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51. 次鋒戦

 


 ──「直接戦えば、必ず俺が勝つ」。


 ロイド=シグルズは、アルフォンス=フリードに対して常々そう思ってきた。



 ジーク=フリード誕生以前に属家を別けたシグルズ家の人間は、フリード家の人間と異なり大英雄の直接的な血を受け継いでいない。


 故に、シグルズの家系もフリードの家系と同様に騎士としての大きな戦果を挙げてきたが、結局は「()()()()()()()の分家」に過ぎないという認識を世間から受けている。


 フリードの家系は代々桁外れの魔力を保有し、シグルズ家の人間よりもパワーや剣術に秀でている。


 そして、アルフォンス=フリードはそんなフリード家の中でも特別優れた才覚を持っており、その魔力量、魔術の才、パワー、剣の腕は、一度彼の鍛錬を覗き見ただけのロイドにも圧倒的な差を感じさせる程だった。


 しかし、大きな能力の差はハッキリと分かったものの、それでもロイドは自分がアルフォンスに負けるとは思わなかった。


 何故ならば、ロイドには人並み外れた加速魔術の才能があったからである。


 どれほど強力な魔力を持っていようと、どれほど怪力であろうと、どれほど剣の腕が優れていようと、どれだけの攻撃魔術を扱えようと、「攻撃が当たらなければ、何の意味もない」──それが、ロイドの持論だった。


 アルフォンスは間違いなく強い、だがしかし、自分の方が圧倒的に速い。


 相手の攻撃を全て躱し、逆に自分の攻撃を一方的に当て続ければ、負ける事など有り得ない。


 故に、「直接戦えば、速度で上回る俺が必ず勝つ」と、ロイドはアルフォンスに対して思ってきた。



 自分の名前を名乗れば、「シグルズ……ああ。あのフリード家の()()の」と言われ、世間からは、常にシグルズ家よりもフリード家に注目が集まる。


 その事に、ロイドは昔からずっと苛立ちを覚えていた。


 更には、先日のクロフォード魔術学園に黒殲龍が現れた際にアルフォンスが撃退して以来、「やっぱりジーク=フリードの子孫は凄い!」と、騎士学園の周りの生徒までアルフォンスを持ち上げる始末。


「いずれ機会が訪れたら、必ず俺の方が強い事を証明してやる。世間の馬鹿どもに、フリード家に、目にモノを見せてやる」


 と、ロイドはどす黒い闘志を燃やしていた。



 そして、その機会は──……



『      次鋒戦


 KNIGHT  第二学年Aクラス ロイド=シグルズ


 MAGICIAN 第二学年Aクラス アルフォンス=フリード  』




 ()しくも、騎士学園と魔術学園の学園対抗戦にて巡ってきた……。



 ◆ ◆ ◆



 先鋒戦終了後、アルフォンス=フリードは選手控え室の隣にある準備ルームを訪れていた。


 準備ルームに用意されている武器や防具の中から自身が使用する物を選んで試着し、軽く動いて使用感を確認するアルフォンス。


 数種類の防具を試着した後、試合で使用する防具を決めて装着した。


 そして、彼が滑り止め用のグローブを着用し、ロングソードの柄を握ってグリップ感を確認しているタイミングで、準備ルームの扉が二回ノックされた。


「フリード君、そろそろ次鋒戦が始まるそうだ。準備が出来たら、入退場口に向かうように」


 扉の向こうから声を掛けて来たのは、学園対抗戦で魔術学園の監督を務める教員だった。


「分かりました」


「頑張ってくれ。期待しているよ」


 扉越しにアルフォンスの返事を確認すると、そう言い残して教員はその場を離れていった。


「……はい」


 教員に聞こえていない事は分かっていながらも、アルフォンスはそのように口にした。


 だが、その声色にはどこか自信の無さが孕まれていた。


 アルフォンスの脳裏にこびり付いて離れないのは、先日魔術学園を訪れた際に見せ付けられた、ロイド=シグルズの超スピード。


 あの時、能力を強化する類の魔術を使用していなかったとは言え、アルフォンスはロイドの動きを視界に捉える事さえ出来なかった。


 勿論、アルフォンスは一切の余念なく対抗戦に向けた鍛錬を重ねてきたつもりである。


 しかしそれでも、アルフォンスはロイドの速度に対応出来るかどうか、未だ確固たる自信を持てずにいた。


「(いや……、弱気になるな……!折角ユフィアさんが大きな一勝を獲得してくれたんだから、僕もそれに続くんだ……!!)」


 己を鼓舞して立ち上がると、アルフォンスは目を閉じて大きく息を吸った。


「スゥー……。……ハァ。………よしっ!」


 そして、力強く目を開くと、アルフォンスは一本のロングソードを手に準備ルームを後にした。


 すると、入退場口へ向かう通路の途中で、よく見知った人物の姿がアルフォンスの目に映った。


「あれ……、シオン君?」


「よう」


 アルフォンスを待っていたように通路に立っていたのは、彼の友人の一之瀬シオンだった。


「どうしたんだい、こんな所で?」


「お前に、一つだけ言っておきたい事があってな」


「僕に?」


「ああ」と、シオンは頷いた。


「……アルフォンス、お前さっきのユフィアの試合は見たか?」


「え?あぁ、勿論。中継映像を選手控え室で見てたよ。彼女、凄かったね。正直あれは次元が違うよ」


 アルフォンスは先程見たユフィアの試合を思い出し、そのあまりに衝撃的な実力に対して率直な感想を述べた。


「……あぁ。そうだな」


 アルフォンスの言葉に対して、シオンはどこか自分の事のように嬉しそうな顔を浮かべながら頷いた。


 しかし彼は、「でもな、アルフォンス」と言葉を続けた。


「俺はあの日、黒殲龍と戦うお前を見たが、あの時のお前は()()()()()()()()()()()ぞ」


「!」


 シオンは、決してお世辞の(たぐい)を言っている訳ではない事がアルフォンスにも伝わった。


「この間あのロイドって奴の動きも見た俺には分かる。お前の()()()()()なら、ロイド(あいつ)じゃ相手にもならないだろう」


「………っ」


「お前が勝つ事は分かりきってる事だ。今更、そんな事は心配してない。……でも俺は、お前がロイド(あいつ)に舐められたままじゃどうしても腹の虫が治まらないんだよ」


「だから──」と、シオンは続けた。



「勝てよ、アルフォンス。思いっきりぶっとばしてやれ」



 と、力強い眼差しと共にアルフォンスに拳を向けた。


 ──ドクンと、全身の血管が、己の身体を揺さぶる程に力強く脈打ったのをアルフォンスは感じた。


「(………不思議だ)」


 先程まで、焦りや不安から必死に目を逸らし、どうにか己を鼓舞しようとしていたアルフォンス。


「(さっきまで、ロイドのスピードに追いつけるかどうか、とか、そんな事ばっかり頭に浮かんでいたのに……)」


 自身の胸元に視線を向け、胸に手を当てるアルフォンス。



「(───今は、全然負ける気がしないッ!!)」



 今の彼の胸の内には、溢れんばかりの自信が沸き上がっていた。


 彼は胸に当てた手を握りしめ、ニカっと笑みを浮かべながら、力強く頷いた。


「ああ……!……勿論、勝つよ!!」


 アルフォンスは瞳に力強い光を宿らせながら、トンっと、向けられていたシオンの拳に自分の拳を当てた。



 ◆ ◆ ◆



 あまりに衝撃的な先鋒戦の結末を迎え、大勢の観客が言葉を失っていたが、次鋒戦が始まる前には会場はすっかり熱気を取り戻していた。


 それもその筈、アルフォンス=フリードは今や両学園共にしらぬ者など存在しない超有名人。


 ただでさえ大英雄ジーク=フリードの子孫としてのネームバリューを持っているにも関わらず、魔術学園史上3人しか存在しない"S級魔術学生"の一人であり、

 更に、魔術学園に凶暴なドラゴンが襲撃した際に撃退し、大勢の生徒を守り抜いたヒーローとしても話は伝わっている。


 今回の学園対抗戦において、最も注目度の高い選手がアルフォンス=フリードであった。


 そして、その対戦相手であるロイド=シグルズもまた、この試合に対する観客らの注目度を引き上げている。


 大将戦ならまだしも、ただの次鋒戦でフリード家の選手と知名度の低い家系の選手が対戦するとなれば、「(ほとん)ど結果の見えている面白みのない試合」として、観客らの熱は冷えていただろう。


 しかし、シグルズ家は騎士の家系として王国内屈指の知名度を誇り、更にはフリード家の分家としても広く知られている。


 故に、次鋒戦ではあるものの、名門同士、そして同じ一族同士が学園対抗戦で衝突するというドラマチックな展開は、ただそれだけで観客を大いに沸き立てた。


 また、観客が盛り上っているのは、ただ単純に「実力が気になる」「結果が気になる」というだけの理由ではない。


 魔術学園の生徒達にとって、アルフォンス=フリードは今や自分達の誇りのような存在であり、学園に高い栄誉をもたらすヒーローと言っても過言ではない。


 そんなアルフォンスに心からの声援を送るのは、魔術学園の生徒にとっては必然的な事だった。


 学園内には彼の熱狂的なファンも多く、アルフォンス=フリードの名が刺繍された大きな旗を観客席でぶんぶんと振り回し、「負けるなああああ!!!アルフォンスううううう!!!オラァてめぇら!!もっとアルを応援しやがれぇ!!!!」と熱烈な声援を送る者までいる。


 ちなみにそれはテッド・エヴァンズという名の、アルフォンスと同じクラスの男子生徒であった。


 そして、熱烈な声援を受けているのはアルフォンスだけではない。


 ロイドもまた、騎士学園の生徒達から熱い応援の声を浴びせられている。


 彼の学友は、ロイドが常々「自分はフリードよりも強い」と豪語している事、そして、「本当にそうかもしれない」と思わせる程の能力を有している事を知っている。


 タイソン・エストラーダの防御力同様、試験官によって「こいつのスピードは異常」と評価されたロイドの成績のスピードの評価は"S"。


 そんなロイドならば、S級と言われるアルフォンス=フリードに対しても決して引けを取らない筈だと、騎士学園の生徒達は多大な期待を寄せている。


 そんな騎士学園の生徒達は、ついに訪れたロイドの「打倒フリード家」の機会に対して、魔術学園側に負けじと惜しみの無い声援を送った。


 先鋒戦で一度消沈した観客席のボルテージは、再び最高潮へと達していた。



 ◆



 肩当や兜などは不要と判断して装着せず、最軽量かつ最低限の鎧を身に纏い、刃渡り80cmの両刃のロングソードを手に持つロイド=シグルズ。


 強化繊維の戦闘着の上に鉄製の篭手(こて)脛当(すねあて)を装着し、ロイドと同じロングソードを握るアルフォンス=フリード。


 20メートル程の間隔を空けて闘技場のフィールド内で二人が向き合う中、アナウンスが響いた。


「──それでは、学園対抗戦第二試合、次鋒戦を開始します」


 そのアナウンスに合わせて、ロイドは右足を引いて腰を低く落としながら剣先を斜め後ろに構え、アルフォンスは顎を引き、左足をやや前に出しながら中段に構えた。


 そして一呼吸置いた後、ついに───。



「試合……、───開始ッ!!」



 場内に、次鋒戦開始の合図が告げられた。


 ──まず真っ先に動き出したのは、ロイドだった。


 彼は開始の合図と同時に加速魔術「魔力加速(アクセラレーション)」を発動し、目にも止まらぬ速さで一気に20メートル近い距離を詰めた。


 アルフォンスが魔術で遠距離攻撃を行う可能性も十分にあったが、「超高速移動を行う自分に魔術による攻撃を当てる事は困難だろう」とロイドは確信を持っていた。


 もし仮にアルフォンスが魔法陣を展開して攻撃魔術を繰り出すようであれば瞬時に回避する事も可能だったが、アルフォンスは剣を構えたまま動かなかった為に回避行動を取る必要もなく、ロイドは直線的に一気に距離を詰めた。


 そして剣の間合いに入ると、ロイドは一瞬アルフォンスの身体の真左側にステップインしたかと思えば、一気に速度を引き上げて逆の右側へと移動し、右回りでアルフォンスの真後ろへと回り込んだ。


 その間、ゆっくりと流れるようなロイドの視界に映っていたのは、正面を見据えたまま一切ロイドの動きに視線を向けないアルフォンスだった。


「(ハッ!フェイントに気付いてさえいないようだなぁ!?ほんと、お前はトロ臭いなぁアルフォンス!!)」──と、ロイドは内心でほくそ笑んだ。


「(何が黒殲龍を倒しただ!!何が英雄の子孫だ!!思い知れアルフォンス!!思い知れフリード!!これが俺の真骨頂(スピード)だ!!)」


 未だロイドが動き出した事にさえ気付いていないかの様に、正面に剣を構え続けているアルフォンス。


 そんな彼の肩口に向けて、ロイドは真後ろから剣を振り下ろした。


 そして、ロイドの振るう刃が確実にアルフォンスの戦闘着を斬り付けると彼が確信した、───その瞬間。



 ガキィンッ、と鋭い金属音を鳴らし、アルフォンスが剣でロイドの剣を受け止めた。



「────なッ!?」



 刃が戦闘着に触れるほんの寸前まで正面を向いていた筈のアルフォンスが、一瞬にして真後ろにいた自身の方へ向いた事に驚愕の表情を浮かべるロイド。


 動揺して一瞬動きが止まったものの、直ぐに持ち直してフェイントを交えながら再びアルフォンスの真後ろに回った。


 が、しかし。


「ッ!!」


 今度はロイドの動きを完璧に追うように、彼の動きの軌道に合わせてアルフォンスは身体の向きを変えた。


「(こっ、こいつ……ッ!!)」


 ロイドは、苦々しい表情でアルフォンスを睨みつけた。


「(俺の動きに、追いついていやがる……!!)」


 ロイドは更に速度を上げ、右方向、アルフォンスの真横に身体を潜り込ませ下から脇腹を切り上げるように剣を振るったが、いとも簡単に防がれた。


「(クソッ、馬鹿なッ!!たった二週間前は俺の動きに到底追いつけなかった筈なのに!!)」


 受け入れ難い現実に顔を顰めるロイドだったが、ふと、アルフォンスの姿に違和感を覚えた。


「(な、なんだ?アルフォンスの身体から出てる……金色の、炎……?)」


 ロイドが気付かぬ内に、アルフォンスの全身は、燃ゆる炎のように揺らめく()()()()に包まれていた。



 ◆



 学園対抗戦の二週間前、魔術学園を訪れたロイドは、魔術本を手にシオンと共に図書館へ向かおうとするアルフォンスに対して、

「対抗戦二週間前になって、お勉強会だ?それも、C級なんかと?随分余裕ぶってんじゃねぇかよ、ああ?」

 と、アルフォンスの怠慢(たいまん)を指摘した。


 しかし実際は、アルフォンスは対抗戦の前に余裕を持っていた訳でも、準備を怠っていた訳でもない。


 あの時アルフォンスが持っていた魔術本に書かれた魔術を扱えるようになる事こそ、アルフォンスの対抗戦に向けた下準備だったのだ。


 アルフォンスが持っていた古い魔術本に書かれたいたのは、「金龍の炎纏(オール・ドラグネス)」と呼ばれる、黄金のドラゴンの血を引く竜人族が一族固有の魔力を増強する為に使用していたとされる、1000年以上も昔の魔術。



 終焉の黒殲龍(シュヴァルディウス)と戦った時に、アルフォンスの全身には突然金色の光が(あらわ)れた。


 その光を身に纏っている間、アルフォンスは自分でも信じられない程の魔力と力が沸き上がっている事を実感した。


 ……しかし、その後何度も再現を試みたが、黒殲龍と戦って以降、アルフォンスが自らの意思であの金色の光を身体を(まと)う事は出来なかった。


 そこで、アルフォンスは本家に戻った時に書庫で見つけた「金龍の炎纏(オール・ドラグネス)」と呼ばれる魔術こそ、再びあの金色の光を身に纏う鍵であると考えた。


 故にアルフォンスは、底なしと思える程の魔術に関する知識量を持つシオンの知恵を借り、その魔術本の欠落したページに書かれた術式を解明し、対抗戦までに完成させようと決めたのだ。


 シオンとの研究会を行ったところ、膨大な可能性の中から欠落した部分の術式の候補をシオンが13通りに絞り、アルフォンスは研究会の後、その13通りの術式を魔法陣の欠けている部分に当てはめて発動を試みた。


 すると、12通りの術式を当てはめても魔法陣は何の反応もなかったが、1通りだけ魔法陣が光る術式があり、僅かな反応を見せた。


 結局、その当てはめた術式では不完全だったが、アルフォンスはそこから自分なりに術式を変化させながら何百パターンも試した。


 早朝も放課後も、寝る時間を削って一週間ほど試行に時間を費やした末、ついに、アルフォンスは自らの意思で金色の光を身に纏う事に成功した。


 黒殲龍と戦った時と比較するとごく薄い光ではあったが、それでもアルフォンスは自分のあらゆる能力が大幅に上昇している事を実感した。


 そして、対抗戦までの残りの一週間で実戦で使用可能なまでに仕上げたのだ。



 ──そんなアルフォンスは、ロイドとの試合において、「金龍の炎纏(オール・ドラグネス)」を発動し、全身に金色の光を纏った。


 金色の光の強さは能力の強さに比例し、練習期間は光の強さにかなりのバラつきがあったが、この日のアルフォンスが身に纏った光は、黒殲龍と戦った時に迫る程、習得以来(いらい)最大の輝きを放っていた。



 ◆



「(クソッ……!!こうなったら……!!)」


 自身の速度に追いつくアルフォンスを引き離すべく、ロイドは更に魔力を消費させ、「魔力加速(アクセラレーション)・セカンドギア」を発動させた。


 魔力消費と肉体が疲弊する時間が早まるが、どの道長期戦になれば魔力保有量の多いアルフォンスが圧倒的に有利。


 故にロイドは、早期決着を急いだ。


 剣術ではアルフォンスが上回るものの、剣速では自分が上回る筈──、そう考えたロイドは手数で勝負するべく、ひたすらに剣を振るった。


 が、しかし。


「(ば、馬鹿な……ッ!?)」


 アルフォンスは、超高速で繰り出されるロイドの剣を全て防ぎ続けた。


「(ウスノロのアルフォンス(こいつ)に、俺の剣が見切れる筈がない……ッ!!このまま、負ける訳にはいかない……!!!)」


 剣戟を重ねる程、ロイドの中で焦燥感が増していく。


 「(これなら、どうだ……!!)」


 ──魔力加速(アクセラレーション)・トップギア……!!


 ロイドは、自身最速の加速魔術を使用した。


 あまりにも魔力の消費が激しい為、使用出来る時間は20秒にも満たない。


 しかし、その分セカンドギアとは桁外れの加速を行う事が可能となる。


 セカンドギアでさえ動きに追いつかれる現状では、ロイドはもはやトップギアを継続出来る僅か数秒に賭けるしかなかった。


 グンっと、まるで何かに押されるように自分の動きが格段に加速するのをロイドは実感した。


「(いける……、いけるぞ……!!)」


 ロイドは、瞬きの間に行われる無数の剣戟の中、自分の剣速が、ついにアルフォンスの動きを上回っている事を実感した。


 ───そして、次の瞬間。


「(──ここだッ!!)」


 打ち合いの中、アルフォンスの上体に見えた僅かな隙に向かって、ロイドは本日最速の突きを放った。


 それは、そこ以外には有り得ないと言える程のタイミングの、完璧な突きだった。


 まるで静止したような空間を切り裂きながら、ロイドの剣の切っ先がアルフォンスの上体に迫る。


 そして、今まさにロイドの剣がアルフォンスに触れると思われた、───その瞬間。


 アルフォンスは、ロイドの目の前から姿()()()()()


「………ッッ!!!」


 ブンッと、ロイドの突きは何もない空間を突き刺した。


「───こっちだよ、ロイド」


「ッ!!」


 姿を消したアルフォンスの声が()()()から聞こえ、ロイドは考えるより速く、円を描くように剣を後方へ振り抜いた。


 が、しかし、声が聞こえた筈の後ろには何も存在せず、ロイドは剣を空振らせた。


 それは、まるでいつかの意趣返しのようだった。


「………っ!!」


 ロイドがまたもや自分が空を斬っただけだった事に気付いた直後に、もう一度真後ろから、ザッ、と地面を踏みしめる音が聞こえ、ロイドが急いで振り返ると……。


「!!」


 ───そこには、腰を落としながら剣を後方へ振りかぶり、そして、目が眩む程の()()()()()()()宿()()()()アルフォンスの姿があった。



 ───「(この力は、決して僕一人では手にする事は出来なかった)」



 ──「(この力が無ければ、もしかしたら僕はロイドには勝てなかったかもしれない……)」


 ──「(だから、この勝利は、()()()()の勝利だ)」




『勝てよ、アルフォンス。思いっきりぶっとばしてやれ』




 ──「(……ああ。分かってるよシオン君。見ていてくれ。……これが──)」



 後方へ振りかぶった剣を、アルフォンスは目を見開くロイドへの胴体へ向けて、薙ぎ払う様に振りぬいた。



「(君が、僕にくれた力だ───!!!)」



 ───栄光(スパーク)の煌き(ル・エーレ)



 アルフォンスの剣から放たれた金色の光の刃は、ロイドの胴体へと炸裂した。


 それを受けたロイドは、そのまま遥か後方まで吹き飛ばされ、ドゴォン!という轟音と共に結界の壁に叩きつけられた。


「がっ……ハッ……」


 結界の効果でダメージが大きく緩和されているにも関わらず、緩和される分の威力を大きく超えた衝撃を受けたロイドは気を失い白目を向けながら地面に倒れ込んだ。


 そして、彼の鎧の左胸部に付いていた水晶は緑から赤色に変わっており、試合の勝敗が決した。


 それを係員が確認した後、闘技場内にアナウンスが流れ、試合結果(リザルト)もボードに映し出された。



「勝負ありッ!!勝者、魔術学園!!」



『 WINNER アルフォンス=フリード 』



 アナウンスの後、会場内には大歓声が沸きあがった。


「す、すげええええぇ!!!」

「あまりに凄すぎて、何が起きたのか分からなかったぜ……」

「二人の動きが、全く見えなかった……」

「よっしゃああああああ!!!」

「よくやったアルフォンスううううう!!!」

「ロイドも凄かったぞおおおおお!!!」

「アルフォンスうううううううぅ!!!!お前が世界一だあああああぁあぁぁ!!!!」


 代表が勝った魔術学園は勿論、騎士学園もまた、とても目では追いきれないハイレベル過ぎる試合を行った両者に賞賛の拍手と歓声を上げた。


そんな大歓声を聞きながら、アルフォンスは観客席のどこかにいるであろう親友の姿を思い浮かべる。


「(……シオン君、君が背中を押してくれるなら、僕は誰にも負ける気がしないような、そんな気がしてくるんだ)」


 試合終了後、暫くしてアルフォンスが観客席に向けて拳を上げると、更に一際大きな歓声が上がった。


「(だって君は、僕にとって最高の親友で、そして……)」



「(───僕にとっての、ヒーローだから)」



 ───こうして、クロフォード魔術学園は先鋒戦に続く白星を獲得し、学園対抗戦の勝利まで、残り一勝となった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] すき!
[気になる点] 魔法学園の生徒なのに身体能力高くて剣もつかえるアルフォンスって珍しいんですか?それともある程度の強さの魔法使いは肉弾戦も出来るんですかね [一言] 騎士と魔法使いの試合はルールが難しい…
[良い点] あの時の本 ビリビリにされてなくて良かった… [一言] 結界つえぇぇ! 量産品の剣で放ったとはいえ竜殺しに用いようとしたスパークルエーレを胴体ちぎれない程度にまで抑え込むとは …アルフォ…
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