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誇りと覚悟

ドラゴン舎に近づくとドラゴンの咆哮が聞こえた。驚いて中を覗く。


「グガァアアアァア」

「《ホールド》!おとなしくしろ『アモネ』!」


(許さない!あたいに触るんじゃないよ!)


トーマスさんと他5人の男性がドラゴン舎にいて、黒く黄色の模様が入ったドラゴンを無理やり鉄格子に入れ込んでいた。


散々暴れた後がある。アモネさんはなかなかの情熱家のようだ。うう。挨拶やめとこうかな。ちょっと怖いかもしれない。


「グルルルルルル」

「アモネ。明日は食事抜きじゃぞ」

肩で息をしながらトーマスさんが壁にもたれかかっている。


「はあ…トーマスさん、ありがとうございます。今回の競争もボロ負けでしたよ。最近のアモネは本気で飛んでいるとも思えない」

「フライ・ドラゴンは改良種としても古い。だからこその速さをもっとるが…元来のプライドも高いからの」

「とりあえず、このままだと結果が出せませんよ。今からミクロ様に報告に上がりますが…明日のこともありますし、どうしましょうか」

「そうじゃな…なにかよい策を考えようぞ。だがお前達は、遠征で疲れたじゃろう。ミクロ様に報告がすんだら、しっかり休むんじゃぞ」

「「…ありがとうございます!では」」


ぞろぞろと男達が出てくるので、わたしはさっと花壇に隠れた。

彼らは足早に花の迷路を進んでいった。

隠れる必要はなかったけれど。うーん。出るタイミングを逃した気もしなくもない。それにしてもアモネに挨拶しようと思ったが、今は難しいだろうか?どうせ脱走するらしいし、もういいかなあ。いや、でもやっぱり他のドラゴンと少し話してみたいしなあ。どうしようか。

ぐるぐると迷っていると、トーマスの話す声がまた聞こえてきた。



「さて、アモネや。君はどうしたい。ん?」

「グルルルルルル」

「そうやって威嚇しても、我々に押さえつけられるのはいい加減分かっとるじゃろう?なにせ主従関係がある。いい加減受け入れるのじゃ。そして結果を出せ。そうすればもう少し生活も楽になろうに」


「グアアアアア!!!」


鉄格子に当たる激しい音が響く。


「《ホールド》!!『アモネ』」


「グゥゥルルルルル……」


「ふう…どうしてそう怒る。我々が酷使していると思っとるな?じゃがお前は競争ドラゴンとして生まれ、そしてここにいる。ここで生かされている。郷に入っては郷に従え。お前を解放することはないよ」

「……」

「ではな、アモネ。今日はまず寝るんだ。…ご飯抜きといったが、明日いい子にしていたら、もちろんちゃんとやるからな」


トーマスがふらふらと出てきた。


「あいたたた…年には勝てんわい。それにしてもどうするか…」

彼が腰を抑えつつ、屋敷へと戻っていくのを確認して、キィと木戸を鼻で押し開け、中に入る。


ジースさんの向かい側の鉄格子の奥に先ほど暴れていたドラゴンが横になっている。


(こんにちは、初めまして。アモネさん…今いいですか?)


「グルルル」


(はい!すみません、お邪魔しました!!)

だめだ!!怖い!!やはりタイミングを間違えた。


足早に去ろうとしたら


(待ちな!!)


と呼び止められた。


アモネさんは顔だけ起こしてわたしを見つめている。

(ルミナ・ドラゴンの子か。ごめんよ。取り乱してたんだ…怖がせたね。あたいはアモネだ。よろしく)


おずおずとアモネさんの元に戻る。

(はい。わたしは昨日ここにきました。アモネさんが今日戻られると聞いて、ご挨拶に来ました。よろしくお願いします)


(ああ…。ここんとこ出っぱなしでさあ。ようやく戻ってきたらこの仕打ち。やんなるよ。ねえ?ジース)

(お前が帰ってくると騒がしくて寝れんわい)

(あははは。ジースはさすがに寝すぎ!で、かわい子ちゃん?あんた名前は?)

(まだつけてもらってないんです)

わたしは残念そうに話したが、アモネさんの考えは逆のようだった。


(へぇ、そうかい!そりゃいいじゃないか!!しかしあの主人が名をつけるのを渋るなんて珍しいね。なにか考えてるのかしらね、ジース?)

(大方、明日あるパーティでつける気だろう。おチビさんのお披露目も兼ねてるってマルクが教えてくれた。金持ち連中で集まって、何か話すんだろう。どうせろくなことではない)

(ふぅうん。で?あたいらは明日、予定通りなんだよね?ああ。もう一刻もはやくここから飛び立ちたいよ)

アモネは地面でゴロゴロと転がり始めた。

(あの…、本当に明日脱走してしまうんですか?)


折角出会えたのに。会話ができなくなるのも寂しいし、ロンも悲しむだろう。

あ。そうか…みんな明日明日と言っていたが、どうやらパーティがあるらしい。それに紛れて彼らは脱走するのだろうか。


(あら。話したの?ってことはこの子も連れてくのかい?)

(いんや。偶然話を聞かれてしまってな。その点だけ話した。詳細はなにも。…おチビさんはここで暮らすつもりなのだろう?)

ジースさんが優しく語りかけてきた。

(そう、ですね。今のところは、そう思っています)


わたしが頷くとアモネさんが笑い始めた。


(あっはははは!今のところは、ねぇ?そんな選択肢があるのは、本当に今のうちだよね)


(あの、今のうちっていうのは…?)

どういうことだろうか。わたしは本当に何も知らないのだ。無知でいることで、何か困ることが起こるのだろうか。


(おやおや。親からも聞いていないのかい?いいよ。かわい子ちゃん?お姉さんが教えてあげる)

(…アモネ!)

注意するような声を出したジースを、アモネは睨み返した。

(ジース。この子が知らないのなら、知識は与えてあげないと。知らないってことは選択もできやしないってことさ!あんた達昨日この子と話したんだろう?なんで教えてあげないのさ。男ってのは冷たいものだよね)

(わしはこのおチビさんの意思を尊重したい。この子は人間につかえることを嫌悪していない)

ジースさんはアモネを諌めるように話す。

確かにわたしは可愛いペットになる!って考えだけど。でもそんな話し方されちゃうと気になっちゃうじゃないか。


(そりゃあね。右も左も分からない、まだ昨日や今日生まれたばかりの子供ってのは環境に疑問なんてもたない。大人になる過程で知識を深め、初めて違う生き方を考える。自己を持つ。そういうもんだろう?)

(ふぅ。だとしたらわしはもう何もいうまい。話すがいいさ。このおチビさんを逆に苦しめることにならんことを祈るよ)

諦めたようにジースは首をふった。アモネは満足気にして話はじめた。

(あんたにはまだ名前がない。っていうことはまだ実際には、人間と主従関係を結んでいないってことさ)

(名前、ですか?)初耳だった。さっきそう言えばトーマスさんが主従関係がどうたらって言ってたな。


(名前をつけられた瞬間にわかるよ。ああ、もう逆らえないってね。だからあんたは実はまだ自由なドラゴンなのさ。鎖に縛りつけられた時に初めてその有難味がわかるよ。己の考え通りに体が動く。命令も絶対ではない。なんなら今飛び立って逃げようと思えば逃げられるだろう?名をつけられたあたい達には到底無理な話さ。逃げることをまず禁止されている。思考は自由だがね。いざ実行に移そうとしたら、自動的に《ホールド》されちまう)


知らなかった。確かにわたしは逃げようと思えばいつでも飛び立てる。逃げ切れるかは置いといて。


それは名前がないから、ということ?

ではどうしてわたしにすぐ伯爵は名をつけないのだろうか。それに…


わたしの考えを見抜いたかのようにアモネは話しつづける。

(あんたは素直そうだし、従順であろうとしているからね。逃げる気もないから、焦らなくても大丈夫だと踏んだんだろう。あの主人はゲヒヒ言って惚けているが、したたかな男さ。さすが当主なだけあって、人やあたしら魔物の性格なんかを見抜く力を持っている。おそらくマルクも信用されちゃいないよ…さすがにドラゴンだってバレちゃいないだろうが、ある種ずっと連れ歩いているのは監視してるつもりなんだろうねぇ)


(アモネさん、だとしたら…)


(そう。聞きたいのはどうやってあたい達が脱走するつもりだってこと、だろ?)

そう。それだ。さっきの話だと逃げるのも禁止されているはず。

(アモネ、それも話す気か?)

ジースが焦るように口を挟む。


(おやおや。ジース。口出さないって言ったのにまだ言うっての?この子に話したって心配ないよ。それにこの話も知識のひとつさ)

(ジースさん、わたし確かに今ここを出るつもりはないです。けれど、知りたいです)


色々とわたしは知らなさすぎる。

可愛いペットとして生きる決心はまだ揺らいではいないが、初耳のことが多かった。

ドラゴンと人間の関係ってそんな強制的なものだったなんて。

わたしが思っていた優しいご主人様と笑顔でいつまでも幸せに、って感じではない気もしてくるんだもの。


(そうかい。おチビさん…。アモネ、話してやるがいいさ)

(じゃあ言うけどさ。明日のパーティに紛れてね…)


アモネが再び話し始めた時、勢いよくドラゴン舎の扉が開いた。


「おチビちゃん!さっきはごめんね!」


ロンだった。

彼は笑顔でこちらに走ってきた。


「おおーアモネ!おかえり!競争ご苦労様!いつも頑張って偉いね!」

ニコニコとアモネに話しかける。

本当にロンはドラゴンが好きなのだろう。


「本当はみんなと遊びたいけど…ね。おチビちゃん、僕もうお手伝い終わったんだ。一緒に遊ぼう!?」

「キュ…キュア…」


(仕方ないね。その子が来ちゃ。またおいで。続きはまた話してやるよ。パーティが始まるまでにはここにおいで)

(わかりました。あの、色々教えていただいてありがとうございます)


「行こ!!」

ロンが楽しげに笑って、わたしを抱き上げ走り始めた。

アモネの話は気になるが、仕方あるまい。嬉しそうにしているロンに付き合ってもいいだろう。

わたしはこの子が好きだ。



「ね、僕の秘密基地を教えてあげる!」

ロンは花の迷路をぐるぐると回っていたが、あるミクロ像の前で立ち止まった。



「ジャジャーン!!見て見て!ここね、実は動くんだよ!」

この斧を天に掲げているミクロ像は、ロンの小さな体でも体重をかけるとズズズズと横にずれた。

すると花の壁を通り抜ける穴が姿を現した。


「偶然この辺りの花の掃除してる時に見つけたんだ。思いっきりこけちゃってぶつかってね…。この中が面白いんだよ!」


先を行くロンに続いて、その穴を通り抜ける。


そこには小さなスペースが広がっていた。真ん中には力こぶを作るミクロ像が置かれていた。

他の像と違うといえば正真正銘、真っ裸だということだろうか。


ロンが横でクスクスと笑っている。

「ね。伯爵さまがモデルらしいけど、真っ裸なんて可笑しいよね!」


確かに笑うしかない。おそらくこれが隠しミクロくんなのだろう。確かにこれは隠さなくちゃいけない代物だ。

発見する気はなかったのに、思わず見つけることになってしまった。


「他のひとはここを知らないんだ。空からも見えないように花と葉っぱで隠されてるでしょう?あの像をずらしてでないと入れないんだ」


そう言いながら、ロンは入り口の像を動かして、穴を隠した。


「ね、いい秘密基地でしょう?僕ここで色々練習してるんだ!」

「キュア?」

「魔法とね、剣の!僕、将来は冒険者になるんだ!」


冒険者…あの街にいた人たちを思い出す。

いかつい髭モジャが多かった。うわぁ、ロンもそうなっちゃうのだろうか。だめだめ。折角可愛いのに。


「キュア!キュア!」

ぶんぶんと首を振ると、ロンは伏せ目がちになる。


「反対?ママにも反対されてるんだよね」

「キュア…」

そりゃ可愛い息子があんなむさ苦しい存在になったら悲しかろう。


「でも絶対なるんだ。僕!ママは頭が固いよ。ドラゴンは恐ろしい魔物だって。僕思うんだけどさ、怖いって攻撃するから、余計怖くなっちゃうんだ。優しく接したらそんなことにはならないよ!まずこっちが優しくならなきゃ。僕は旅に出て、いろんなドラゴン、魔物、人に出会いたい。そして友達になりたい」


…わたしがロンを好きだと思う訳がわかった。

彼にはまだ損得勘定もなにもない。あるのは理想と夢だけ。そう、わたしもそうありたいと思っているから。大切な人とただ思い合って幸せな関係を築く。


他のドラゴン達の話をきいて、人間とそういう関係になりたいと思う夢は不可能なのではと思い、悲しくなっていたがロンのような子がそのまま育ってくれたら。

他の人間もこうであってくれたら…。



それから2人でしばらく遊んだ。

ロンは確かに魔法を毎日練習しているらしく、なかなか沢山のスキル魔法を覚えていた。


《スキャン》で見ると

強さはわたしに毛が生えたぐらいだったが…

固有スキルもあり、納得がいくものだった。

---------------------------------

ロナルド・マグタイト

♂ Lv.5

健康

ランク:F

固有スキル:理想の心

スキル:《ケア》《ファイア》《アイスビーム》

《ライト》《エアーカッター》《パラライズ》

《チェック》

---------------------------------


彼が冒険者になるのならきっと強くなりそうだ。

…ここをいつかロンも出ていく。そうなるとすごく寂しいだろうな、とわたしは思った。




「ああ!おチビちゃん!もう戻らなきゃ!」

「キュアン」

「1人でいるのと違って、時間経つのが早いよ。今日はありがとうね、おチビちゃん」

「キュア!キュアキュア!」

こちらこそ楽しかった。

この子と一緒にいるときは理想のペットライフだと実感できる。


「うーん。おチビちゃん、って呼ぶのもなぁ…。僕もチビだしね!ふふ。まあ明日までの辛抱かな。明日、名前が決まるって聞いたよ?どんなものになるんだろうね!楽しみだねぇ」

ロンがミクロ像をずらしながら話す。


そうか。楽しくて一瞬忘れていた。名前…か。

あんな話を聞くと、名付けを楽しみにしていたはずだが、今はどこか気が進まない自分がいた。

名を付けられれば、伯爵に完全に忠誠を誓わなければならない、ということ。

ママには誠心誠意尽くすよう言われている。

……ペットとしての誇りと覚悟を持たねばならないのかもしれない。


あまり嬉しそうにしていないからか、ロンが不思議そうに、わたしの顔を覗き込んだ。


「どうしたの?何か嫌なことがあったのかな…」

「キュア」

首を振る。彼には関係のないことだ。


「…僕だったら、君に名前をつけるとしたら何にするかな…。もちろん、僕がつけるわけには行かないけどさ。でも、つけるとしたらおチビちゃんが笑顔になれるようなものにしたいな」


ロンは優しい子供だ。

「キュアン」と鳴いて、ロンに擦り寄る。

「ふふふ。くすぐったいよ。さあ、戻ろうか!」



彼がここを出るまで、まだしばらくあるだろう。

それまでこうやって遊べたらいいな、と思いながら、2人で屋敷へと戻っていった。





ううううう。

夜になりました。

相変わらずわたしはミクロ伯爵のよだれまみれになっております。

よだれドラゴンと、そうお呼びください…。


「マリアたん、どうして。どうして…」

伯爵は今日悪夢を見ているようだ。苦悶の表情を浮かべている。

だが寝言が始まった、ということは。


ふう、拘束がゆるんだ。

そそくさとベッドから這い出る。


確かマルクが夜出てきたら、レベル上げに付き合ってくれると言っていた。

窓から顔をだすと、屋根から呼びかけられた。


(来たか。伯爵の腕から出るのにどれだけお前は時間をかけるんだ、チビ)

マルクが立っていた。

(だって…)

(あまり遅くはなれん。さっさと行くぞ)


そういうと、マルクは屋根からふわりと地面へ降り立ち、スタスタと外へ向かって歩き始めた。


(門には見張りがあるからな。壁を飛んで超えてこい)


壁の前につくとマルクは《ゲート》でさっさと一人で先に外へ出てしまった。

ふわりと壁を超えて追いかける。


(さて、今日の悲惨な戦闘を見て思ったのだが)

(はい…すみません)

(スライムとは今相性が悪そうだ。夜になるとボーンバードが現れる。打撃も有効だから、そいつを狙うぞ)


きっちりとレベル上げ対策を考えてきてくれたようだ。

うん、やっぱり意外と面倒見がいいドラゴンだ。


(と言っても、ボーンバードはスライムより好戦的だし、お前みたいに弱いと相手になるかわからんがな)

事実だが、ねちっこいのが、なあ。

ぶつぶつ。


(ぼーっとするな!ほらいるぞ。さっさと行け)


確かに見上げると骨だけの鳥が飛んでいる。

ああ…あれがそうなのか。気味が悪いなあ。


《スキャン》で確認をまずする。

---------------------------------

ボーンバード

♀ Lv.9

健康

ランク:F

スキル:《エアーカッター》《超音波》

---------------------------------


うう。ロンの《エアーカッター》を見せてはもらったが

あれを避けるのは大変そうなのだ。

連発で攻撃がくるスキルだ。


とにかく先手必勝。

といっても私には攻撃スキルがない。

体当たり、あるのみ!!


(死なん程度にはフォローしてやるから安心していってこい)


…死ぬ直前まではほっとくってことですね、わかりました。

だが最悪守ってもらえるならありがたい。

保険があるのとないのとでは大違いだ。


スライムの時よりさらに高度をあげて

突進する。これもいつかスキルにならないかなあ…


ドン!と上手く命中して、ボーンバードを地面に叩き落とした。

「ギャ ギャ ギャ」

多少はダメージを与えられたようだが、すぐにボーンバードは戦闘態勢に入った。


《エアーカッター》がやはり飛んでくる。

必死で避けるが、あちこちを掠ってしまう。

至る所から血が垂れてくる。


避けている間に、ボーンバードが接近してきていた。

避けれずに体当たりを食らう。


うう。砂を食べてしまった。ペッペッ。

急いで《命の息吹》で怪我を直す。


持久戦かな。わたしは攻撃力がなくて、あるとしたら回復力のみ。

向こうには回復スキルがなかったから、どれだけ回復しながら相手を弱らせるか、にかかっている。


また思い切り空に飛び上がる。

ボーンバードが追いかけてきてすかさず《エアーカッター》を放ってくる。

さっきよりは避けることができた。

避けながら、再度ボーンバードに体当たりする。


うううん。このままだとあまり体力を削れなさそうだ。

何か攻撃スキルが欲しい。


考えている間に《エアーカッター》が飛んでくる。

そうか。

同じ翼を持ってるんだもの。相手を観察しよう。


出す瞬間、翼に魔力を固めているようだ。


体に《エアーカッター》が当たる。

急所と翼だけかわして…

うん、ダメ元で試してみよう。


《エアーカッター》!


でた!!

ボーンバードはまさかこちらが《エアーカッター》を出すと思っていなかったらしく、慌てて避けようとするも、間に合わず命中した。


やったあ!!

だがまだだ。もう一度!

《エアーカッター》を出そうとした時、少し新しいスキルを覚えて舞い上がっていたのだろう。

ボーンバードが持ち直し、《超音波》を放ってきたのを真正面から食らってしまった。


ううあああ。

頭が割れそうだ。くらくらする。

思わず地面に落下した。

身動きがとれない。ボーンバードがこちらに狙いを定め、また再び《エアーカッター》を出そうとしている。や、だ。


その瞬間、マルクが一閃すると、ボーンバードはパラパラと崩れ落ちた。


(油断したらダメだろう。こんなんだとすぐ死ぬぞ)

(ごめんなさい…)

まだ頭がくらくらとする。


すぐにマルクが回復させてくれた。

《ハイケア》は心地いい。

体に力がみなぎってくる。


(すみません。ありがとうございます!)

(ふん。だが《エアーカッター》を習得したな。それがあるとスライムとも戦える。いいぞ。この調子でどんどん行け)

(え、休憩なし?)

(当たり前だ!ドラゴンが弱音を吐くな!!)


くそう。この鬼教官!

(こら!シャッキリしろ!!向こうにスライムがいるぞ!!!さっさと行け!!!)


ああ…どうやら別の意味で今日は寝れなさそう。



スライムは《エアーカッター》で簡単に倒せるようになった。

その後も怒鳴られながら、スライムを3体、ボーンバードを2体撃破した。

最後はボーンバードに一人で勝てるようになったのだ。


一晩でかなりレベル上げができた。

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ルミナ・ドラゴン(幼生)

♀ Lv.15

健康

ランク:F

固有スキル:飢えた心

スキル:《エアーカッター》《命の息吹》

《スキャン》《チェック》

称号:宝石の原石、美の象徴

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マルクのブートキャンプは過酷だったが、効果は絶大だった。

(あ、ありがとうございます…)

(ふん、まだまだFランク。ドラゴンの本来の強さへの道のりはまだまだだ。これからも訓練を怠るな!!)

(はい…!!)


もう嫌だ。

わたしはこのキャンプから脱走したい。

(では帰ろうか。もう一度言うが、きっちり訓練は継続しろよ?)

(はい…)

余裕があればアモネさんに話の続きを聞きに行きたかったが、今日はもうヘトヘトだった。

今なら伯爵に抱きしめられていようと爆睡する自信がある。


(…あの、マルクさん)

(なんだ?)

(明日のこと…)

(あぁ。アモネが途中まで話したと聞いた)


だとしたら、話が早い。

(どうやって主従関係にあるドラゴンを解放させているの?)

(……ひとつ聞くぞ、チビ)

(はい、なんでしょう)


マルクが一息おいて、じっとこちらを見てきた。

(チビ、お前はどうしたいんだ。ついてくるのか?)


そう聞かれると、今の答えは…

(…いいえ。わたしは人間とまだ離れる気はないもの)


マルクは鼻で笑った。

(フン、それがいい。そして!そういう事なら、この件に関して知る覚悟もないってことだ…アモネには俺が話しておく。話すな、とな。チビ、お前はただ人間の言いつけを守って生きていけ。)


(そんな…)


(いいか。チビ。アモネにも言い分があるだろうが、俺はこう思う。どうしたいか、というものには覚悟がいる。俺は覚悟あるものが好きだ。断固とした覚悟で、決断を下せるのが、誇り高きドラゴンだ。お前はなんだかんだと、まだ迷いの中にいるように見える。夢ばかりを見てな。そんな弱い存在をこちらに招き入れるつもりはない。)


はっきりとした、そして冷たく突き放す言葉だった。


(俺たちは言ってるように、何としてでも明日ここを発つ。機会があればまた会おうではないか、弱きドラゴン…。伝えるのはこれだけだ。さっさと戻るぞ)


(…はい)


マルクは頑固だ。そしてそれがドラゴンだと。

わたしには、よく分からない。彼にとって、わたしは覚悟も誇りも何もかもが足りないらしい。


ペットとして忠誠を誓ったママを目標にしてきたが、今わたしは名付けに怯えている。

そしてマルク達のように、外に出て人間と敵対する気もない。


うん、確かにね。

弱きドラゴンですよ。

可愛いだけじゃダメなのかなぁ…難しい。



そのまま、また伯爵のベッドの上に戻った。

また考えて眠れないのでは、と思ったが、ブートキャンプのおかげでフワフワの布団の上に乗った途端、すぐに眠りに落ちた。

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