#4 訓練校編
ひかり達の訓練校への入学試験が終わり、新しい季節がめぐって来た4月上旬。
校舎の前に新しい制服に身を包んだひかりと理沙の姿があった。
「わ~、凄くおっきいね~。それに生徒もいっぱい」
「こぉ~ら、門の前で立ち止まらない。それに全員がライバルなんだからもっとシャキッとしなさい」
「だってぇ~。せっかく入学出来たんだし、もうちょっと感傷に浸るというかぁ――」
「ほら。クダクダ言ってないで、さっさと歩く歩く」
「は~い」
私はそのまま理沙ちゃんの方を向きながら歩き出すと、突然巨大な壁が立ち塞がって私はぶつかってしまった。
「わっとと。――も~、なんでこんな所に壁があるのよ~」
「――ひかり。それ壁じゃないわよ」
「……えっ?」
私は恐る恐る前を向くとそこには2メートルはありそうな人物が立っていて、私達を見下ろしていた。
「おっと、すまなかったねぇ」
「ううん。こっちも前をよく見てなかったから」
「――えっと。貴方は一体?」
「ああ、アタイはここの3年生さ。今日は入学式だろ? ここで案内をしてるわけ」
私がぶつかった人物は制服の腕の部分に腕章を付けていて右手に巨大な案内板を持っていた。
「先輩だったんですか。すっ、すみません私知らなくて」
「あ~。そういうのはいいって。それより次からはちゃんと前を見て歩きなよ」
「はい。今度から気をつけます」
「会場はあっちだよ。そろそろ始まると思うから急いだ方がいいんじゃないのかい?」
「そうですね。では、私達はもう行きます。――ほら。行くわよひかり」
「ちょっ。理沙ちゃん待ってよ~」
――私達は案内役の人に教えてもらった方向に少し歩くと大きな体育館が見えてきた。
「わ~。すご~い」
「さすが世界中からトップクラスのアスリート達を集めているだけあって、建物もかなり立派なのね」
私達が建物に見惚れていると近くのスピーカーからアナウンスが聞こえてきた。
「――まもなく入学式が始まります。会場の外にいる方は急いで会場入りしてください」
「急ぐわよ。ひかり」
「いきなり遅刻する訳にもいかないしね」
私達が会場に入ると、そこには沢山の生徒が座っていて入学式を今か今かと待っているみたい。
「どうやら君達で最後みたいね。早く入学案内に書いてある番号の席に座りなさい」
私達は会場の入口にいる案内役の生徒の指示に従って自分の席を探す事にした。
「ふふ、どうやら入学式もひかりが最後みたいね」
「え~。付いたのは同時だったじゃん」
「――コホン。さっさと席に行きなさい」
これ以上この人を怒らせる訳にもいかないし、この場はさっさと退散しよう。
――私と理沙ちゃんが着席すると、すぐに校長先生と思わしき人物が出てきて入学の挨拶を始めた。
そして、20分くらい経過した辺りで挨拶が終わりそうだ。
「――最後に諸君らには寮生活をしてもらう訳だが今後2人以上で行う競技をする場合、同じ部屋にいるルームメイトが諸君らのパートナーとなる事になっている」
――パートナーは自分で選べないのか。
出来れば理沙ちゃんと同室がいいなぁ。
「闇雲に選んで部屋ごとに差を出す訳にもいかないので、実力の高い者と低い者が同室になる事を理解して欲しい。つまり、入学試験で1位だった者と200位だった者。2位と199位といった組み合わせになっている」
やった。じゃあ私のパートナーは1位だった娘なんだ。
これはラッキーかも。
「だたし、評価はあくまで個で行う。チームの成績が良くても活躍しているのが片方だけだった場合、活躍していない方は低評価だと思うように。実力差があるチームの場合、片方しか評価をされないといった例はこれまでにも多いのでパートナーに頼り切らないように」
……え、じゃあつまり1位の娘が活躍するだけだと私は評価されないって事?
そんな凄い娘とチームを組んで私の活躍する場なんてあるのかなぁ。
――私が心配する暇も無く、まずは寮に向かうように指示を受ける。
いきなり試験1位の娘との対面かぁ。
ちょっと心配だけど、今更考えたって仕方ないわよね。
――私は会場から出て寮に向かおうとした所で理沙ちゃんと会ったので一緒に向かう事になった。
「しっかし、ひかりも大変な人と組む事になったわね」
「入試トップだなんて一体どんな人なのか心配だよ~」
「かなりのタイムを出してたみたいだし、きっと見るからに凄い人ね」
「うう~っ、そんな怖いこと言わないで~」
「ゴメンゴメン。けど、ルームメイトになるんだし仲良く出来ると良いわね」
「そうだね~」
理沙ちゃんとお喋りしながら会場から少し歩くと寮が見えてくる。
同じ様な建物が3つ並んでいて部屋の中とかは全部同じだって入学案内には書いてあった。
「私はA棟だけど、理沙ちゃんは?」
「私もA棟よ」
「わ~。一緒だね~」
「朝食とか一緒に取れるかもね」
「うん。楽しみだね~」
「それじゃ、早速入りましょ」
私達は寮に入っていくと、寮の中は掃除が行き届いていてかなり綺麗で自主練習用のトレーニングルームやシャワールームも設置してあった。
「中もかなり凄いね~」
「ひかり。上を見てみなさい」
「上? ――――あっ」
寮の壁にはその年に最優秀成績を残した人物の顔写真が並べられていた。
その中に2個見覚えのある顔が飾られている。
「あれってひかりのお母さんよね?」
「――うん。かなり昔の写真だけどそうだよ。写真だと若いな~」
「そして、あっちが――」
「うん。私のお姉ちゃん――――だね」
新しい方から2番めの写真に私の姉の写真がある。
つまり2年前に飛び級で入学してから、わずか一年で最優秀成績を残して訓練校を卒業して本校へと進んで行ったのだ。
「――ひかり、私達も頑張って上に行くわよ」
「そうだね、絶対に2人で行こうね」
「……私の部屋はこっちだからここで別れましょうか」
「それじゃあ理沙ちゃん。またね~」
私は理沙ちゃんと別れてルームメイトの待つ部屋へと向かっていく。
「――ここか」
一応受付で鍵はもらったから、ルームメイトが留守でも入室出来るんだけど緊張するな~。
「は~。ふ~」
私は軽く深呼吸してからドアノブに手をかけるとカチャリと扉が開いた。
――やっぱり留守じゃないのか。
私は意を決して中に入っていく。
――けど、部屋の中を一通り見回したけど中には誰もいなかった。
「あれ? 鍵を閉め忘れて出かけちゃったのかな?」
私が部屋の真ん中まで歩いた所でドアの鍵が閉まる音がしたので私は入り口を向く。
「あれ? 鍵が勝手に?」
「――こっちよ」
誰もいないはずの部屋なのに後ろから声がした。
えっ。何で声がするの?
私は恐る恐る後ろを振り向くと――。
「バア!」
「!?」
私は驚いて尻餅をついてしまう。
さっきまで誰もいなかったまずなのにそこには小さな女の子が立っていたのだ。
「――アハ、思った通り。お姉さんって面白い反応するんだね。これならエミリーも一年間退屈しないですむかも」
目の前には自分の事をエミリーと呼ぶ少女が悪戯な笑顔を浮かべながら私を見つめていた。