始まりの旅路
人気のない山の中を歩く。
先頭の女の歩みは速く、険しい山を歩くときも平野を歩くときも何も変わらない。
一見すると急いでいるようには見えない。
しかし、一緒に歩くと風のような速さで歩いているのがわかる。
旅が始まった二ヶ月前はついていくことができなかった。
しかし、夜になってもあきらめずに歩くと、女が不思議と待っているのだ。
「ライト、メイ。今日はここで野宿をしましょう。」
思い出にふけっていると先頭の女の透き通った声をかけてくる。
「承知しました。レティシア様。」
後ろにいる自分と同い年の少女が幼さの残る声で答える。
少女は答えると同時に周囲に魔法で魔物除けの結界を張る。
「火をおこす。」
俺は短く返事すると周囲の薪を集めて、火おこしの準備を始める。
旅が始まってからのいつもの役割だ。
魔法のアイテムで火をつけた後は、食事をする。
歩いている間に飛礫でとったウサギの皮をはいでから、火にあぶる。
三人とも料理ができないので、味付けはしない。
焼いたものをそのまま食べる。
当然、味はしないが慣れてしまった。
「この山脈を抜ければ、トニトルス国を抜けてモンス国に入ります。
しばらく、故郷を見ることはないでしょう。」
レティシアがおもむろに呟く。
「姉妹は幸い、災害を逃れて他国にいる。
父と母を弔うことができないのが心残りだが、今の我々には何もかもが足りない。
今は、生き残ることを優先しよう。」
いつも自分に言い聞かせている言葉を投げかける。
「心中お察しします、王子。」
「メイ、元王子だ。俺はただの旅人に過ぎないよ。」
そういうとメイは悲しげな表情を浮かべてしまう。
それ以上はなんと声をかけていいかわからず、三人で味のしないウサギを食べる。