第三話『贅沢を言うなら米食の文化圏がよかった』
いい加減タイトル決めないとなぁって思って仮ですがタイトル決めました
第三話「贅沢を言うなら米食の文化圏がよかった」
うろ覚えの知識で必死こいて作った水路から水を汲み、これまた自作した不格好な簡易竈で火にかける。水道捻れば飲める水が出るって事がどれだけすごいことなのか、外国どころか異世界に来てしみじみと実感した。ありがとうTO○IO、ありがとう鉄腕DA○H。おかげで今日もなんとか生きていけてます。
煮沸消毒した飲み水を水瓶に移したら、今度は朝ごはんを作る。とはいえそんなに凝った物ではない。今日も蕎麦の実を使った粥と豆スープに酢漬けの野菜のみだ。育ち盛りの子供達にはパンとか肉とか美味しくて栄誉のあるものを沢山食べさせてやりたいけれど、そんな余裕はどこにもなかった。精々雑草同然に育つハーブをぶち込んでやる位か。
とりあえずの朝食の用意が整った所で、炊事場に一人の少女が駆け込んできた。
「ごめんレン! 寝坊しちゃった! 朝ごはんの用意もう終わっちゃった!?」
「おはようマルガ。丁度終わったとこだよ」
気にしないでいいから、顔を洗っておいで。と水路の方を指差す。マルガレーテことマルガはごめんねーとまた言いながら、伸ばしっぱなしの金色の髪をなびかせてかけて行った。
一応ボクの次にここでは年長で、孤児とは思えないくらい明るく元気が良い娘なのだが、少々お転婆なのが玉に瑕だった。
「まぁ、陰鬱で無気力よりはいいよね」
戻ってきたマルガは服までびっちゃり濡らしていたけれど、夏だし早々風邪は引かないだろうとスルーして、みんなを起こして来るように言った。
「かしこまり!」
彼女はどこで覚えたのか変な形の敬礼をボクにして、教会の中へ戻っていった。暫くしてマルガの「朝ごはんだよーみんな起きろ-!」という声と、布団を引っぺがした時に子供達がベッドから転がり落ちたであろう音が聞こえてきた。起こしてと頼んだのはボクだけど、ベッドから落とすのは流石に危ないので、後でお説教をしようとボクは誓った。
マルガを含めて五人の少年少女が、眠そうな顔を擦りながら食卓に着いた。年齢(推定)と性別順に分けるとこうだ。
・レン 12歳 男
・マルガレーテ 10歳 女
・ゲルダ 9歳 女
・ヨハネス 7歳 男
・カトリナ 7歳 女
・ヴォルフラム 5歳 男
レン(ボク)とマルガは同じ孤児院から逃げ出した仲間で、後は路地裏生活やなんやしてるうちに合流した。今ではみんなボクにとって大事な家族だ。
代わり映えのしない朝食。味気のないメニューであろうとも、食うや食わずの生活をしてきた孤児にとっては十分な食事だ。
「それではみんな手を合わせて――こらヨハネス。お祈りの前に食べようとするんじゃありません。そんな子にはもうご飯作ってあげないよ」
「う、ごめんなさい……」
「うんうん。ちゃんとごめんなさいが言えて偉いね。それじゃ、改めて――いただきます」
『イタダキマス!』
神には祈らない。仮にも教会を住処にしている人間としてどうなのかと思わなくもないのだが、こんな現状のボクや子供達を放置しているような神様に祈りを捧げる気にはなれなかった。
だからこの祈りはあくまでも、ボク等の糧となってくれた食材と、それを作ってくれた人達への感謝の気持ちだった。
言うが早いか、子供達は各々食事を口に運んでいく。教育のかいあってか、がつがつと飢えた獣の様に食べたりはしない。良く噛むこと、好き嫌いをしないこと、食材に感謝をすること。簡単だけど大事な、ご飯の時の三つの約束。
飽食の時代に生まれた身としては、比較的食事に拘らなかったボクから見ても決して良いとは言えない料理を、彼らは美味しい美味しいと言って食べている。作った身としては嬉しい反面、こんな物でと悲しくもある。
全員が食べ終わるのを待って『ゴチソウサマデシタ』と唱和した。
食事が終われば後片付け。これは年少組の仕事だ。最近ではゲルダの家事能力の上達がめざましく、掃除洗濯を含め任せきりになってしまっていた。
同い年でなにかと喧嘩になりやすいヨハネスとカトリナを上手くなだめ、ヴォルフにも出来る事をしっかり割り振り、そしてちゃんと出来たら褒めて上げる。その姿は、ぶっちゃけマルガよりお姉さんらしくて思わず笑ってしまった。
「レンなにやってるの? 早くしないと置いてっちゃうよ」
「あぁごめんごめん。今行くよ」
そんなボクの考えなんて露知らず、余所行きの小綺麗な格好に着替えたマルガが手招きをしている。子供達の声を背に、ボクとマルガは我が家を後にした。
蕎麦と豆は痩せた土地でもよく育つのでレン達の主食です。後は馬鈴薯