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#8

 私は競技の日まで理沙ちゃんと一緒に訓練をひたすら続けていた。

 そして、遂に本番の日が明日へとせまって来ちゃった。

 

「ひかり。よくこれまでの特訓に耐えてきたわね」

「うん、理沙ちゃんと一緒だったから何とか頑張れたかな」

 

 私自身も最初の頃と比べてかなり実力が付いているのを感じる。

 今なら理沙ちゃんに勝て――――るまではいかなくてもいい勝負くらいは出来そうな感じはする。

 

「それじゃあ、ひかり。最後に上まで勝負しましょうか?」

「そうだね。――ふっふ~、昔の私と同じだと思ってたら後悔しちゃうよぉ~」

「私もひかりと一緒に特訓してたんだし逆に差が広がっちゃってるかもよ?」

「うぅ~、さすがにそんなはずは――――よしっ、それじゃあ勝負だね」

「ふふん、いい覚悟じゃない。じゃあ準備を始めるわよ」

「私はいつでもいいよっ」 

 

 理沙ちゃんは操作端末に軽く走っていってスタート開始のタイマーをセットしたみたい。 そして、すぐに私の元へと戻ってきた。

 

「ひかり、お待たせ」

「理沙ちゃん、疲れてない?」

「問題ないわ、これくらいウォーミングアップの範囲よ」

「そっか。なら全力で勝負だね」

「本番を想定して行くわよ」

「オッケー」

 

 私達は静かに開始のブザーを待つ。

 ――そして数秒後、ブザーの音を聞いた瞬間私達は駆け出していた。

 

「よしっ、スタートはバッチリ――」

「前ばかり見ていたら足元が留守よ」 

「――えっ!?」 

 

 私は突然横から足をかけられて転倒してしまった。

 

「キャッ――――いったぁ~い」

「本番を想定して行くって言ったでしょ」

 

 ――そうだった。

 本番では相手への直接攻撃や落ちているステッキを使っての妨害が認められているんだった。

 

「よしっ。今度はこっちの番――――って、居ない?」 

「いつまでそこにいるつもり?」

  

 上から理沙ちゃんの声がする。

 もうかなりの高さを登っちゃってるみたい。

 

「――いけないっ。早く追いつかないと」 

 

 私も少しだけ遅れて棒を登っていく。

 まだ早いけど遅れを取り戻す為にもちょっとだけスピードを上げる事にする。

 

「ひかり、だいぶ早く登れるようになったのね」

「理沙ちゃんと特訓したお陰だよっ」

 

 最初と比べると自分でも驚くくらい早くなっているのを感じる。

 今なら理沙ちゃんに追いつける。

 ――あと少し。

 ――もうちょっと。

 ――――追いついたっ。

 

「追いついたよ。理沙ちゃん」

「なかなかやるわね。ひかり」

  

 けれど下にいる方が不利な事には代わりは無い。

 ――なぜなら。

 

「――セイッ」 

「おっとぉ」

 

 理沙ちゃんのレオタードからスラリと伸びた足が私に襲い掛かってきた。

 私は少し手を緩めて体を下に少しずらしてかわす。

 

「理沙ちゃん。ちょっとは手加減してよぉ~」

「本番での相手はもっと本気で落として来るわよ」

  

 つまり、遅れて登る方は先行している相手の妨害を避けながら登らなければならないのでかなり大変なのだ。

 

「まだまだ行くわよ」

「おんなじ手には乗らないよ」

  

 私は理沙ちゃんのキックを両手を棒から離して上体をそらしてかわした。

 そしてそのまま理沙ちゃんの捕まっている棒を思いっきり蹴飛ばしてグラグラを揺らす。

 

「え、ちょと――」

 

 攻撃をする為に足を伸ばして不安定になっている理沙ちゃんは少しだけ体勢を崩した。 

 その隙きを私は逃さずに一気に駆け上がる。

 

「あっ――――しまっ」

 

 そして、そのまま私は頂上まで登りきった。

 

「ふぅ――私の負けかぁ~」

「結構ギリギリだったけどね」

「まあここまで出来るなら本番も良い結果を残せそうね」

「うん。お互いに頑張ろうね~」

  

 それから私達はシャワールームに行って汗を流してから明日の試験に望むのだった。



 ――そして、遂に最初の試験の日がやってきた。

 結局エミリーちゃんとコンビネーションの練習をする事は出来なかったけど、もう今更仕方がないし個人技で頑張る事にしよっと。

 

 どうやら最初の対戦相手は双子のコンビみたい。

 双子で二人共同じ時に入学したなんて凄いなぁ。

 ……私も双子なのにお姉ちゃんだけ先に飛び級で入学しちゃったから二人で同じ学校に通うって一体どんな感じなのかはちょっとだけ気になるな。

 

「わぁ~、ホントそっくりね~。アハッ、どんな連携を見せてくれるのかエミリー楽しみになってきちゃった」

「なら私達も連携やってみる?」

「それはイヤ」

「なんでよ?」

「だってエミリーは1人で2人をやっつけたいの。だからひかりは何もしなくてもいいわよ」

「…………」

 

 エミリーちゃんは屈託の無い笑顔で返してきた。

 本当に1人で2人を相手にする気なんだと思う。

 けど私も理沙ちゃんと一緒に特訓してきたんだ、今までの成果を出せたらきっと活躍出来るはず。

 

「ちょっとちょっと~。あんまり私達を舐めないで欲しいんですけど~」

「入試で1番だったからって、いつまでも1番だと思わないでよね」

  

 エミリーちゃんの声が聴こえてしまったのか、対戦相手が声をかけてきた。

 格下扱いされたのが気に触れたのか凄く不満そうに睨み返されてちょっと怖い。

 いきなりラフプレイされちゃったらどうしよう。

 よしっ。ここは私が謝って穏便に事を進めよう。

 

「えっと。エミリーちゃん、ここは――」

「クスクス――本当の事を言っただけなのに怒るだなんて、このお姉さん達やっぱり面白いのね」

「うがぁ~っ。なんで更に挑発するような事言うのよ~」

「だってそっちの方が面白くなるでしょ? エミリーは面白い事、大好きなの」

「いい度胸じゃない。覚悟しておきなさい」

  

 ――お互いのチームの準備が完了して後は競技開始のブザーを待つだけにになったので私は集中して開始を待つ。

 そして、ブザーが開始を告げると相手チームの2人がエミリーちゃんに向かって猛ダッシュして迫ってきてスライディングをしかけてきた。


「アハハッ。そんなのエミリーに当たらないよ~」

 

 エミリーちゃんはそれをジャンプして器用に交わすと両手を広げて着地する。

 ――無事でよかった。

 

「よしっ、今のうちっ」

   

 私は対戦相手がエミリーちゃんに気を取られているスキに棒を登り始める。

 このまま私が1番に上に到着してくす玉を割ればエミリーちゃんも少しは私を認めてくれるはず。

 私が3分の1ほど登った所で下にいる相手の声が聴こえてきた。

 

「しまった。追いつくためにアレをやるわよ」 

「――わかった」

「アハッ――今度は何を見せてくれるの?」

 

 相手の一人が仰向けになって倒れ込み足を上に向かって伸ばした。

 そして、もう1人がその娘に向かって走っていき足の上に飛び乗った。

 

「いくよっ。せ~~のっ」

 

 下の娘をジャンプ台の代わりにして私の少し上まで飛び上がってそのまま棒に捕まる。

 

「名付けて人間ジャンプ台よ」

「――な、なにそれ」 

 

 このままだと追いつくのは厳しそう。

 

「エミリーちゃん!?」

「――大丈夫よ、ひかり」

 

 エミリーちゃんもこっちにダッシュで近付いてきてそのままジャンプして飛び上がった。


「――す、すご」 

 

 そして私の少し上まで飛び上がったけど相手の方がまだかなり上にいる。

 

「口の割には大したこと無いんだな。――これは私達の勝ちみたいね」

「すぐに追いつくからいいわよ」

「――えっ!?」

 

 エミリーちゃんは棒に捕まらずにそのまま上に駆け上がる。

 ――そう、文字通り足だけで棒を駆け上がっているのだ。

 

「え、ちょっと、なにそれ」

 

 相手の娘もエミリーちゃんが駆け上がるのを妨害しようとしたんだけど。

  

「当たんないよ~っだ」

  

 エミリーちゃんは相手の攻撃をスルリとかわしながらすれ違い様にあっかんべーをしてそのまま頂上に辿り着き片足立ちでバランスを取っている。

 

「アハハ、いっちば~ん。――これを割ったら勝ちなのよね? お姉さん達も結構やるみたいだけどエミリーと遊びたかったらもうちょっと頑張ったほうがいいわよ」

 

 エミリーちゃんはそのまま回し蹴りでくす玉を割って私達の1回戦は勝利で終わった。

 

 ――そして、休憩する時間もほとんど無いまますぐに2回戦がはじまった。

 次の相手は筋力が強そうな2人組だ。

 

「次もエミリー1人で終わらせるから、ひかりはそこで見てるだけでいいわ」 

 

 今度も1人で何とかするみたい。

 ――今の私じゃ出来る事は何も無いんだろうか。

 

「けど、油断はしちゃだめだよ?」

「油断? エミリーが相手に遅れを取る事なんて無いわ」

 

 エミリーちゃんからは絶対的な自信と勝利の確信しか感じられない。

 ――けど、今回は何だか嫌な予感がする。

 

 試合が始まってエミリーちゃんは棒を駆け上がっていった。

 相手もすぐに追いかけると思いきや、棒に登らずに下に落ちているステッキを拾い始めた。

 

 その間にエミリーちゃんは頂上に到着する。

 

「アハハッ、またいっちば~ん。すぐに終わるのも退屈だし少し遊んでいようかしら」

 

 エミリーちゃんは棒の上で色んなポーズを取りながら遊びめた。

 それを見ている相手チームの1人が口を開く。

 

「チッ、調子に乗りやがって少し痛い目に合わせてやる」

 

 相手の2人は手に持ったスティックをエミリーちゃんのいる頂上へ投げつける。

 

「いけないっ。――エミリーちゃん!?」

 

 相手の投げたスティックはエミリーちゃんの頭部に向かっているけど、本人は気付いていないみたい。

 ――さすがにあれに当たったら怪我をしちゃうかも。

 

 今から私が登る?

 ダメだ、今から登って追いつけるはずがない。

 こうなったら私もエミリーちゃんがやったように棒を駆け上がるしか……。

 けど、私にそんな事が出来るの?

 ううん。やらないとエミリーちゃんが怪我をしちゃう。

 やれるかじゃない、やるんだっ。

 

 私は意を決して棒に向かって走っていき力の限り飛び上がる。

 そして棒に向かって足を思いっきり踏みつける。

 

 「――あっ」 

 

 足が滑り落ちそうになったので、そうなる前にもう片方の足を前に出す。

 そして、何回も同じ事を繰り返すことだけを考える。

 もう上に行く事しか考えていない。

 あとどれくらいなのか、本当に登れているかとか考えている余裕なんてない。

 ひたすらに無意識で足を動かす。 

 

「間にあえええええええええっ」

 

 足の踏み場が無くなって意識が戻った。 

 

「――ひかり? なんで貴方がここにいるの?」

 

 私の目の前にはエミリーちゃんの驚いた顔がある。

 

「よかった。間に合っ――」

 

 ――ドゴッ。

 

 私は後ろから何かが当たった衝撃で再び意識を失った。

 

 ――数分後。

 どうやら私はベッドの上で寝ていたようだ。

 

「――っ、いててっ」

「まだ動いてはダメよ、ひかり」

 

 ベッドの横にはエミリーちゃんがいる。

 

「さっきは助けられちゃったわね」

「さっき? ――良かった無事だったのね」

「けど、次からはあんな無理しない方がいいと思うの」

「そだね~。無我夢中でよく覚えて無いんだけど。――そう言えば試合は?」

「もっちろん。エミリーが1人で全員やっつけたわ」

「そうなんだ。――あ~あ、私は何も出来なかったな~」

「そんな事なかったわよ」

「――えっ?」

 

 エミリーちゃんはベッドに置かれているタブレットを開いて私に画面を見せてくれた。

 

「学内ランキング? どうせ私が1番下のまま――ってあれ? どこ?」

 

 私の名前が見当たらない。

 

「――ここよ」

 

 エミリーちゃんが指をさした場所を見ると私の名前が確認出来た。

 ――けど。

 

「あれ? 120位? 私活躍してないのに何でランキングが上がってるの?」

「さあ? エミリーにも解らないわ」  

「???」 

 

 解らないといいつつエミリーちゃんはちょっとだけ嬉しそうに見える。

 

「ひかり、貴方面白いから今度協力する競技があったら一緒に練習してあげてもいいわよ」

「本当?」

「ええ。エミリーについて来れたらだけど」

「そっ。ありがと」

「べ、別にお礼を言われる事なんてしてないんだから」

  

 私がエミリーちゃんと談笑をしていると、医務室の扉が開いて理沙ちゃんが入ってきた。

 

「ちょっと、ひかり。怪我したって聞いたけど大丈夫だったの?」

「あ、理沙ちゃん。うん、軽い打撲みたい」

「全く無理するんだから」

「――この人ってひかりのお友達なの?」

 

 エミリーちゃんが理沙ちゃんの顔を覗き込みながら私に話しかけてきた。

 

「そうだけど――えっと、どうかした?」

「ん? なんでも~」

「……えっと」

 

 理沙ちゃんは少し困惑してるみたい。

 

「ところで、ひかり。何か欲しい物とかある?」

「ん。じゃあジュースお願い~」

「わかったわ、ちょっと待ってて」

 

 理沙ちゃんは部屋から出ていって再び私とエミリーちゃんの2人が部屋に残された。

 

「やっぱりひかりってお友達も楽しい人なのね」

「うん。理沙ちゃんはとっても良い娘だよ」

「――けど、あのお姉さん」

「――えっ? なんかあるの?」

「ううん、秘密にしておくわ。ひかりも楽しみが無くなるのはつまらないでしょう?」

「???」

 

 エミリーちゃんはそのまま部屋を出ていって、入れ違いに戻ってきた理沙ちゃんと軽く試験の事とかを話した。

 そして、私は数日間は安静にする必要があるみたいなのでそのままベットで眠りにつく事にした。

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