【二章】10. 完全敗北
「──犯人が……、捕まった……?」
レスティアの研究室への不法侵入事件──その犯人が逮捕されたという知らせは、唐突にシオンの耳に届いた。
シオンが学園長の元へ事件について話しを聞きに行った翌日。
二限の授業終了後に教室を出たところで学園長のルドルフに声を掛けられ、シオンは昼休みに学園長室に招かれた。
そこで、昨日時点で事件の犯人が逮捕されたこと、犯人は四十代の男性で数年前まで運送業者に勤務し、その際に学園へ出入りしていたことのある人物だったと、ルドルフはシオンに説明した。
また、その男は昨日、魔術学園とは別件の不法侵入で現行犯逮捕され、取り調べの際に採取された指紋と毛髪がレスティアの研究室に残っていたモノと一致していたこと、そして犯人が自供したことで今回の事件の犯人と同一だと断定されたという情報も付け加えた。
「なんでも、その犯人は浮浪者で薬物中毒の疑いがあり、まともな精神状態ではないようでね……。今は王国騎士団が身柄を拘束し、余罪などを調べているとのことだ」
「(その男が……、リリィを……ッ‼)」
ザワッと、全身の血が沸騰するかのような怒りがシオンの中で沸き上がった。
しかし、その時……。
「(──いや、待てよ。……何か、おかしい)」
興奮状態に陥り判断力が落ちている中でも、シオンはふと違和感を抱いた。
「(確かに、精神異常者の犯行なら説明が付く部分は多い……。無関係なレスティア先生が狙われたのも、わざわざ研究室に忍び込んでやる事が植物を一輪燃やすだけという、そんな奇怪な行為に及んだことも……)」
シオンが無言で考えを整理している途中で、ルドルフは言葉を続けた。
「犯人がどうやって学園に侵入したのかなど、まだ気がかりなことはあるが……。まあ、ひとまずはこれで安心だろう。──レスティア先生が大切に育てていた植物は、もう戻ってこないのかもしれないが……。ただ、これ以上の危険は及ばないと分かって君も少しはホッとしたんじゃないかね? 不法侵入者が野放しになっていたのは、正直、私も学園長として気が気では──」
……などと話し続けるルドルフの声は、シオンの耳には届いていなかった。
「(精神異常者による奇行……、それなら納得出来る部分は確かにある……。だが、矛盾する……。異常行動を起こしてしまうほど理性を失っている状態にも関わらず、その犯行はあまりにも計画的だ……。学園の敷地に侵入することも含めて、突発的な衝動で今回の犯行を実行するのはまず不可能……。最低限、誰にも見つからずにレスティア先生の研究室までの移動出来るようなルートを把握し、鍵の開錠手段を事前に用意しておかなければ無理だ……)」
そこまで考えて、シオンの中で一つの確信が生まれた。
「(恐らく……。いや、間違いない……。真犯人は、絶対に別にいる……。仮に捕まった男が実行犯だとしても、裏で手引きした人間が必ずいる……‼ 薬物中毒の人間を都合よく操った人間が……‼ 自分の罪から上手く逃れようとしている卑劣な人間が……‼ リリィを殺した奴は……、俺が見つけるべき人間は、そいつだ……ッ‼)」
ギリッ……、と、シオンは拳を強く握りしめた。
「……あの」
「ん? どうかしたかね」
「ユリウス・リードベルク氏……。騎士団から派遣されて来ているその人に、今の話を聞いたんでしょうか」
「? ああ、そうだが……」
不思議そうな顔をするルドルフに対して、シオンは真剣な眼差しを向けた。
「その人は、今どちらに?」
「昼休み中だからのう……。正確には分かりかねるが、彼には、滞在期間中は三棟校舎の空き部屋──二階の用具室の左隣の部屋を使ってもらっておる。授業中以外はそこにいることが多いはずだ」
「分かりました。ありがとうございます」
そう言って深く頭を下げると、シオンはソファから立ち上がった。
「……? ユリウスさんの居場所を聞いて、どうするつもりかね……? まさか彼に直接──あ、ちょっと、一之瀬君……」
「申し訳ありません、学園長。……急ぎますので、失礼します」
出口の近くでそう言うと、シオンはもう一度深く頭を下げてから学園長室を出た。
「……。……以前会った時は学生とは思えない程落ち着いていた彼が……。もう犯人は逮捕されたというのに……、一体、何があそこまで彼を感情的にさせているのだ……」
と、ルドルフはどこか心配そうに呟くのだった……。
◆
コンコンと、シオンが二回扉を叩くと、部屋の中からブルーがかった金髪の美丈夫が現れた。
「──おや、君は……」
「いきなりの訪問、失礼します。自分は二年Cクラス所属の、一之瀬シオンと申します。折り入ってリードベルクさんにお願いしたい事があり、こうして伺いました」
「一之瀬……。ああ~! 君か! ふむふむ、私にお願い、か……。うん、構わないよ。入りなさい」
ニコやかにそう言うと、ユリウスはシオンを部屋に招き入れた。
「──……丁度、食後の紅茶を淹れたところだったんだ。良かったら、一之瀬君も」
「すみません、ありがとうございます……」
来客用のテーブルにシオンを座らせると、ユリウスはティーカップに注いだ紅茶を提供した。
「なに、構わないよ。──それで、私にお願いというのは?」
ユリウスはシオンの向かい側に座り、紅茶を一口飲んでから話を切り出した。
「単刀直入に言いますが、──不法侵入事件の犯人として昨日逮捕された男に、会わせて欲しいんです」
「──! まだ部外者にその話は流れていないと思うが……。なぜそれを?」
「先ほど、ルドルフ学園長から伺いました。何か不都合があれば、申し訳ありません」
「ふむ、なるほど……。うん、別に構わないよ。遅かれ早かれ、生徒達も知る話だ。……それよりも、犯人に会って、一体どうするんだい?」
「……率直に言って、逮捕された男は何者かの指示を受けて犯行に及んだと俺は考えています。それが誰かを知る為に、直接話を聞きたいんです」
「ふむふむ……。なるほど。確かに、ただの薬物中毒の男の犯行にしては不自然な点があるものね。ただ、それは犯人に取り調べを行う捜査員に任せてもいいんじゃないかな?」
「それはその通りです。本来なら、ただの学生の俺が介入していいことじゃないのも分かっています。……でも、お願いします。俺を逮捕された男に会わせて下さい」
シオンは、力強い視線をユリウスに向けた。
「……。……うん、少し話しただけだが、君が聡明な人間なのはなんとなく分かった。断られるのは百も承知で、そういう風にお願いしているのも。……ついでに言うとね、一之瀬という生徒が犯人探しに奔走しているって話は、他の先生達から聞いていたんだ。だから、君が本当に真剣なのも伝わった」
「……」
ユリウスの言葉を聞きながら、目で訴えかけるように真っすぐな視線を向けるシオン。
そんなシオンに対して、ユリウスは……。
「……ただ、それらを全部分かった上で、それでもダメだ」
と、諭すように言いながら首を横に振った。
「なんとしてでも事件の真相を知りたいという君の気持は汲もう。ただ、君には悪いが、捜査に無関係な人間……、それも学園の生徒を、危険人物である犯人に会わせるなんてことは出来な──「──真犯人が分かります」
ユリウスの言葉を、シオンが遮った。
「……なんだって?」
終始穏やかな口調だったユリウスが、少しだけ神妙な表情を浮かべた。
「逮捕された男に会わせてくれたら……、俺がその男と話せば、絶対に真犯人が分かります」
「……大した自信だね? その自信に根拠があるのかい?」
「俺の言葉が本当かどうか、実際に逮捕された男に会わせてもらえたら分かります。──断言します。俺なら、真犯人を明らかに出来ます。それを可能にする特殊な力が、俺にはあります」
「……!」
それが揺るぎない確信であるかのように、シオンは堂々と言い切った。
普段は自分の話術や洞察力に基づくスキルをひからかしたりはしない彼だが、今回はそれを交渉のカードに利用するほど必死だった。
「……」
「だからどうか、お願いしますリードベルクさん。──俺を、逮捕された男に会わせて下さい……」
そう言うと、シオンは両膝に手を着いて深々と頭を下げた。
「俺は……、どうしても、真相を暴きたいんです……」
シオンの下がった頭に無言で目を向けていたが、その絞り出したような声を聞いて、ユリウスは観念したように口を開いた。
「……分かった。そこまで言うなら、一度捜査部隊に掛け合ってみよう」
「……‼」
バッと、シオンは顔を上げた。
その目には確かな希望が宿っていた。
「ただし……! 必ず会わせると約束は出来ない。それでもいいかな?」
と、ユリウスは念を押すようにシオンに言った。
「はい。それでも、十分です。ありがとうございます」
もう一度、シオンは深く頭を下げた。
それを見たユリウスは、やれやれと肩をすくめた。
「全く……。いいかい? 君が必死なのは分かるけど、保安機関も我々騎士団も、懸命に捜査をしているんだよ? だから、今後はくれぐれも早まったことはしないように。──まぁ、友達が死んでショックな君の気持も分かるけどね……。大体ね、私はこれでも騎士団ではかなり偉い立場なんだよ? そんな私に初対面でいきなりこんな風に──」
そのように、ユリウスは呆れたように笑いながら話をしていた。
……その瞬間──。
「──今……」
ザワッ……と、シオンの纏う空気感が変わった。
「……。……あの、リードベルクさん。一つ、聞いてもいいですか……」
「うん? どうしたんだい?」
その声は、直前までユリウスに感謝を表していた際のそれとは全く異なる、無機質な声色だった。
「──今回の事件が起きた日の夜、貴方は何をしていましたか?」
「ん? なんだい急に? その日は王都の自宅で一人で過ごしていたよ」
「……この学園には、いなかったんですか」
「うん、いなかったよ。その日はここでの授業はなかったから、そもそも来てないよ。それが、一体どうかしたのかい?」
ニコやかな顔を浮かべながら、ユリウスは不思議そうに尋ねた。
「……」
ドクッ、ドクッ……と、沸騰するように熱い血がシオンの全身を巡った。
テーブルの下で握り締めた拳から、太い血管が隆起した。
「……事件の夜、レスティア先生の研究室に行ったんですか」
込み上げてくる衝動をなんとか理性で押し殺しながら、シオンは言葉を紡いだ。
「え、ええ……? だから、その日は王都の自宅にいたよ? どうしたんだい、さっきから?」
グッ……と、シオンは視線を下げた。
まるで、それ以上ユリウスの顔を直視し続けると感情がコントロール出来ないかのように。
「……。……お前が、リリィを殺したのか……」
「……一之瀬君? 様子が変だよ? ……大丈夫かい?」
ユリウスは心配そうな口調でシオンに声を掛けた。
……その声が、益々シオンの感情を逆撫でた。
「……。……誰から聞いた……」
「……え?」
──『燃やされたのは、レスティア先生がとても大切に育てていた植物だったと聞いている……』
──『レスティア先生が大切に育てていた植物は、もう戻ってこないのかもしれないが……』
「俺がリリィの友達だと、誰から聞いた……? 普通、生徒と植物が友達だなんて思わないだろ……。そのことは、学園長ですら知らなかったはずだ……。俺とリリィが友達だった事を知っているのは、先生と、二人の生徒と、……リリィだけだ」
そうして視線を上げたシオンは、殺意に近い怒りを滲ませた声でユリウスに問いかけた。
「なぁ、答えろよ……。俺が納得出来る答えを言ってみろ……。──ユリウス・リードベルク……‼」
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ一之瀬君……! だ、誰から聞いたって、そんな……」
激昂した様子のシオンを前に、冷や汗を浮かべながらユリウスは弁明するように軽く両手を上げて、小さく左右に振った。
「そんな……、そ、そんなの、決まってるじゃないか……ッ! そ、それは……」
そして、焦ったような口調でそう言った直後……。
「──俺に焼き殺されると知った直後の、あの気持ち悪い花からだよ」
ユリウスが、歪な笑みを浮かべた。
「──……~~~ッッッ‼」
その瞬間、抑えつけられていたシオンの感情が爆発した。
「(限界加速──ッ‼)」
シオンはその場で勢いよくテーブルに乗り上がると、座っているユリウスの顔面へ向けて、腰を落として真下に振り下ろすような体勢で右の拳を振るった。
しかし、次の瞬間──。
パキッ……。
「──驚いたな。本気の私よりも速そうだ」
シオンの拳はユリウスの左手で受け止められ、肘の辺りまで氷漬けにされていた。
ユリウスは座ったまま、シオンの拳に触れている方とは反対の右手を使って涼し気に紅茶を一口飲んだ。
……無数の鋭い針が、肌の奥、骨の髄にまで突き刺さってくるよう激痛がシオンの腕を襲った。
凍り付いた腕は冷たいはずなのに、まるで皮膚の下で炎が這い回るような灼熱の熱さが感じられた。
しかし、シオンは腕を氷漬けにされた痛みなど意にも介さなかった。
理性を吹き飛ばす程の激しい怒りが、彼の肉体を支配していた。
シオンはもう一度限界加速を発動すると、テーブル上で後方に構えていた右足を勢いよく前に出し、ユリウスの顔面に向けて鋭い膝蹴りを繰り出した。
それは目にも止まらぬ程の、音速の襲撃。
しかし……。
──パキン……ッ!
「……‼」
ユリウスは再びシオンの攻撃を左手で軽く受け止め、今度は下半身ごと氷漬けにした。
そしてシオンが次のアクションを起こすよりも早くユリウスは左手をスッとかざし、シオンの残った左腕も凍らせた。
すると、シオンの凍った両腕は磁力によって引き付けられるかのように体の前で合わさり、手枷を嵌められたような状態で凍り付いた。
「……‼ 返せ……ッ‼ 返せよ、テメェ……ッ‼ リリィの命を返──……ッ‼」
両手両足の自由を完全に失ったシオンは怒りのままに声を上げたが、最後まで言い切る前にその口元は氷に覆われてしまった。
もはや口を開く事すら出来なくなったシオンだが……。
──彼は反撃の隙を見逃さないよう、余裕そうに紅茶を飲むユリウスに視線を集中させた。
……ふぅ、と、呆れたようにユリウスはため息を吐いた。
「この場で躊躇なく襲い掛かってくるなんてね……。私が自白する前の会話だけでよっぽどの確証を持ったようだが……。読心術の類か、あるいは極めて高精度の洞察眼か。何にせよ、うっとおしいな、君。……なるほど、それがさっき言っていた『真犯人を見つける力』か。そして、実際に真犯人を見つけた訳だ……。くくく……」
と、ユリウスは小さく笑いを溢した。
そして、ユリウスは冷たい視線をシオンに向けた。
「君に私を脅かすだけの力があるかはともかく……。その執念深さだけは警戒しなければね……。今、君の肉体は壊死しておらず、本来なら気を失う程の激痛に襲われているはずだ。私がそういう風に調整しているからね。……にも関わらず、まだ反撃を狙うその目……。大した精神力だ」
少しだけ不愉快そうにユリウスは呟いた。
「ぶっちゃけ、君みたいな目をした人間が一番面倒臭いんだよなぁ……。やっぱり、早めに消しておいた方が良かったのかもな? あのクリフ・ワイルダーを倒した得体の知れない生徒が、この事件を嗅ぎ回っていると知った時点で……。……うん、そうだな」
そう言うと、ユリウスは今度は急にケロリとした態度で口を開いた。
「よし、決めた。──一之瀬シオン、私と決闘しよう」
「……‼」
ユリウスから放たれたその思いがけない一言に、シオンは一瞬目を見開いた。
シオンのリアクションは気にも留めず、ユリウスは言葉を続けた。
「君と同じような目をした人間を何度か見ているから、知っているさ。それは殺したいほど相手を憎んでいる人間の目だ。──そこで、どうだろうか? 私が運営に協力している、とある裏闘技場があるんだ。狂った富豪達が集まる、違法で過激な娯楽施設さ。三ヵ月後、そこでのメインイベントで私と君で殺し合おう。……ああ、もちろんハンデは付けるよ? 君がこの提案に納得出来るようにね。私は一切の武器や防具を持ち込まないが、君は何を持ち込んでも構わない。武器も、防具も、爆薬でも毒でも、文字通り何でもだ。それなら、この私が相手でも勝てるチャンスがあると思わないかい? そこでの殺人沙汰は完璧に隠蔽してくれるから、安心してくれて構わないよ。どうだい? 願ってもないシチュエーションだろう? 復讐も出来て、王国の騎士を殺した罪にも問われないなんてさ。そして、それが理想的なのは私も同じだ。君みたいな執念深そうな人間にいつまでも狙われるんじゃたまったもんじゃないし、お互い合意の上で殺し合うのが一番手っ取り早いからね。無駄なリスクも負わずに済むし、わざわざ事後処理をする手間も省きたいんだ」
お互いに殺し合う──そんな常軌を逸した提案を、ユリウスはつらつらと語った。
王国騎士団の中で責任あるポジションに立つ人間が違法な闘技場の運営に協力しているなど、本来は絶対にあってはならないこと。
もしも事実が公になればユリウスは途端にその輝かしい立場を失い、一転して犯罪者に成り下がるような所業。
しかし、もはやそんな事など隠す気もないかのようにユリウスは平然と提案してきたのだった。
「ああ、一応言っておくけどね? もし決闘を拒んで告発なんかをするのなら、私はリナ・レスティアの全てを奪って道連れにするよ。それだけの憎しみが、彼女に対してあるからね。……ただ、君が決闘を受け入れるなら、その日までは彼女に手は出さないと約束しよう。……君ならお見通しなんだろう? 私が言っている事が、ただの脅しかどうか」
「……」
その一瞬だけ、シオンにはユリウスの目を通して彼の中の闇が垣間見えたような気がした。
「それじゃあ、君も決闘に合意ってことで構わないね? 三ヵ月後の、確か……、そうそう、二週目の金曜日だ。詳細な場所は君に分かる形で追って伝えるよ。言わなくても分かってるだろうけど、それまでは下手な言動は避けた方がいいと思うよ。私が何をするか分からないからね。くすっ」
そういうと、ユリウスは椅子から立ち上がり、テーブルの上で氷漬けになっているシオンを放置して出入口の扉に手を掛けた。
「……じゃあね、一之瀬シオン君。これから授業があるから、私は先に失礼するよ。その氷はあと少しで消滅するから、解放されたら勝手に帰ってくれ。鍵は開けておくからさ」
チラリと、シオンに一瞥をくれたユリウス。
「(あのクリフ・ワイルダーを倒したなんていうから、どんなものかと思えば……)」
そして、シオンをその場に残すことに対して一つも不安要素などないかのように軽い足取りで廊下へ出ると、ユリウスはこれから授業を行う演習場へと向かった。
それはまるで、シオンがユリウスの言葉に従うと確信しているかのようだった……。
◆
──ごめんな、リリィ……。
──情けないよな、俺……。お前を殺した男が目の前にいても、ぶん殴ってやることすら出来なかった……。
──でも、安心してくれ。
バキィン……ッ。
音を立てながら、シオンの身体を拘束していた氷が砕け散った……。
「(──お前の仇は、俺が必ず討つから)」




