第1章 異世界転移
「アオイ! アオイ! 返事をしろ!」
青年の目の前には、血だらけの女の子が横たわっていた。全身傷だらけで、腹は無残に切り裂かれている。誰の目から見ても死んでいるのは明らかだった。
「誰か…誰かこいつを助けてくれ!」
彼の叫び声は戦場の喧騒の中にかき消され、意味もなくただただ響くだけだった。
彼は自暴自棄になり戦場を不明瞭な言語を叫び散らしながら走り回り、そして失意の中、流れ弓に当たってその短い将来を終えた。
――――――――――
次に目が覚めた時、俺の目の前には全身白でコーディネートした胡散臭い男が立っていた。
「アオイ!アオイは!」
「死にました。」
「え?…」
「死にました、と言っているのです。」
「おいお前、ふざけたこと言ってるならぶっ殺すぞ!」
男に掴みかかって殴りかかろうとした時
「ドンッ!!」
男がそう言うと同時に俺は後ろに吹き飛ばされた。
「お前… 何をした」
「さぁ? 答えを聞きたければ1度私の言う事を聞いてください。さもなければここであなたの存在ごと消し去りますよ?」
その男の目は本気だった。普段ならめげずに殴り掛かる所だが、さっきの不思議な力とその男の目を見ていると、どうも嘘を言っているようには聞こえなかった。
「やっと話を聞いてくれますか。」
やれやれと言った表情で口を開いた男の言ったことはにわかに信じ難いことだった。
「アオイを… 助けられる?」
「はぁ… だからそう言っているでしょう。もう三回目ですよ?」
「いや、だってすぐに信じられる内容じゃないだろ」
「まあ、そうかもしれませんね。」
「それで、どうしたらアオイを助けられるんだ?」
「簡単なことです。私の提示する条件を呑んでくれればいい。」
「条件?どんな?」
「世界を救って下さい。」
「…… は? 今なんて…」
「世界を救って下さい、そう言いました。」
…にわかに信じ難い話だった。世界を救う?生前ただの弱小剣士だった俺が? ただ、アオイの為なら背に腹は変えられない。俺は覚悟を決めてこう言った。
「任せろ。世界くらい俺が救ってやるよ。アオイのためならな。」
「わかりました。それでは今から準備を始めます。そこに立っていてください。」
「わかった。あ、そういえばここはどこなんだ? 訳が分からないことが多すぎて完全にスルーしてたけど。」
よく見たら相当不気味な場所なのだ。俺とこの男意外の人間は誰もおらず、ただ闇が1面に広がっているだけ。立っているのか浮いているのかさえもわからなくなるような不思議な場所だった。
「ああ、そういえばこの場所と私の紹介をしていませんでしたね。私の名前はラヴェルナです。素性を明らかにするのはまた先の機会にしましょう。あなたはきっとまたここを訪れるはずですから。そしてこの場所は私の私有地のようなものです。あ、そろそろ準備が出来ました。そしてあなたにはいくつか選択をして頂くことになります。」
こいつ今、俺がここをもう1度訪れるって言わなかったか?まあいい。今はそれよりアオイが優先だ。
「おう、望むところだ。さっさと質問しろ。」
「それではまず一つ目です。生まれ変わるなら男と女、どちらがいいですか?」
「それは男だ。女だとアオイを助けた後困るからな…って!俺のことをどうするつもりなんだ!? 元の世界に戻るんじゃないのか!」
「違いますよ。言ってませんでしたっけ?」
「言ってねーよ!俺は他の世界で生き返るってことなのか?」
「そうですね、飲み込みが早くて助かります。」
これまた信じられない話だった。俺が?ほかの世界で生き返る?
まあでもアオイを助けられるなら別に悪い話じゃない。俺はこの話に乗ることにした。
「この話、乗った!」
「そうですか、助かります。それでは二つ目の質問いいですか?」
「ああ」
「幼児からやり直すか、それとも全く別の肉体を持った青年として生き返るかどちらがいいですか?」
これは正直悩みどころだった。赤ん坊からやり直して1から鍛えるってのもありだが、さっさと助けるなら青年期として生き返る方が楽だ。う〜ん。 まあめんどくさいし青年からでいいかな。
「青年からで」
「了解しました。いくつか と言いましたが実は質問はこれだけです。あ、そういえば言語に関してですが、私の力で脳にインプットしておくので安心してください。」
「お…… おお… そうだよな、俺も今それ聞こうと思ったんだよ。はは…」
言葉についてなんて全く気にしてなかった。危ない危ない。というかなんかいい感じに流されてたけど、世界救うってなんだ?救うの基準がわからん。と、俺は今更な疑問をこいつにぶつけてみることにした。
「なあ、世界を救うって具体的に何なんだ? 」
「はい、それについてですが、私の方から話すことはありません。」
「は!? お前何言って… 」
「自身の目で、自分自身で確かめて、正しいと思う道を進んでください。それを怠ったから、幼なじみの女の子を救えなかったのでしょう?」
「!…」
返す言葉もなかった。そうだ、あの時俺がもっとしっかりしていれば… 男の言葉は俺の胸に深く、深く突き刺さった。
「チッ… わかったよ。お前の言った通りにするよ。」
「分かって頂ければ有難いです。」
さっきからこいつの手のひらで踊らされているような感覚だ。まあ、事実踊らされているんだけども。ただ恐らく、こいつの言っていることは嘘ではない。それだけはわかった。まあ何故かって言われれば何となく〜としか言えないんだけども… まああれかな?前世の感ってやつかな
「それでは準備が整いました。心の準備は大丈夫ですか?」
「ああ、もちろんだ。あ、そういえばどんな世界に行くんだ?なんの予備知識もないとさすがに不安なんだが…」
「まあそれは着いてからのお楽しみです。それでは行ってらっしゃい。」
「いや待てって早い早い。うわぁぁぁ…」
「どうかお達者で…」
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「うわぁぁぁあぁぁああぁあぁ」
ドスンッッッ!!!!!
「痛ってぇぇえぇぇええぇ! 」
俺がお尻から思いっきり落ちた場所は、完全に森だった。