#5
「えっと――あなた誰?」
「え~。もしかして校長の説明聞いてなかったの? エミリーはあなたのルームメイトなのよ」
エミリーちゃんは口に人差し指を立てながら笑った。
そのイタズラな笑顔からはとても妖艶で怪しげな美しさを感じる。
「え、ルームメイトって。――え? じゃあ貴方が入学試験で1番だったの?」
「そうよ。エミリーが新入生で1番なんだから」
エミリーちゃんは楽しそうに両手を広げながらくるりと回るとまた笑顔で私を見つめてきた。
「お姉さんは最下位だったのよね?」
「――グッ。まあそうなんだけど。それよりお姉さんって私達同い年じゃない」
「エミリーは飛び級してきたからお姉さん達より4つ下なのよ。多分今年入学した人でエミリーより下はいないと思うんだけどなぁ」
「よ……4つって……」
私のお姉ちゃんより下で入学してきたって事?
――やっぱりこの娘ってかなり凄いんだ。
ま、まあせっかくルームメイトになったんだしとりあえず仲良くしないと。
「私は七咲ひかりよ。――えっと、エミリーちゃんって呼べばいいのかな?」
「ええ、それでいいわ。よろしくね、ひかり」
――いきなり私の事は呼び捨てかい。
まあ私の方がお姉さんなんだし、これくらいの事は大目に見てあげないと。
けど、これから上手くやっていけるのかなぁ。
――私は改めて部屋の中を見回してみる。
中に置かれている物は私物を置いたり勉強をするのに使うであろう机が2つ壁際に並べられていて、反対側に2段ベッドが1つと着替えをしまっておく為のクローゼットが設置されてる。
机の1つにはエミリーちゃんのであろう可愛らしいキャラ物のカバンが置かれていてもう自分の机を決めてしまったみたい。
まあ、私の方が遅れて来たんだし早い者勝ちなのは仕方ないかな。
部屋の奥には空気の入れ替えのための窓が1つとその下にテレビが置かれていて必要最低限の物は用意されているみたいだ。
「――えっと。私はこっちの机を使えばいいのかな?」
「ええ、そっちを使っていいわよ。本当はエミリーが両方使おうと思ってたんだけど、ひかりが可哀想だから使わせてあげる」
エミリーちゃんは笑顔で私に机の使用許可をしてくれた。
もしかして2つとも使う予定だった?
多分悪気は無いと思うんだけど。
――私は自分の机に荷物を置くとエミリーちゃんはいつの間にかベッドに陣取っていた。
「上のベッドはエミリーの場所だから入ってきちゃだめよ」
ベッドの割り振りも決められてしまった。
まあ、私は別にどっちでも良かったんだけど。
――さて、今日はもう自由行動だしこれから理沙ちゃんに会いにでも行こうかな。
私が外に出かけようとしたらベッドのエミリーちゃんから声をかけられた。
「ねえ、ひかり。エミリー喉が渇いちゃったからジュース買ってきてくれない?」
こんのワガママ娘がああああああ。
――と、言いたい気持ちを何とか抑えて私は笑顔で答える。
「え、ええ。私もちょうど外に行く予定があったから、ついでに買ってくるわ」
「なるべく早く頼むわね。そうそうエミリーはオレンジジュースでいいから」
「ちょっと人に会うかもしれないから、ちょっとだけ我慢してくれる?」
「もう。仕方ないわねぇ」
エミリーちゃんは軽く頬を膨らませてスネて見せた。
……こういう仕草を見ていると本当に年相応の娘なんだなぁと思う。
――私はそのまま部屋を出て1階へと階段を降りていく。
「えっと、自動販売機はっと――」
「――あら。ひかり? こんな所で何してるの?」
「え? ――あ、理沙ちゃん。ちょうど理沙ちゃんの部屋に行こうかと思ってたんだけど、こんな所で何してるの?」
「ルームメイトと乾杯しようって事になってジュースを買いに来たんだけど、もしかしてそっちも?」
「うん。まあそんなところ~」
――私の場合はただの子供のワガママに付き合ってるだけなんだけど。
私と理沙ちゃんはそのまま自動販売機の置いてある休憩所に向かい椅子に座って軽く話をする事になった。
「ところで、ひかりはルームメイトと上手く行きそう?」
「えっと。多分なんとかなりそう――――かな」
「……何よその沈黙は」
「それより理沙ちゃんの方はどうなの?」
「こっちはちょっと騒がしいというか。サンサンって言うんだけど、森にすむ部族の出身みたいなの」
「……サンサン。確かどこかで聞いた事があったような――――」
えっと。
あれは確か……。
「あーーーーっ」
「ひかり。急にどうしたの?」
「確か私の入学試験に一緒に走った娘がそんな名前だった気がする」
「そうなの? 変な偶然もあったものね」
「うん。あの娘ならそんなに悪い子には見えなかったし、いいルームメイトになるかもね」
「そうね。あまり悪くは思われてないと思う。――っと、あんまり長話すると待ちくたびれたって言われそうだし私はそろそろ行くわね」
「またね~」
私は理沙ちゃんと別れてからジュースを買って部屋に戻っていく。
部屋に入ったら待ちくたびれたような顔をしたエミリーちゃんが出迎えた。
「も~、おっそ~い。ジュースを買ってくるのにどれだけかかるのよ~」
「ゴメンゴメン。はい、ジュース買ってきたから」
私はエミリーちゃんにジュースを渡すと受け取った瞬間、機嫌を直してくれたのか笑顔になった。
――ふっ。なんだかんだ言ってやっぱり子供ね。
「あれ? ひかりも買ってきたの?」
「うん。エミリーちゃんとこれから仲良くしなたいからジュースで乾杯しようって思って」
「そうなの? 仕方ないなぁ。ひかりがそこまで言うなら乾杯してあげてもいいわよ」
「そう? ありがと」
――それから私たちはお喋りをしながら明日から始まる訓練に備えるのだった。