#6
地平線の彼方に日が登り始める早朝。
太陽を隠すかの様に土煙が空高く舞い上がっていた。
そこには運動着に身を包んだ少女達が校長先生の銅像を体に括り付けて走っている。
「はあっ……はあっ……みんな待ってぇ~」
――んだけど、その最後尾を私が何とか置いていかれないようにヘトヘトになりながらも必死で走っているわけで正直言ってかなり辛い。
「ひかり。大丈夫なの?」
「あ……理沙ちゃん……私はもう限界だから、私なんて置いて先に行って……」
「ほぉ~らぁ。そんな事、言ってないでさっさと走りなさい。もうちょっとでゴールでしょうが」
「……うへぇ。初日からこんなキツイだなんて思わなかった~」
「キツイのはみんな一緒よ。――まあ一部、体力が有り余ってる人もいるみたいだけど」
「……なんであの2人ってあんなに元気なんだろ」
私は遠くにいる先頭集団を見ると、理沙ちゃんのルームメイトのサンサンと私のルームメイトのエミリーちゃんが熾烈なトップ争いを繰り広げている。
「お前、早いな。サンサンの村に来たらきっといい狩人になれるぞ」
「ふん。エミリーの前を走るなんて許さないんだから」
二人のスピードはどんどん上がっていって、とうとう見えなくなっちゃった。
私と理沙ちゃんはただ唖然としてそれを見ている事しか出来なかった。
「……これって長距離のランニングだよね?」
「――そのはずだけど、あの子等にはペース配分とか無いのかしら」
「若いって良いねぇ」
「サンサンとは年は変わらないわよ」
「そうなの? じゃあ私もラストスパートを――」
「バテるから止めときなさい。私達は自分のペースで走るわよ」
「は~い」
理沙ちゃんと話せたお陰で少しだけリラックス出来た気がする。
これなら最後まで頑張れそう。
「理沙ちゃん。ありがと」
「――え? 何が?」
「ううん。なんでも~」
――それから少しだけ走って私達は無事に最後まで走りきる事が出来た。
ちなみにトップでゴールしたのはエミリーちゃんだったみたい。
私も頑張らないとな。
――それからしばらく訓練の日々が続いて、ある日生徒全員がグラウンドに集められた。
何か発表でもあるのかな?
――私達がしばらく待機していると、校長先生がやってきて高台で話し始めた。
「諸君らもそろそろ訓練校での生活に慣れてきた頃だと思う。――なので来週、実技試験を行う事に決まった。競技種目は玉割り、ルームメイトと2人で1チームとなって上位を狙ってもらう。これは単なる1試験では無く最終評価にも関わってくるので各々精一杯頑張って欲しい。詳しいことは後で書類を送るので目を通しておくように。――以上、解散」
遂に試験の日がやってきた。
本校に行く為の最終試験に参加する為にも気合を入れて試験に望まないと。
これは部屋に戻ってエミリーちゃんと作戦会議をしないとだね。
「――試験の練習? エミリーが1人で全員やっつけるから、ひかりは見てるだけでいいわよ」
「それだと私が評価されないんだけど……ねえ、お願いだから一緒にコンビネーションとかの練習を頑張らない?」
「イヤよ。――エミリーは自分の為の訓練しかしたくないんだから」
どうやら、この娘に協力って概念は無いらしい。
けど、どうしよう。このまま何もしない訳にもいかないし。
「そんなに練習したいなら1人でやってきたらいいじゃない。エミリーはこれから自主練があるから後でね」
「あっ……」
エミリーちゃんは要件だけ言い放つと部屋から出ていってしまった。
「これからどうしよう……」
このままここにいても状況は良くならないし、ひとまず私も練習しに行こうかなぁ。
――私が練習場に着くと他の生徒も何人か玉割りの練習をしているみたいだった。
玉割りは50メートル上空の玉を叩いて割る競技で、そこに辿り着くためには用意されている2本の棒をよじ登っていく必要がある。
玉割りって言うより棒登りって言った方が正しいのかもしれないけど、くす玉を叩いて割る為の筋力も必要なので玉割りで問題無いらしい。
「――ひかり? こんな所でどうしたの?」
「あっ。理沙ちゃん」
私はエミリーちゃんの事を理沙ちゃんに話た。
「――そうだったの」
「理沙ちゃんも1人?」
「ううん。私は後でサンサンと練習するんだけど、それまで少し1人でやろうって思ってきたんだけど――――そうね、ちょっとだけなら一緒に練習する?」
「いいの?」
「ええ。1人でやるよりそっちの方が効率もいいしね」
「理沙ちゃん。ありがと~」
「ええい、鬱陶しいから抱きつかないで。それよりさっさと始めるわよ」
「は~い」
――私は理沙ちゃんの助けを借りて特訓を開始した。
さすが理沙ちゃん。困った時にはいつも助けてくれる頼もしい親友だな~。
「とりあえずタイム測ってあげるから登ってみなさい」
「うん。お願いね~」
私は登り棒の前に立って上を見上げる。
とても高い。すっごく高い。一番上がほとんど見えないくらい高い。
「準備はいいわね? ――それじゃ、スタート」
ブザーの音と共に私は棒を登り始めた。
うぅ~っ。頂上までかなり長いよ~。
途中でもうそろそろかなと思って上を見たけどまだ半分も到達していなかった。
――まだまだ道のりは果てしなく長いみたい。
「ほぉらぁ。まだかなりあるわよ~」
下から理沙ちゃんがゲキを飛ばしてきた。
「そんな事、解ってるってばぁ~」
少したって、理沙ちゃんに励まされながら私は必死になって棒を登りきった。
「ふ~。登りきったぁ~」
「そこぉ~。休憩してないでさっさと降りてきなさ~い」
「は~い」
私は理沙ちゃんの待つ下にスルスルと降りていった。
「ひかり。この競技で重要なのは棒を登りきる事じゃなくて少しでも早く登る事なんだけど解ってる?」
「も~。そんな事わかってるよぉ。そんなに言うなら理沙ちゃんがお手本見せてよぉ」
「――ふぅ、仕方ないわね。じゃあタイムの測定はお願いね」
「わかった~」
今度は理沙ちゃんが棒の前に立って登る準備を始める。
軽く準備運動をしていつでも開始して良さそうだ。
「じゃあいくよ~」
「ええ、いつでもいいわ」
開始のブザーが鳴った瞬間、理沙ちゃんが登り始めた。
わぁ、凄く早い。
止まる事無く棒をスルスルと登っていき私の半分くらいのタイムで頂上へと辿りついた。
――そして、登った時と同じような感じでスルスルと下に降りてくる。
「わぁ~、理沙ちゃんはや~い。まるでお猿さんみたいだったよ~」
「……ひかり。それ褒めてないでしょ?」
「え~。すっごく褒めてるよ~」
「ホントぉ~?」
理沙ちゃんがジト目で見つめてきた。
「ほんとだってばぁ」
「まあいいわ。ともかく、ひかりの課題は棒を登る時の握力ね。今から懸垂をするから着いて来て」
「――え? 懸垂って、一体どこで?」
「ほぉ~らぁ。ブツクサ言ってないで着いてくる」
理沙ちゃんはどこかへと歩き出してしまった。
「あ、ちょっと。理沙ちゃんまってよ~」