよ」

俺は深い溜息を吐きながら、机の上でだらしなく転がっている黒兵衛の頬をムニムニと弄んでいると、酒井さんが、

「なによ宏之。嬉しくないの?待望の調査よ」


「や、待望って……そこに喜びを見出せるほど、僕の魂のステージはまだ高くないですよ。って言うか先輩、まさか今からですか?もう日が沈み掛けてますよ?」

窓の外を見ると、既に辺りは茜色に染まりつつあった。


「いえ。少し遠いので、今度の土日にしようかと……車や機材等は、此方で用意します」


「あ、そうですか。車も……そう言えば先輩の家は、お金持ちでしたねぇ……良く知らんけど」

俺がそう言うと、何故か酒井さんが胸を張り、

「そうよ。摩耶の家は超が三つ位付くお金持ちなんですからね。財閥よ。上級国民よ。平伏しなさい、宏之」


「そう言うことはラーメンの一杯でも奢ってくれてから言って下さい」


「ふふ……大丈夫ですよ、宏之さん。何も心配はいりません。行楽気分でOKです」


「……恐怖とか死とかがチラ付くのを行楽とは言わないと思うんですがねぇ」

俺はそう言って、深い溜息を吐くのだった。







随時、更新しますデス。

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