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プロローグ

「振られたあああああああ!!」


河原で大きく息を吸い込んでお腹の底から叫ぶ。

もやもやした気持ちが全て出て行くように。

私、小西有紗は、大好きだった先輩に告白して、見事に玉砕した。


「有紗…叫んでんの、めっちゃ人に見られてる。」

呆れたような声が後ろから聞こえる。幼馴染の宮川さつきだ。

「ほら。これでも飲んで気持ち落ち着かせなよ。

せっかく元々可愛い顔してんのに、今すっごいブサイクだよ。」


さつきがビニール袋からパックのジュースを出す。

わたしの好きないちごオレだ。

近くのコンビニで買ってきてくれたようだ。

嬉しい。

「さっちゃん、わたしと付き合って。」

涙と鼻水を垂らし、いちごオレを受け取りながら私はいう。本当にずっと小さい頃から彼女を頼りにしている。男性が好きだけどもしさつきが男性だったら真っ先に惚れてる。

間違いない。


「そんな鼻水小僧、ごめんだけど、お断り。」

「そんなあ〜〜。」


ふぅっとため息をつきながら、さつきは河原の石段に腰を下ろす。いちごオレにストローをさしながら、私もそれに倣う。


「あのね、人生長いんだから。今は藤本先輩で頭いっぱいだろうけど。好きな人、きっとまたできるんだし。次だよ!次!!

ほらほら、あそこにもあんたのタイプっぽい坊主頭が走ってるよ。」

「わたし坊主だから藤本先輩好きだったわけじゃない。

藤本先輩の坊主が!好きだったの!!!」

「違いわかんない。どう違うの?」


河原の向こう岸で走っている坊主頭の青年を見る。

「なんか違う。形が違うし、そもそも藤本先輩じゃない。」

「わたしてっきり坊主が好きなんだと思ってた。」

「違うよ!??」


ふぅっとため息をついて、うつむく。

髪がさらさらと肩からずれて顔にあたる。

風が吹いたら鼻水にひっつきそう。

「先輩がロングヘアが好きだって言ってたから髪も伸ばしたのに。」

失恋した今となっては、髪の毛に鼻水がついていようと

もうどうだっていい。

でもいちごオレは美味しい。鼻水で少ししょっぱい気もして来た。やだやだ。


「ベタだけど、すっきりするだろうしね。切るのもありじゃん。

有紗、小顔だから似合うよ。ショートも。多分。」


ズズズ ズズズズズ

さつきがもう飲み終わったのか、ストローのすする音が横からする。


「さっちゃん…わたしね、犬の散歩してる藤本先輩見てね。

最初好きになったじゃん?」

「うん。そうだったね。ここも散歩コースだって言ってたね。」

「ほら、優しく柴犬撫でててさ。部活中の厳しい表情と打って変わって

こう、ほら、優しい笑顔がさ。眩しくて。」

「ギャップだねー。」

「うん。話すたび好きになってたのに。真逆!!彼女がいるなんて!!!

しかも、告白した時、彼女いるんだ、って言った後、

なぜか彼女の惚気話までするし!

好きだって言ってる相手にそれする!??

でもまだ、それでも、わたし、先輩好きだし!!!!」

「重症だね。それ。」

さつきが哀れむような目で見てくる。

「はぁ…生まれ変わって、藤本先輩のペットになれないかな。」

「有紗、それ違うよ!?ペットでいいの??」

「だって好きな人の笑顔、あんな至近距離で見れるんだよ!?

わたし柴犬のコロ助2号になりたい!!」

目の前の川が涙で歪む。

もうなにがなんだか分からない。彼女になれない。ペットにもなれない。

もはや何にもなれない気がしてくる。

せめて好きな相手の笑顔が間近で見れる存在になりたい。


「ペットね。でもあんたがそのまま犬や猫に変わってペットになっても

根本的な解決にならないし。辛いんじゃない?」

さつきが真剣に答えてくれる。


自分がペットだったら、か。


「辛いのかな。今よりマシな気がするんだけど…。」近くで笑顔見れるし。

「辛いと思う。それより向こう側にいる坊主好きになった方がマシ。」

向こう岸の坊主頭君は、ある一定の距離を往復しているのか、また走って戻ってきていた。

先輩と頭の形も違うし、当たり前だけれど、彼のことはちっとも好きになれそうにない。けど。


「…ありがとう、さっちゃん。」


話を聞いてくれて嬉しかった。失恋話なんて聞くだけ大変なのに。


「お。あの坊主君に惚れそう?いいね。応援するよ。」

「違うよ!!!」


ケラケラと笑うさつきを睨みながら、私は石段を登り始める。夕方、交通量も多く、みんな急いで帰りたいのかスピードを出している車が多いのが見える。

川の匂いと違ってなんだかガソリン臭い風が吹く。


「ちょっと、有紗待ってよー!」

さつきは背伸びをして、待ってと言う割に急いでいない。


「ありがとう!さっちゃん。おかげでちょっと気が楽になった。

遅くなっちゃうし、帰ろう?」

鼻水をティッシュで拭う。ジュースのパックを捨てにコンビニに行かなきゃ。

いつも助けてもらってばかりだ。さつきにはまたちゃんと何かお礼をしよう。


石段を登りきって歩道にでる。

振り返ってさつきの方を見ると、川が強い夕日の光に反射して、眩しくて目がくらむ。

ああ、帰ったら寝る前にまた泣くんだろうな。でも今はなんだかすっきりした気分。青春気分を味あわせてもらえたし、それだけでも藤本先輩好きになってよかった。


「あ り さ ! ! ! !」


川の光に目が慣れてきた時にすごい轟音が聞こえて、

振り返った時には目の前に車があって。

あれ、ここ歩道のはずなのに?なんで?

と思っても体が動かない。


スローモーションのように車が近づいてきて。

さつきの叫び声も聞こえてきて。

運転手さんが寝ているのも見えて。

でも体は硬直して動かない。


ああ、これ逃げられないやつだ。と悟った。


激痛が走ったと同時に

視界が真っ暗になった。



…?

自分の身体が宙に浮いている気がする。


…飛ばされた?


それにしては、あれ?

ぶつからない?



二度目の激痛が襲うかと思いきや、

いつまでたっても痛みは来ない。

むしろ、


痛みを感じない。


ついに感覚すらなくなったのか。

それとも…


死んじゃった、のか。



目を開けようと思っても

開けてるのか閉じてるのか分からない。


それに体の感覚もどこか不安定で

形状が定まらない気がする。

手や足もないようだ。

意識だけ、ってことなのか。


あーあ、これは死んだってことなのかな。

まさか失恋した日に死ぬなんて。

次の恋もなにもなかった…!

コンチクショウ!

…辛いなあ…報われないって…





…どれくらい、ふわふわしているのかせ

分からなくなってきた。

不思議と悲しみは出てこない。

記憶が薄れてきている気もする。


ぼやんとした意識の中、ふと考える。

死んだとしたなら、

生まれ変わりってあるのかな…?


ゾワゾワと身体が動く。

不定形だった形状を

どうやら変えることができるようだ。

よし。イメージしよう。


そうだなぁ…こんな辛いなら

可愛い先輩の愛犬のコロ助みたいに

愛されるペット的な…

好きな人の笑顔が間近でみれるような…

そんな存在になりたいなぁ…


そう思った瞬間、

身体が急速に定まっていくのを感じた。

何になったのか、わからないまま

身体がくるくると回転して

どこかへと吸い込まれていき、

そこで1度意識がなくなった。

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