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夜の密談

さあ、わくわくの新生活。

ミクロ伯爵が住む場所はどんなところだろう。

それに街は?魔法は他にどんなものが??

ドラゴンがいるんだもの。

きっと他にもそんなファンタジー生物がたくさんいるのだろう。

伯爵の家に向かう旅はどのくらいかかるのだろう。


わたしは外の世界を見れることにワクワクしていた。


ファームの《シールド》外にでた途端、

すぐにマルクが《ゲート》を発動させた。

ん?《ゲート》?なにそれ。


大きな扉があらわれて、2人は黙ってその扉をくぐった。


《ゲート》はどこでもドアだった。

わたしは外の世界を一切見る事なく、どの場所に移動したのかも分からないまま

ミクロ伯爵の住む豪邸の庭に到着した。


あらーなんて便利な魔法…。


…いやいやいや!!だめでしょう?!

もっとこう、街とか、ほら、人とか!お店とか!?

どこに連れて行かれるんだろうって不安とかを抱えていく道中も、後々思い出になったりするものじゃない?

途中でほら、なにかが襲ってきたり。ね?なんかこうドラマティックな…

色々あるじゃない?!!まずこう、ああもう!


おのれマルクめ。わたしのワクワクを奪うとは。

勝手に恨んじゃうもんね。

「キュア!」

ゲージから出してもらいながらマルクを睨む。相変わらずわたしに無関心だ。


しかし到着したからには仕方ない。有難いことに疲れもしていないし(何せわたしゲージを出入りしただけだものね)、ミクロ伯爵の家、もといわたしのこれからの生活場所をじっくり観察しよう。


「ゲヒヒヒ。どうだ、私の庭はすごいだろう。広いだろう」

ミクロ伯爵はわたしがキョロキョロしているのを見て自慢気だ。


まあね。すごいわよ。何人で住んでんの?っていうくらいの豪邸。そこに向かう道は数色のレンガが敷き詰められ、両脇には薔薇にそっくりな花が咲き乱れている。花の壁はあちこちに続いているみたいで、さながら花の迷路だ。定間隔に金色のマッチョの男の像が立ちキラキラと輝いている…ん?

なにこの像…うわーお気持ち悪い!!!しかも顔が誰かに似ている…?!


「おお、ドラゴンにしてはセンスがいいな。ゲヒヒヒ。いいだろう、この像は。純金の私だ」

「キュア!??」


え、マッチョの像が建ってるだけで素敵な景観が壊れている気がするのにまさか、自分の像だったとは。

像を改めて見ると顔は確かにミクロ伯爵に似せられているが、ボディビルダーのような体格で、ブーメランパンツ一丁姿。その姿で槍を持っている。そして髪はふさふさにされていて、なんだかコンプレックスを…あっ。


「キュアアア…」


「ゲヒヒヒ。感動しているか、そうかそうか。この像はな、庭に百ある。色々なポーズをとってあるから楽しいぞ。武器もそれぞれ変えてある。慣れてきて庭で遊ぶことがあるなら探してみろ。隠しミクロくんもいるんだ」

勝手に勘違いしてくれている。それになんだ隠れミクロくんって。


「キュアン」

ミクロ像は見たくも探したくもないが庭を探索するのは楽しそう。自由に歩かせてくれるのかな。うん。いい感じのペットライフだ。最初は嫌だと思ったが案外当たりの生活かもしれない。


ミクロ伯爵はミクロ像を撫でて満足気に頷いていると思い出したようにはっとする。

「ん、ん。マルク。ドラゴンを一度トーマスのところに連れて行ってくれ。私は書斎に行く。マリアに手紙を書かねば!トーマスに見せたらそいつをまた私の部屋に連れてきてくれ」

「かしこまりました」


ドタドタとミクロ伯爵が建物の中に消えるのを見て、マルクは歩き出した。

「ついてこい」

それだけ告げると、マルクは花の迷路に消える。慌てて追いかける。

右、左、右、右、左、右、右、…覚えられない。やはり広い庭だ。

花の壁が途切れると木造の建物があった。これもまたでかい。


「この建物には普段2匹のドラゴンがいる。お前と暮らす場所は違うが紹介しておこう」

「キュア」

「荷物を運搬してくれているのがファー・ドラゴンのジース。もう一匹は競争試合用のフライ・ドラゴン。名はアモネだ。今はジースだけが中にいる。アモネは試合で遠征に出ている」


ふーん、他にもドラゴンがいるのか。どんなドラゴンだろう。

それにしてもマルク、伯爵がいないと意外と喋るのね。顔は相変わらず無表情だけど。ツンデレキャラ?


「なにかどうでもいい事を考えているな…。まあいい。」


木造の扉を開けると、屋根まで吹き抜けの建物だ。中央に広い通路、両脇に鉄格子の扉が4つ。

前世の記憶で言うと…馬とか牛がいる酪農小屋っぽい。

ただそのはまっている鉄格子はかなり頑丈そうだし、天井もかなり高く作られている。

その通路の奥でブラシを持って小屋を掃除している白髪の初老の男と赤毛の小さな男の子がいた。


「トーマス。伝えていたルミナ・ドラゴンだ」


マルクが声をかけると初老の男がぱっと顔をあげた。ヒゲが長く、三つ編みをしている。

「おお。その子が…噂には聞いていたが小さいな。はじめまして、ルミナ・ドラゴン。わたしはトーマス。君の世話をさせてもらうよ。」

「わあ。じいちゃん。このドラゴン可愛いね!」

男の子が笑顔で走ってきた。やだ可愛いのはあなたじゃない。

そう、そう!!こういう反応を待っていた。よろしくね。


「キュアアア」

と鳴くとキャッキャと笑ってくれる。5歳くらいだろうか。


「トーマス、これが渡された飼育法だ。一応目を通しておいてくれ。なにやらブリーダーにご大層なことを言われたんだが…。とにかくミクロ様にとって大事なドラゴンだ。頼むよ」

「ふぅむ。他のドラゴンとそう飼育法は変わらんだろう?まあわかった。見てみよう」

ひげの三つ編みを触るのが彼の癖のようだ。ずっとクリクリとヒゲに指を絡めて回している。


「同じドラゴンだ。ジースに紹介してやってほしい。頼めるか?」

「ああ。そうじゃな…一応しておいた方がいいか。ロン、ジースを起こしてくれ」

「うん!おチビちゃん、おいで」

ロンについて奥の鉄格子の前までいくと赤黒い巨大なドラゴンが横になっていた。

象のような巨大な牙がついていて、足の短いずんぐりとしたドラゴンだ。

体長2mくらいだろうか。翼が時々ピクピクと動いている。


ロンは手際よく鉄格子に何個かついた鍵を外していく。

「ジース!!ジースったら!!」

ジースは一切動かない…寝ているようだ。


「もう。ジースはおじいちゃんだからね、耳が遠い上に寝てばかりだよ…ジースったら!!」

ロンはジースの顔をペチペチと叩く。

「グアアアアア」

あくびをしながら顔だけ起こしたジースはロンを見て、わたしを見た。


(あの、はじめまして、わたし…)


家族以外のドラゴンと初めて会った。会話ができたら嬉しいのだけれど。

ジースは瞬きを数回だけしたかと思うと

「グウウウウウウウ」

バタッと倒れてまた再び寝てしまった。

え?これで終わり?


「おチビちゃん、これがジースだよ。もう寿命みたいでね。寝てばっかさ。荷物を人に送る時だけ起きてくれるんだけど、この間は全然違うところに荷物を置いてきちゃったんだ。もう…」

悲しげにしているロンの肩をトーマスさんがぽんっとたたく。

「とりあえずその子をジースは見たんだろう?だったら顔合わせもできたし、次にこの子を見ても、もう驚かないはずだ。といってもジースはもう何が起こっても動じないじゃろうが」


うん。少し残念だけれどもう一匹ドラゴンもいるだろうし、会えたらまた何かお話ができるかもしれない。

おじいちゃんと言われているが、ジースはいくつなのだろうか。


「で、このおチビちゃんだが…、今日はご主人様の所にもう連れてもどるのかね?」

「そうしよう。部屋に連れてきてくれと言われたんでね」

「ふむ。書類を見るに食事は1日1度でカルナの実とミモゼの葉か。他は特別気にすることはないだろう。今日中に食料を調達しよう。おチビちゃん、明日から食事はここで食べてもらうよ?」

「キュア」

と返事すると満足そうにトーマスは頷いた。


「おチビちゃんの専用の器も用意しておこう。いつまでもおチビちゃんと呼ぶわけにいかないが、ご主人様が名前を考えてつけてくれるだろう。楽しみにしておくといい」


ぶんぶんと頷く。そう!名前!名前が欲しい!!

(うんと可愛い名前がいいわ!!)


ふんっとマルクがバカにするように鼻で笑った。

(え…、もしかして聞こえた?)

少し期待して話しかける。テレパシー的に話せるなら色々楽しいじゃない。


「……」

無視かい。それとも気のせいか。

え、だとしたら名前つけるっていうのに笑った?

ジースさんとかアモネさんとか普通の名前だから

変な名前つけられるってわけじゃないでしょう?

何かあるのだろうか。

よくわからないマルクめ。

ツンデレかと思ったら笑いのツボが全く検討がつかないやつだ。


「ねえ、おチビちゃん。自由に歩いていいってなったら僕とまた遊ぼうよ」

ロンが話しかけてくるのが可愛い。

「キュア!キュア!」

楽しみである。うん、なかなかいい暮らしになりそうじゃないの。


「さあ、チビ。屋敷に連れて行く。ついてこい」

(チビ?!)なんかむかつく。

「バイバイおチビちゃん、またね」


木造小屋を出るともう日が傾き始めていた。この世界の夕焼けも赤くて綺麗だ。

なんだか満たされた気持ちになってきた。


「遅くなってしまった…この時間だとミクロ伯爵は食事中だな。先に部屋にお前を送り届けよう」

今日始めてマルクがわたしの目を見た。

この人、無表情だから怖いけれど顔も整っているんだし笑ったらいいのに。

笑ったらきっといい感じだ。

「ふん、ペットに成り果てた宝石ドラゴンか。強さのかけらもない」

前言撤回。やっぱりこいつは嫌いだ。

なによ、可愛さに強さなんていらないんだから!

ん?…なんで弱いってわかるのよ?


その後はまた無関心なマルクにもどってしまい、終始無言だった。

屋敷の中もかなり豪華だった。入ってすぐのホールにはシャンデリアがキラキラと輝き、正面にはミクロ伯爵の肖像画。並んで歴代当主たちの絵がかけられている。ぐるりとした螺旋階段をのぼっていき、長い廊下を歩いていくと、扉に金細工が施された部屋があった。ここが伯爵の部屋らしい。

腕輪からマルクは鍵を出すと扉をあけ、部屋の中のシャンデリアに《ライト》で明かりをつけた。

また再び腕輪から仕舞っていたゲージを出して部屋に置くと、マルクはこちらをもう見ることなく部屋を出て行った。


あのマルクの冷たさはもう諦めようかなあ…。


部屋にはふかふかのソファが置かれている。一緒に置かれたテーブルも高そうだ。

鏡台も置かれており、そこにたくさんのボトルが置かれていた。なんの薬品かは考えるまい。

部屋の中央に見たくないものが鎮座している。

少しミニサイズのミクロ像だ。台座も金色。この像は両手で宝石を持ち上げている。

…めまいがする。

奥の部屋を覗くと天蓋付きのベッドが置かれている。寝室だろう。


なんだか少し眠くなってきた。自分のゲージで休もう。

ゲージの中のクッションはやっぱりふわふわですぐにわたしは眠りに落ちた。



「ゲヒヒヒヒヒヒ。赤い鱗が1枚2枚3枚…。笑いが止まらんわい」


む。不穏な気配。

パッと顔をあげると二チャリとした伯爵がいた。いつの間にか彼は部屋にもどってきていた。


「うむ、うむ。起きたか。ドラゴンよ。…ん、名前も考えなくてはいけないな。いや、しかし今日はもう疲れた。また考えよう。おい、こっちにくるんだ」

「キュア?」


せっかく気持ちよく眠っていたのに…。いや、ご主人様のご命令だ。従うしかあるまい。

可愛いペットの法則1は従順であること、に違いない。


ミクロ伯爵はゲージから出たわたしを抱き上げるとベッドに向かった。


…え?!?

よくペットと寝る人がいるって前世でもきいたけど、まさか!??嘘だよね!??


「さあ一緒に寝よう」

「ギュアアアア?!」


いやあああああああ

汚される!!!助けてママーーーーーー!!!!!!


ミクロ伯爵はバタバタ暴れるわたしをぎゅうっと抱きしめると布団の中に入った。

尻尾ばかりねちっこく触ってくる。ううう。

「ゲヒヒヒヒヒ。念願の宝石がようやく手に入った。これでマリアも…」

わたしは可愛くてか弱いペットを目指してきたが、今日始めて非力な自分を恨んだ。

このべたついた手をふりほどけるくらいはせめて強くなろう。

ペット道は困難なことばかりだ。耐え忍ぶのだ。彼はわたしのご主人…


いやだめ!これはだめ!!

「うぅん、マリアたん…」

ミクロ伯爵はもう眠ったようだが寝言がうるさい。

マリアって誰だ。屋敷にいないようだが彼の奥さんだろうか。

誰でもいいが、その名を呼ぶ度に、よだれがわたしの顔につくのだ。


ぐーっと足で伯爵の体を押すと拘束にゆるみがでたので、わたしはベッドから逃げ出すことにした。


窓を鼻であけると風がサワサワと気持ちがいい。屋敷ももうシンとして寝静まった後なのだろう。

伯爵は「マリアたん…」と言って幸せな夢の中だ。

(ちょっとくらい出ても分からないよね…?)


少し探検することにしよう。窓からそっと飛び立った。

空から見ても伯爵の家はかなり豪華だった。伯爵邸から街に道が続いているのが見えた。

街にはポツポツとした明かりがちらついている。街に行ってはみたいが、さすがに道中暗いし、あまり戻るのが遅くなってもだめだ。きっとまた街に行くチャンスはある。

屋敷の屋根に着陸した。周辺の景色を眺めるだけでも楽しい。

周辺はかなりひっそりとしているから、辺境の土地だろうか。

だが統治下にあるであろう近くの街はレンガ造りの家がたくさん建っていて日中は賑わっていそうだ。

なかなかのお金持ちのペット。うん。あのよだれベッドさえ脱出できたら完璧だ。


もう部屋に戻ろうかと立ち上がると、庭をマルクが歩いていくのが見えた。

夜にどこへ行くのだろう?見回りだろうか?気になってこっそりつけることにした。

少し探検気分でもあった。


花の迷路をするすると通り過ぎていく。

どうやらドラゴン舎に向かっているようだ。


建物に入ったのを見て、地面に降り立ちこっそりと扉の隙間から中をのぞく。

マルクはジースさんの鉄格子の前にいた。


(で、いつだい?)

(アモネが明日競争試合から帰ってくる。そうだな…明後日には)

(もう寝るのに疲れたよ。…あの今日来たおチビさんはどうする?)

(あいつはだめだ。《スキャン》でステータスを見たが…、あんな弱いものどうしようもない)

(ふむ。しかし我々が…)

(ちょっと待て、ジース。どうやらチビがきてしまった)


ビクッとした。

気づかれたようだ。

(出てこい)

やっぱりだ。マルクはドラゴンと会話ができる。

恐る恐る建物の中に入っていく。

(盗み聞きとは。プライドもない上に品もないな、チビ)

(失礼ね!聞くつもりはなかったけど、あなたがジースさんと会話しているのに驚いて…。そうね、盗み聞きしたことは謝るわ。ごめんなさい)

(そう言ってやるな、マルク。おいでおチビさん。少し話そうじゃないか)


どうやらさっきは寝ていたジースさんと話せるみたいだ。

(いい子なら夜遊びせずに、ご主人様のベッドで大人しくしておけばいいのに)

マルクは嫌味ったらしい。しかもベッドに引き込まれるのを知っていたのか。

警告してほしかった。


(はじめまして、ジースさん。わたし…まだ名前はないですけれどルミナ・ドラゴンです)

(よろしく、おチビさん。さきほどは挨拶を返せずすまないね。人間の手前、あまり起きてるわけにはいかなくてね。わしはポンコツになったと思わせておるんだ)

(どうして?)

(ふん、来たばかりであまり知らんだろうが、やつら人間はドラゴンの扱いがひどい。最近はわしがだめになったと思って、あまり外に出されなくなったが、以前は休む間もなく外で運搬させられていた。今おらんアモネも我慢の限界だ)

(そんな…)


驚いた。確かにミクロ伯爵は気持ちが悪いが、一緒に寝ようとしたり彼なりに可愛がろうとしてくれていたのかと思っていた。それにトーマスさんやロンくんも優しかったし。


(信じないならそれでいい。貴様のようなペット気取りが1番ドラゴンの品位を落とす原因となっている)

(ペット気取りって…)

まあペット気取りだけど。だって可愛いペット目指してんのよ?

なによマルク。会話するとなるとペラペラと。

しかも嫌味なやつだ。そういえば…


(さっき言っていた《スキャン》って何?)

(ふん。《スキャン》も知らないのか。チビはペットでいるのが1番幸せだろうな)


どうやら教えてくれないようだ。

むむ。でもあの話しぶりからして《チェック》の対外的なスキルなのかしら?

悔しい。使えないだろうか。


《スキャン》


あ。使えた!!案外簡単に習得できた。

《チェック》にやはりやり方が似ている。

どれどれ。

------------------------------------------------

マルク

ブルーダイヤ・ドラゴン

♂ Lv.55

健康

ランク: B

固有スキル:潜入の心得

スキル:《氷の嵐》《鏡の間》《アイスランス》

《人化》《ゲート》《ライト》《ハイケア》

《スキャン》《チェック》

称号:硬派気取り

------------------------------------------------


(え!!マルクさんってドラゴンなの?!)

マルクが少し驚いた目で見ている。ふっふっふ。どんなもんだ。うん。初めて彼の表情を動かすことができた。


(…ドラゴンでなかったら、こうやって話せるのはおかしいだろう?《テレパシー》が使えたら他種族でも話せるらしいが)

(へえ。びっくりした。あ《人化》で?ね、この家の人たちはマルクさんがドラゴンって知ってるの?)

(知らない。この家のものは誰も《スキャン》を使えないからな。人間として雇われている。あの太った主人の付き人兼、護衛だ)

(ふーん、そうなんだ。ところでマルクさん…硬派、気取ってるんだ?)

今までのお返しとばかりに少しバカにすると、マルクがキッと睨んできた。

しかし彼がドラゴンだったとは。


(フハハハハハハ、マルク。やられたな。おチビさんなかなかやるじゃないか。《スキャン》をわしは使えないからね)

ジースさんが腹を抱えて笑いだした。

ドラゴンも腹を抱えて笑うのね。

(ジースさん、あの…)

(わしのも見たかったら見るがいい。大したものではない)

(いいんですか?じゃあその失礼して)

(フハハハ。行儀がいいな。外に行ったらみんな声なんかかけずに勝手に見れるやつは見てるよ)


他のドラゴンは、どんなステータスなのかちょっと興味があった。見れるようになると余計だ。


------------------------------------------------

ジース

ファー・ドラゴン

♂ Lv.43

健康

ランク: C

スキル:《地鳴り》《穴掘り》《星落とし》

《硬化》《ケア》《チェック》

称号:荷運び上手、居眠り王

------------------------------------------------


(な?大したことはないだろう?運搬時に襲われた時に身を守っているだけだしな)

(いいえ。とんでもないです。お二人ともお強いんですね。わたしなんてLv.1でランクFですもん)

(なんと本当か?)

(ああ。吹けば飛ぶような弱さだぞ、このチビ。ぬくぬくとファームで育っていたしな)

(ふむ…。)

(しかしこのチビは固有スキルを持っている。飢えた心か。あまり聞いたことがないが…)

(…マルクさん。固有スキルって一体なんなんですか?わたしよく分からなくて)


マルクは少し呆れたような顔をしながらも説明を始めた。


(俺の固有スキルで説明すると、つまり潜入の心得だな。主に人化している時に役立っているが、その名の通り、上手くその場に潜んだり、紛れこむことができる。実際ここの人間には俺がドラゴンだってバレちゃいない。いざとなればステータスの隠蔽・修正も可能だ。先天的にもっていて、新たに習得していくスキルとは違う。それに固有というだけあって、あまり他に聞かないものも多い)

(へえー…勉強になりました。ありがとうございます。あの、わたしのってどんなのだと思います?)

(飢えた心か…。どんな効果かわかっていないのならば、ただの食いしん坊スキルかもしれんな)

(なによ!)

確かに食いしん坊だけど!!


(で…おふたりは何を話していたの?)

おそるおそる話をもどしてみる。

二人(二匹?)で、夜中にこっそりと密談なんて…。

(俺たちはドラゴンとしての誇りを取り戻そうとしている)

(うむ。牙をぬかれたようなものだからな)


(誇り?)

なんのことだろうか。

そのあと二人は黙ってしまった。


(ねえ、ドラゴンの誇りって?)


(…わしたちは脱走して野良ドラゴンになるのさ)

ジースさんは観念したように語り始めた。

(え?!)

(まあマルクは元々野良で、ここに潜りこんだだけだがね。彼は各地のドラゴンを解放してまわっている)


なにそれマルク。活動家みたいなことしてるの?解放って。さすが硬派気取り。


(俺も元々飼われていたがな。今は自由だ。いいぞ、自由は。かつて空の覇者と呼ばれた存在に我々は戻るんだ。今はどうだ?人間にこき使われて、ドラゴンの尊厳はなくなってしまった。ましてやお前みたいなペットだと…?ドラゴンは魔物たちの王とも呼ばれた時代もあったのに。このまま人間に使役されたままでいられるか)


ううむ。ドラゴンにも悩みがあるのね。それよりも不安なことがある。

ここから脱走したいっていうのは…


(ね、ここはそんなにひどい生活なの?)

(いや、おチビさんにとってどうかは、わからぬ。我々は家畜ドラゴンだ。お主はペットとしてここにきた。それに人間にとって価値があるようだし。現にわしらよりは扱いもいいだろう?部屋に連れてもらえるのだから。まあ、危険性がほぼ皆無だからだろうが…)

(ふん、だがお前は野良にはなれんし関係のない話だ。あまりにも弱すぎる。ここで聞いたことは忘れて戻れ。いい子にしろ、とお前はママに言われていただろう?)


そうだ。どんな暮らしになるか分からないが、ママには誠心誠意飼い主様につくすよう言われていたのだ。

それにわたしは今度の人生では可愛いペットになると決めている。


(さあ、いい子、だろう?もう夜更かしはだめだ。あの主人のベッドに戻りな。大切な歩く宝石が盗まれないよう、折角彼が抱きしめて寝ているのに)


マルクは突然わたしをつかみ上げると、ぽいっと建物の外に掘り出した。

(さあ、ここからしっかり見張っている。早く部屋に戻るんだ)


わたしにはこれ以上話をしてくれないのだろう。

後ろ髪を引かれながらも、空へと飛び、出てきた窓に戻ることにした。


ママ、ファームをでて新しい生活が始まって他のドラゴンにも出会えたわ。

ドラゴンとして生きるってなんだろうか。尊厳とか、そんなのが必要なのだろうか。


うん。でもわたしはペットとして生きると決めたのだ。

彼らは野良になる道を選んだ。

それだけのこと。

それに、わたしはまだこのミクロ伯爵にひどいことはされてはいない。元人間としては人間と袂を分かちたくもない。


ただ他のドラゴンに折角会えたのに…


(いなくなっちゃうのね)


部屋に戻ると伯爵は腹を出して寝ていた。

そっと布団をかけ直す。

中には行きたくないので、上で寝ることにしよう。


わたしは柴犬のコロ助にあこがれた女。

ペットライフ1日目から考えることはあるが、

ペットとして生きることには迷いはなかった。

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