異変の始まり-1
暖かな日差しが射していて、気持ちの良い風が吹く心地良い朝。小鳥たちのさえずりはベッドで横になっていた少年には耳障りだったようで、少年は目をゆっくりと開け、ゆっくりと起き上った。少年は目を擦りながら立ち上がり、日差しを阻んでいたカーテンを開けた。少年は明るい日差しに照らされた自室にある、古ぼけた木の時計を確認した。時刻は午前7時30分。
「あと30分で学校着かないと初日から遅刻じゃねぇか!!!」
少年は慌てた様子で二階にある自室を飛び出し、階段を滑るように降りて行った。少年は今、大ピンチである。
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「母さん、行ってくるよ!!!」
「龍成、あんまり急ぎ過ぎて怪我しないでよ!」
少年、龍成は支度を大急ぎで済ませ、母親の特製おにぎりを頬張りながら家を飛び出した。時刻は7時40分。始業の時間は8時ちょうど。学校まではおよそ30分かかる。
「ヤバイってこれ!!!」
桜の花びらが散る道を龍成は全力で走っている。
「魔法使わないともう間に合わねえぇぇ!!でも使って、後で怒られるのもめんどくさいな…。…もうどうなっても知らねえ!!ソニックムーブ!!!」
彼が魔法を唱えたその刹那、地面に散っていた桜の花びらが宙を舞い、龍成の姿はそこには無かった。
―――――龍成はなんとか8時に間に合ったが、結局、魔法の使用がばれてしまい生徒指導の教師にこってりとしぼられた。
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龍成は始業式を終えると、今年度通う事となる新しい学級の教室へと向かっていった。
「3年C組か…。名簿を見る限り、中々強そうな奴がいるようだな」
彼が所属することとなるクラスは、実力者揃いの優秀なクラスであった。中でも龍成はある人物に興味を示していた。
「…久遠風斗か。“地の皇帝”…。どれほどのものなのかねぇ…」
龍成は名簿を確認しながら自らのクラスの教室へと入って行った。すると、いきなり龍成に強烈な蹴りが飛んできた。突然の事で龍成は避け切れず、腹部にもろに食らってしまった。
「遅かったわね、りゅ・う・せ・い??」
龍成に蹴りを入れた小柄な少女は怒りを露わにしながらも、笑顔で龍成に話しかける。
「…痛っ!!ご、ごめんって雪菜!!許してくれよ!この通り!!!」
龍成は少女、雪菜に全力の土下座をして見せる。とても綺麗な姿勢の土下座に教室内にいた生徒たちの視線が集まる。
(初日からなんでこんな…)
「今あなた、『初日からなんでこんなことやらせるんだ』って思ったでしょ?」
龍成は返す言葉もなかった。図星だった。
「…ま、まあ間に合ったのは間に合ったから許してあげるわ。今度からは無いわよ。私、ギリギリまで待っててあげてたんだからね」
「…はい、今後気を付けます…」
龍成は初日から級友たちに笑いものにされてしまった。
(いっそもう殺してくれ…!)
龍成の心は折れた。が、龍成は何やら強い視線を感じる。何処からか、辺りを見渡して確認しようとするが、周りの生徒たちは皆こちらを見ているので、視線は誰からの物なのかわからず、自分が哀れであることを再確認しただけだった。