#3
「うぅ〜っ。緊張するな〜」
「ほぉら、今更焦っても仕方ないでしょ! いい加減に覚悟を決めなさい」
「やっぱり理沙ちゃんが代わりに試験受けてよ〜」
「そんな事できるわけ無いでしょ。ひかりが行かないなら私が一人で行くわよ」
理沙ちゃんは私を置いて会場へと入って行った。
「あっ、ちょっと待ってよ〜」
私も続いて会場入をする。
会場には百人位の人が集まっていて結構倍率は高そうだ。
「かなり多くない? 私達大丈夫かな?」
「何言ってるの? これでも全受験者の一部なのよ」
「えっ? どう言う事?」
「あなたは本当に説明を聞いていないのね。ここは試験会場のうちの1つなの。他の場所にも何箇所か会場があるからここで一番を取れたからって入学できない可能性もあるの」
「そうだった〜。やっぱり私なんかが来ていい場所じゃないんだ〜」
「と・も・か・く。今は邪念は捨てて全力を出すことだけ考えなさい。――それに、私達が今までしてきた練習を無駄にするつもり?」
そうだった。
ここで気遅れしていたら今日まで何のために頑張って来たというのだ。
――それに、こんな所で止まっていたらあの娘のいる場所まで辿り着くなんて事は到底無理だと思う。
「理沙ちゃん。絶対に一緒に合格しようね」
「どうやらやる気になったみたいね。それじゃ片方しか合格しなくても恨みっこなしで行きましょう」
「そうだね。ここから先はお互いライバルだよ」
「そうね、私も手加減はしないわよ」
私達はお互いに拳を合わせて検討を称え合う。
しばらくして、会場がざわついてきた時に透き通った声が一声で会場を静寂に包んだ。
「今から入学試験を開始する。それぞれゼッケンを付けて指定の場所に集まるように。――以上」
会場の受験生はそれぞれ試験場にちっていく。
「私はC会場だけど理沙ちゃんは?」
「こっちはA会場ね。じゃあ後で会いましょう」
「うん。後でね〜」
私は理沙ちゃんと別れてC会場へと向かっていく。
どうやら20人ずつに別けられて試験をするみたい。
「えっと。予定では100メートル走のはずなんだけど――――2人づつ走るのかな?」
会場には100メートルのラインが2つ引かれていて、壁には巨大な電光掲示板が設置されている。
電光掲示板で名前と会場名を表示していくみたい。
私が掲示板を眺めていると、突然ピロンという音と共に誰かの名前が表示された。
「G会場?」
――おかしいな。
ここにはABCの3個しか無いはず……ってそう言えば他の地方にも会場があるんだった。
全ての会場で同時に試験を行って早い順で入学出来る形式みたい。
掲示板の名前の横には順位が書いてあって今の暫定順位がわかる仕組みになっている。
――あ。新しい人の名前が加わってさっきの人の名前が1つ繰り下がった。
掲示板の一番後ろの数字を見てみると200位の文字がある。
つまり200位が最低合格ラインでここに名前が表示されていたら訓練校に入学できるって事みたい。
「呼ばれた者からこちらに来るように」
私のグループの試験も始まった。
後ろから皆が走る姿を見ているけど、さすがに皆かなり早い。
電光掲示板を見てみるとちょうど200位まで名前が埋まった所だった。
――ここから先は入学出来るかを賭けての追い出し戦が始まる。
「ううっ……私の番はまだかな」
試験官さんは、なかなか私の名前を呼んでくれない。
緊張しすぎて早く呼んで欲しいのと、まだ呼ばないでって気持ちが私の中で半々くらいでせめぎ合っている。
――開始から結構時間も経ってもう半分以上は終わったんだろうか。
自分の順番を待っている中、ふと掲示板を見ると見知った名前を見つけた。
「あっ、理沙ちゃんの名前――――わっ凄い、80位!?」
今の残り人数で80位はかなりの安全圏だと思う。
――私も頑張って理沙ちゃんと一緒に訓練校に入らないと。
「次、七咲ひかり」
「はいっ」
ついに私の番がまわって来た。
私がスタートラインに立つと横にはすでに一緒に走る子が待っていた。
「お? サンサンと一緒に走るのはお前か?」
「え、ええ。よろしくね」
「おう、よろしくだぞ」
何ていうか凄く野生児って感じのする女の子だ。
それに走るのもかなり早そう。
「準備はいいな? それでは始める」
「はい」
「サンサンはいつでもいいぞ」
スターティングブロックに足を乗せる前に軽く深呼吸。
うん。今日は調子も良い方だしきっといい結果が出るはず。
――私達はクラウチングスタートのポーズを取ってスタートの合図を待つ。
数秒後、スタートのブザーが鳴って私達は走り出す。
「――っつ、はや」
相手の娘のスタートダッシュに少しだけ離されてしまった。
この娘かなりの身体能力を持っているみたい。
けど、1つ1つの動きがちょっと大げさで身体能力だけに任せて走っているようにも感じる。
「まだまだぁ」
私は必死で追いつこうとするけど、なかなか差が縮まらない。
「ううっ、なんて体力馬鹿なの」
半分ほど終わったけど最初の時と差はほとんど縮まってない。
――けど、私も少しあったまって来た。
「勝負はこれからよ」
私は少しずつペースを上げる。
瞬発力では負けたけどスピード勝負では絶対に負けない。
相手との距離はどんどん近付いていってる。
――もう少しで追いつける。
何とか追いついて私も理沙ちゃんと一緒に訓練校に行くんだああああ。
私は必死の思いでゴールを駆け抜けると同時にブザーが鳴った。
「――はあっ、はあっ」
結果は今一歩追いつけない所で負けてしまった。
――あともうちょっとだったのに。
私が手で額の汗を拭うと一緒に走った女の子が声をかけてきた。
「お前早いな。もうちょっと距離が長かったらサンサン負けてたぞ」
「えっと……ありがと。――けど今回は100メートル走だし私の負け。ところで貴方って凄い体力なのね」
「サンサンは森でずっと走ってたからな。走るのも得意だが狩りはもっと得意だぞ」
「……狩り? っとそんな事より」
タイムを確認すると5秒台後半――うん、なかなかいいタイムだ。
そして、私は電光掲示板を見て自分の名前を探す。
――どうかありますように。
ってあるだけじゃダメだ、どうか上位にありますように。
「えっと……ええと……あった!」
私は180位だ…………ってかなり合格ギリギリラインじゃない。
私が不安を噛み締めながら掲示板を見つめていると突然順位が変動する。
「……あっ」
上位に新たな名前が加わって私の順位が181位に追いやられる。
「そ、そんな~」
今も他の娘が試験を受けているからどんどん追いやられていくのは仕方が無いんだけど、なんとか踏みとどまってほしい。
「……あ、また」
順位はどんどん下がっていって、とうとう190位になってしまった。
「あ~どうしよ~。このままじゃ落ちちゃうよ~」
ここの会場の残り人数は残りわずか。
多分他も同じ位だと思う。
なんとか頑張って私。
――今更何を頑張ればいいのか解かんないんだけど、もうとにかく頑張って欲しい。
195……196…………200。
……とうとう後が無くなってしまった。
――どうやら私のいる会場ではもう全員走り終わったみたい。
後は他の会場で私より早いタイムが出ない事を祈るだけ。
どうか……お願いっ。
一瞬の永遠が時を刻むと電光掲示板に合格者確定の文字が表示された。
私は恐る恐る自分がいるであろう200位を確認する。
「……あ、あったぁ」
私は本当にギリギリで訓練校に合格する事が出来た。
でも、この順位で訓練校に入ってやっていけるのだろうか。
とかちょっとだけ思ったりもしたけど今はとりあえず合格した事を喜ぼう。
――私はそのまま理沙ちゃんと終わった後に一緒に帰ろうって待ち合わせた場所に向かっていく。
待ち合わせ場所には理沙ちゃんが一足先に到着してたみたい。
「ちょっとひかり。あなた本当にギリギリだったじゃない」
「えへへ~。でも合格したよ」
「まったく。私がどれだけ心配してたか――」
理沙ちゃんの表情は呆れながらも、ちょっとだけ嬉しそうに見えた。
――入学編 完