表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/20

#9

 試験が終わってから数日後、私は訓練室で自主練をしていた。

 

「うん。最近は結構調子いいかも」

 

 流れる汗をベンチに置いてあるタオルで拭きながら、ふと周りを見ると誰もいなみたい。

 

「――あれ? おかしいな」

 

 時計を確認してみると、就寝時間まであと10分といった時間が迫ってきている。

 

「あっ、もうこんな時間」 

 

 あちゃ~、練習に集中しすぎて時間を確認するのを忘れていたみたい。

 寮長さんは時間にしっかりとした人だから早く戻らないとまた怒られちゃう。

 この前も2分帰りが遅かったからって2時間も正座させられちゃったんだよね。

 ――エミリーちゃんが。


 なぜかルームメイトも連帯責任って事になって私まで付き合う羽目になっちゃったんだけど。


 う~ん。さすがにシャワーを浴びてると時間が厳しいかなぁ……?

 ええい、仕方ない今日はこのまま戻る事にしよう。

 ――私は荷物を全てカバンに押し込んで訓練室を飛び出した。

 

 街灯だけが照らす真っ暗な夜道をひたすらに走る。

 夜遅い為か他の生徒の姿は1人も見当たらない。

 

「さ、さすがに何か出てきたりとかしないわよね」 

 

 突然後ろの茂みからカサカサと音が聴こえたので振り返る。

 

「ひゃうっ!?…………って、なんだ風か~」

 

 夜の風に茂みが揺れているだけで何者かが潜んでいると感じるのは何でなんだろう。

 実際あんなに小さな場所に何かが隠れていたらすぐに解るのにね。

 ――今度は反対側の方からまたカサカサと茂みが揺れているような音が聴こえてきた。

 けど、もう慣れてしまったので怖くはない。

 私に同じ技は2回も通用しないのだ。

 

「さてとっ、何も居ないんだし早く帰らな………いっ!?」  

 

 私が振り返ると、茂みで何やら白い物体が動いているのが見える。

 

「――ポコォ!?」

「えっ!?」

  

 白い物体は奇妙は鳴き声のような物をあげながら私に向かって襲い掛かってきた。

 

「ぎょえ~~~っ」

  

 私は何が起こっているのか理解出来ないままショックで気絶した。

 私が再び目を覚ましたのは、なかなか帰って来ないのを心配した寮長さんが私を探しに来てくれた時でその時には白い物体は何処にも見当たらなかった。

 私は腰が抜けて立てなくなってしまっていたので、訳の分からないまま寮長さんに肩を借りながら寮へと帰って行った。

 ――そして。

 

「エミリー見たいアニメがあったんだけどぉ」

「えっと……その……ゴメン」

 

 エミリーちゃんは頬を膨らませながらツーンとそっぽを向いてしまった。

 あれから私は無事に帰る事が出来たんだけど気絶しちゃってたから門限に間に合うはずもなく、こうして連帯責任で正座をさせられてしまっている。

 時間も遅かったし次の日がちょうど休日だった事もありペナルティは明日って事に決まって今日を迎えたのだった。

 

「もぅ。ひかりのせいで休日なのに全然休めてないわ」

「もうちょっとだから後少しだけ頑張ろ? ほらエミリーちゃんも少し前に門限破ったんだし、これでおあいこって事で」

「あら? そんな事あったかしら?」

「……え!?」

「エミリーそんな昔の事は覚えて無いの。あ~もう、ひかりのせいで足がしびれる~」

 

 ……まったく、この娘は自分に都合の良い事しか覚えていないのだろうか。

 

「ほらそこ。足が崩れているぞ!」

「――あ、寮長さん」 

「エミリーもう疲れちゃったんだけど、そろそろ終わりにしない?」

「駄目だ。悪いがこれも規則なんでな、他の生徒の規律の為にもあと30分我慢してもらうぞ」 

「ぶ~ぶ~。エミリー悪くないのに~」

「……何か言ったか?」

「なんでもありませ~ん」

「ならいい。ではまた30分後に様子を見に来るのでそのつもりで」

 

 去っていく寮長さんの後ろ姿にエミリーちゃんは舌を出してベーとしていた。

 

「エミリーあの人の事嫌いだわ。きっとエミリーが凄いから意地悪しているのね」

「ま~ま~。あれも寮の事を思ってしてるわけだし、悪気は無いと思うよ?」

「どうかしら? あ~もう。試合で当たったら絶対にギッタンギッタンにしてやるんだから」

「ギッタンギッタンって……」 


 寮長さんは3年生で私達は1年生だから今のカリキュラムだと直接試合を組まれる事は無い。

 

 あるとしたら本校に行く時の選抜試験なんだけど、そこに出場する為には学年で上位の成績を取らなくちゃいけない。

 まあ現在1年生のランキング1位のエミリーちゃんなら出場は確実なんだけど、私が出場する為にはもっと頑張って今の校内ランキングを上げなくちゃいけない。

 

「けど寮長を任されるくらいなんだし、きっと凄い実力者なんだと思うよ?」

「ふんだ。それはエミリーが3年生にいないからよ。ひかりもそう思うでしょう?」

「えっと、それは……」

 

 ここは何て答えれば良いんだろうか。

 

「あっ、ひかりこんな所にいたのね――って、いったい何してるの?」

「あ、理沙ちゃん」

 

 私が返答に困っていると理沙ちゃんがやってきたのでこうなった経緯を説明した。

 

「そうだったの。実はちょっと頼みたい事があったんだけど――立て込んでるみたいだしまた今度でいいわ」

「何かあったの? ペナルティはあと30分で終わるし良ければ私達も手伝うよ?」

「私達? エミリーは忙しいから無理よ」

「……録画したアニメ見るだけでしょ」

「あっ、別にいいの。ただサンサンが大切な物を無くしたって言ってたから探してるだけ」

「サンサンが?」

「ええ、白いボールのような物を探してるって」

「……白い……ボール? ああああ」

「急にどうしたの?」

「理沙ちゃん。私それ昨日の夜に見たかも」

「本当?」

「あれは確か第1訓練場からこの寮までの間だったと思う」

「そうなの? じゃあ私はそのルートを探してくるわ。ひかり、ありがとね」

 

 理沙ちゃんはお礼を言うと走って外に出ていった。

 

「何か面白そうな事をしているみたいね。楽しそうだしエミリーも手伝ってあげるわ」

「いいの? まあ人手は多い方が良いだろうし、これが終わったら一緒に理沙ちゃんと合流しよっか」

「そんなの待っていられないわ。先に行くからひかりはエミリーの分も正座お願いね」

「……え、ちょっと」

 

 エミリーちゃんは楽しそうに外へと出ていってしまった。

 ――30分後、帰ってきた寮長さんに理由を話すと私が追加でエミリーちゃんの分も正座を続ける事になって結局1時間後に私は理沙ちゃんと合流する事になったのだった。

 

「――いててっ」

 

 立ち上がろうとしたら急に足に激痛が走る。

 長時間正座をしていたせいでかなり足がしびれてしまったみたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ