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9. ローブの女

 三人の悪漢達を奇跡的に撃退した後、ひとしきり自己陶酔しきったシオンは女性の側に近づいて声を掛けた。


「大丈夫ですか?」


「大丈夫に決まってるじゃない‼ あなた何かに助けられなくても、あんな男達私一人でどうにか出来たのだわ‼」


 恐らく人生において一度あるかどうかの恐怖と絶望を味わったであろう女性に対し、努めて優しい声色で話しかけたシオン。


 だがそんな彼の気遣いなどおかまいなしに、先程まで恐怖に震えて声も出せていなかった女性であったが、大変に勇ましく返事をした。


「そ、そうか……」


「というか、何でそんなにやりきった風なのかしら⁉ あなた、ただ剣を出して脅かしただけで、何もしていないじゃない‼ 意味不明なのだわ‼」


「お、おぉ……」


 ド正論だった。


 あまりに核心を突いた女性の指摘にシオンはかなり凹んだが、それは顔に出さないようにしながら女性に言葉を返した。


「……そんだけ元気があれば平気そうだな。じゃ、俺はもう行くわ。今度から人気の少ない夜道には気を付けろよ」


「ちょっと待ちなさい‼ か弱いレディをこんな所に置いて立ち去るなんて、正気を疑うのだわ‼あなたそれでも男なのかしら⁉」


 先程、「襲ってきた男達など一人でどうにか出来た」と断言したのにも関わらず、「か弱いレディ」とは良く言ったものだった。


「……俺にどうして欲しいんだ、あんたは」


「特別に、本当に特別に、この私を街の市場までエスコートさせてあげるのだわ‼ 感謝すると良いのだわ‼」


「……そりゃ光栄だ」


 先ほどまで声も上げられない程の恐怖に染まり、ひたすらに誰かの助けを願い、そして未だに立ち上がれない程の恐怖が残っている中、自分をその窮地から救ってくれた人物に対して中々の豪胆さだった。


「(要するに、街まで送って欲しいってことか……)」と呆れたように腰に手を当てながらシオンは彼女の要望を承諾した。しかし実際のところ、彼に「面倒だ」と言うような感情は一切ない。


 目の前の女性は先程の出来事など一見まるで何でも無かったかのように振舞っている。


 しかし彼女が先程自分でも言ったように、か弱い女性がそのような目にあって平気であるはずがないのだ。


 下手をすれば一生モノのトラウマになっても不思議ではない。下手をすれば、二度と人前に出られなくなるかもしれない。


 下手をすれば、決して癒える事の無い心の傷に苦しみ、自ら命を絶ってしまわないとも、言い切れない。


 それら全て、想像するのは難しい事ではなかった。


 故に彼は、目の前の女性を安心させるため、そして安全を守る為に街までエスコートすることに対して一切の抵抗はなかった。


 目の前の困っている人を助けられる存在が自分しかいないのであれば、自分の身など省みずにその人物を助ける。それは彼にとっては至極当然の判断だった。


 それが一之瀬シオンの根底に存在する、確固たる正義感であり、良心であり、信念であった。


「……じゃあ、行くか。街まで案内するよ」


「あなた正気なのかしら⁉ この私を見て分からない⁉ 私はまだ足に力が入らなくて立ち上がる事も出来ないのよ⁉ 少しはモノを考えて言って欲しいのだわ‼ 全く呆れた男ね、あなたは私が立ち上がれるようになるまでそこでアホ面晒して突っ立ってると良いのだわ‼」


「(……やっぱり今すぐ帰ろうかな)」


 一之瀬シオン、彼の中に確かにあったはずの信念がブレそうになった瞬間だった。



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