#1
どこかの公園で仲良くおいかけっこをしている二人の少女がいた。
「お姉ちゃん待ってぇ」
「ははっ、私は簡単に捕まらないわよ〜」
「はぁっ……はぁっ……。うう〜っ。お姉ちゃん早すぎるよぉ」
「ひかりもいつか私に追いつけるようになるわよ」
「でも私っていつもかけっこで最後だよ?」
「大丈夫よ。だって貴方は――――」
――キーンコーンカーンコーン。
放課後のチャイムが鳴り響く中、七咲ひかりは待ってましたとばかりにカバンを手にいち早く教室を出ようと椅子から立ち上がった。
「さてと今日も練習に行かないと」
「ひかり。今日も部活なの?」
後ろの席から声をかけらられたので振り向くと、そこには小学校からの友人のミーちゃんが座っている。
「うん。今日こそは自己ベストを更新しないとねっ」
「ひかりとは高校も一緒だと思ってたのにな〜」
机に頬杖をついて不満げなその子を見るとなんだか申し訳ない気持ちになってしまう。
「えっと…その……ゴメンね」
「も〜。なに謝ってるの。私も応援してるの知ってるでしょ? それに、私がひかりのファン第一号なんだからね」
「そう――だね。うん、ミーちゃんの期待に応えるためにも頑張らないとね」
「頑張ってきなさいよ〜。それに、ひかりが試験に落ちたらまた同じ学校に通えるかもしれないしね」
「またそんな事言う〜。――まあ私が試験に落ちたらそうなっちゃうんだけど、そうならないように練習してるのっ」
「わ〜ってる、わ〜ってる。それより本当に時間はいいの?」
壁の時計を見ると、もう15分も会話をしていたみたい。
時間が進むの早すぎでしょ。
「あ〜っ。遅れちゃう。じゃあまたねっ」
私は急いで教室を飛び出して超特急で部室に走っていく。
グラウンドに出ると既に部活の準備を始めている生徒が見えた。
――やばっ。ちょっと遅れちゃったかも。
私は部室の扉を思い切り開いて中へとなだれ込む。
「ふぅ。今回もギリギリ――」
「アウトよ」
声のした方を見ると既に体操着に着替え終わった女の子がそこに立っていた。
長い黒髪がどこかのお嬢様のような雰囲気をかもし出している。
この娘は私の同級生であり、陸上部の部長である狭霧理沙ちゃんだ。
「理沙ちゃんごめ〜ん。今日はちょっと外せない用があってさ。ね? ね? 今回は大目に――」
「その外せない用と言うのは友人とお喋りする事なのかしら?」
「――ギクッ。な、なんで知ってるのかなぁ?」
「私のクラスは貴方のクラスの隣なのよ? 部室に来る前に貴方のクラスを見たら楽しくお喋りをしてる誰かさんを見たのよ」
「あ〜。理沙ちゃん覗き見するなんてマナー悪いんだ〜」
「お黙りなさい。先輩が遅刻をしてたら後輩に示しがつかないでしょ。着替え終わったら校庭を10周してから部活に参加する事。――いいわね?」
理沙ちゃんはビシッと私に人差し指を突きつけてきて、私はその迫力に少し押されてしまう。
「え〜。少し遅れただけでそれは横暴じゃない? 理沙ちゃんの鬼部長〜」
「い・い・わ・ね?」
「……はい」
笑顔で凄む理沙ちゃんの言う事には従う以外の選択肢は無かった。
「じゃあ私はもう行くからなるべく早く準備して来なさいよ」
「りょ〜か〜い」
私の返事を確認すると理沙ちゃんは部室を出ていって中には私一人だけが残された。
「とりあえず着替えますか」
私は制服を脱いで体操着に着替え始める。
――と言っても、普通の体操服にブルマなんだけどね。
訓練校に入る事が出来たらもっとカッコイイ服で運動出来るのにな〜。
――私の夢は星同士で競い合う宇宙陸上に出場する事だ。
その……出来れば優勝したいんだけど、まあ現時点での目標は選抜メンバーに選ばれることかな。
宇宙陸上に出るためにはまずは訓練校に入る事。
入学の条件は中学校を卒業している事だけだから私は来年になったら試験を受ける事が出来る為、今は部活で訓練中なのだ。
……まあ、たまに飛び級で入学しちゃうような凄い娘とかもいるんだけどね。
その訓練校で上位の成績を取ると本校へと上がる事が出来て、本校の成績上位者が地球代表として他の星の代表者と競い合う宇宙陸上の参加メンバーの一人に選ばれるってわけ。
……まあ、まずは訓練校の入学試験に合格しないとだけど。
着替え終わった私はグラウンドに出て走り始める。
いつか頂点で待つあの娘と一緒に走る日が来る事を信じて。