#7
しばらく理沙ちゃんの後を着いて歩いていくと、私は何やら怪しい地下室のような場所へと連れてこられた。
――なんで学校にこんな場所があるんだろう。
「――えっと、理沙ちゃん。ここは何処なの?」
「特別訓練室よ。使用許可は貰ってきてるから安心しなさい」
「え、何それ? 私そんな場所があるなんて聞いて――」
「――るはずよ」
理沙ちゃんは待ってましたとばかりに私に学校案内を突きつけてきた。
近すぎて文字が読みにくいんだけど、何とか頑張って読んでみる。
「えっと、なになに? 短期間で実力を付けたい者は志願すれば特別訓練室の使用許可が降りるって――なにこれ?」
「入学式でも聞いてたはずだけど? ――全く、どうせ校長先生の話を適当に聞き流してたんでしょう?」
「えへへ~。実はそうだったり~」
「と・も・か・く。時間が無いんだし多少危険な事をしてでもここの訓練はやり遂げなさい」
「え~。何で私だけ」
「私も付き合うから文句は言わない。ほぉらぁ、さっさと鉄棒に捕まりなさい」
「は~い」
私は目の前に用意されていた鉄棒を掴んでぶら下がった。
「――あれ。普通の鉄棒と何も変わらない気がするんだけど」
「捕まったわね。じゃあ落ちない様にしっかりと握っておきなさいよ」
「……え?」
理沙ちゃんがコンピュータの基盤を操作すると私のぶら下がっている鉄棒の下の部分がどんどん開いていってとうとう足場が無くなってしまった。
下を見てみるとどうやら水が溜まっているみたいだけど何だろ。
「ひかり。落ちてもいいけど下にはワニがいるから気を付けなさいね」
「――ワニ?」
私は水の溜まっている奥を目を細めて見ていると何やら緑色の物体が動いているのが見えた。
「え、何あれ? あんな所に落ちたら死んじゃうよ~」
「大丈夫よひかり。懸垂を1000回したら足場が出てくるように設定してあるから」
「――せ、千回って」
「私も付き合うからそんな顔しないの」
理沙ちゃんはもう一度基盤を操作すると上にタイマーが表示されてどんどん数が少なくなっていった。
その間に理沙ちゃんは私の隣に設置してある鉄棒にぶら下がりタイマーが0になった瞬間、理沙ちゃんの足場もどんどん広がっていき下には水槽が出現した。
「私も同じ条件にしたから一緒にやるわよ」
「そんな~。私にはちょっとだけオマケしてよ~」
「――そう言うと思ってオマケは用意しておいたわよ」
「本当に?」
「ええ、そろそろ始まると思うけど――」
「……はい?」
一瞬理沙ちゃんが悪い笑顔を浮かべたと思った瞬間、私の鉄棒の棒の部分が回転を始めた。
「え、ちょ、ちょっと何これ!?」
「オマケが欲しかったんでしょ? 早く終わらせないと、どんどん回転スピードが上がっていくわよ」
「……え、何それ。そんなオマケなんて私いらないよ~」
「私もぶら下がってるからもう操作は出来ないから諦めなさい。それじゃあ始めるわよ」
理沙ちゃんはモクモクと懸垂を始めていった。
――こうなったら私も覚悟を決めるしか。
って棒が回転してて上手くあがれない~。
「ほぉらぁ。早くしないと下に落ちちゃうわよ」
「びえ~ん。理沙ちゃんの鬼、悪魔~」
そこから先は本当に無我夢中で何も考えずにひたすら懸垂を続けた。
そして数分後、私は汗だくになりながら床にへばり付いていた。
床に倒れているって事は何とかミッションを達成できたって事なんだろう。
「ひかり。良く頑張ったじゃない」
「も~。死ぬところだったよ~」
「死なないわよ。もっかい下をよく見てみなさい」
そう言うと理沙ちゃんは再び基盤を操作して鉄棒の下の床を開いてワニの入っている水槽を露わにした。
「――あれ、何かあのワニに違和感があるような」
「おもちゃよ」
「…………はいいいいっ!?」
「本物なんているわけないでしょうが。ひかりみたいな娘にやる気を出させる為に学校が用意してくれた物よ」
「そんなぁ~、じゃあ私は何のために必死になってたのぉ~」
「自分の為でしょうが!」
「……ふみゅう」
なんだか一気に気が抜けてしまって再びその場に倒れ込む。
それからしばらく私は立ち上がることが出来ずに、私は倒れたまま時間を過ごすのだった。
そして、理沙ちゃんはサンサンとの練習があるといって一足先にここから出ていってしまうのでした。