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シナリオ屋

シナリオ屋(三) 「如来さま」

作者: 縁ゆうこ


 ここは生まれ変わりを待つお方が住む世界。

 ちょうどあちらとこちら、いわゆる天と娑婆の中間にあたるんでございます。

 なので、娑婆ではめったにお目にかかれないような方も、時々お遊びにやって来られます。


「邪魔するよ」

「いらっしゃいませ」

 あっしはそろそろおいでになるなとわかっていたので、驚きもせずにお迎えいたします。というのも、この方がいらっしゃる前には必ず、えも言えぬ良い香りが店にただようんですよね。

 このお方は、如来さま。

 この世のすべてのことわりがおわかりになっていらっしゃる、それはそれはすごいお方なんでさあ。

 とはいえ、ぱっと見はちっともそんな風には見えなくて。雰囲気もひょうひょうとされていて、どこぞのぼんぼんか若旦那かという感じです。

「さて、シナリオ屋」

「へい」

「何か面白い話は仕入れられたかい? 」

 どうも天の世界と言うところは変わりばえのない世界のようで。

 そりゃあそうかもしれやせん、皆さま生まれ変わりを終えられた、まあいわば、最高にできたお方ばかりの世界ですから。

 そんなお方が、なぜあっしなんかのような一介のシナリオ屋の所へ足繁く通われるかというと……、先ほどおっしゃったように、娑婆の話を聞きに来られるんです。

 ですが、如来さまの中には、ごくたまーになんですが、自ら娑婆へ降りられる方もおいでになります。実は今日来られたこの如来さまもそのひとり。


「ええっと、聞くところによると、如来さま。ついこの間、娑婆へ降りられたって話じゃありやせんか。あっしなんかの話より、よっぽど面白かったんじゃあ、ありませんか」

 すると如来さまはおとぼけになる。

「へえー、そんな奴がいたのかい? けどどうやらそれは私じゃないねぇ」

「またまた」

 そんなとりとめのない話をしていると、すいっと如来さまの姿が消えてしまいました。姿を見られたくないお客様が来たとき、こうやって如来さまは自分の姿を隠されます。



「いらっしゃいまし」

 店に入ってこられたのは、うちには珍しいことに妙齢の女性でした。

「お邪魔するわね」

「へい」

 その方は店をぐるっと見回されたあと、そのお綺麗な顔に不審な表情を浮かべ、あっしをジロジロと眺めてこられます。いや、美人は得でやんすね。そんなきつい表情をされていてもあんまり嫌な感じはいたしません。

「ここに凄腕のシナリオ屋がいるって聞いてきたんだけど。……アンタじゃないわね。ちょっと! その人呼んできてよ」

「へえ? いいえ、うちにはあっししかおりませんが」

「ええ? なにそれ、じゃあアンタがその凄腕? うっそおー、アンタみたいな陳腐な奴がぁ? あはは」

 あれあれ、いくらお美しくてもその言葉にはお人柄が表れるってもんです。

 どうやらこの方は、ええと、あんまりお友達になりたくないお方ですな。

「冗談言ってないで、早く凄腕のを出してよ。アンタどうせアシスタントなんでしょ、まったく気が利かないんだから」

 いくら温厚なあっしだって、腹に据えかねるときもありやす。

「噂か何か知りませんが、本当にこの店のシナリオ屋はあっしひとりなんでございやす。お客様、店をお間違えになったんじゃありやせんか? とにかく、ここにご用がないのでしたら、どうぞお引き取り下さい」

 ちょっとムッとして、とは言え、あっしなんかが凄みをきかせても、ちっとも怖くないとは思いますが、言い返してしまいました。

「あ、あら? そうなの?」

 するとその方は、思いも寄らないあっしの反発に驚かれたご様子でした。で、次の瞬間、手のひらを返したような猫なで声でおっしゃいます。

「まあーごめんなさいね。まあそうねえ、人は見かけによらないって言うわよね」

 そのあと。

「じゃあ、アンタが私の次のシナリオを書いて下さらないぃ? ねーえ、い・い・で・しょ」

 ひぃえー。その方は、娑婆で言われるところの色仕掛けを使って、豊満なお身体で迫ってこられます。いくら酒もお金も色も関係ない中間地帯とは言え、あっしだってその昔は男に分類されていたので、その……、なんですか、かなり忍耐を要しますな。


「あ、わわわ」

 ジリジリと迫るその方に後ずさりしていると、ドンと誰かにぶつかりました。驚いて後ろを振り返ると、そこにおられたのは。

「あ」

「あ!」

 同じような声を上げたんですが、お客様はあっしなんかよりよっぽど大きな声で、しかもとっても嬉しそうです。その上、力任せにあっしをどかそうとなさいます。

「ちょっと! アンタ邪魔! 」

 そう言われるんですが、なぜかあっしの身体はびくとも動かなくて。

 あっしの後ろには、ここに来られたときとはそのお姿もオーラも全然別人になっているのですが、なぜだかそうとわかってしまう如来さまがおられたのでした。

「そんな言い方はないだろう。これから貴女のシナリオを書いてくれる人だ」

 その上、お声まで違います。

「やだー、もうシナリオなんてどうでもいいの。またお目にかかれたんですものー。私に会いに来て下さったのよねー」

 さっきの猫なで声とは雲泥の差の、もう、なんて言いますか、気持ち悪いようなドロンと溶けた声でその方はおっしゃいます。

 そりゃあそうでしょう。あっしの後ろにおられる如来さまは、あっしですら惚れちまうような、それはそれは美しいお姿ですもん。

 ですが、次に如来さまがこうおっしゃられました。

「そうだ。貴女に本当の姿を見せに来たのだ」

「え?」

 言うが早いが、如来さまのお身体がムクムクとふくれあがります。それがボワン、とはじけたかと思うと、骨と内臓が飛び出て血がはじけて、なんていうか、この世のものとも思えない、目を背けたくなるような醜いお姿に変わり果てました。

「ひええー」

「ひえ!」

 お客様とあっしは、また同じような声を上げてガタガタ震え出します。

「お前は、これとまた会いたいとか世迷い言をいっているが、肉体とは本来、骨の上に肉をつけて血を流して、内臓をぶち込んだだけのもんだ。一皮むけば、全部同じさ」

 ケケケ、と骸骨が薄気味悪く笑いながら話します。

 そして、なぜかびくともしなかったあっしの身体が横に動いて、骨と皮の如来さまがお客様にジリジリと近づいていかれました。

「キャアー!」

 骨の手をすっと伸ばした所で、その方は金切り声をお上げになって、目にもとまらぬ早さで逃げていかれました。


「あ、わわわ」

 本当ならあっしも逃げたかったんですが、情けないことに腰が抜けちまって、その場にヘナヘナと座り込んじまったんでさあ。

「情けないねぇ」

 すいっと腕を取られたかと思うと、不思議なことに足腰がきちんと伸びて、すぐに立ち上がれたんです。

 見るとそこには、もとの若旦那姿の如来さまがおられました。

「如来さま、お人が悪い!」

「あれれ、何のことかねえ」


 そのあとよくよくお話しを伺ってみると。

 あのお客様は、今回で天にお帰りになれるはずだったそうですが、少しばかりのいたずら心から、1度だけ絶世の美男に助けてもらえるというシチュエーションをお入れになってしまい、天に戻れなくなっちまったとのことです。

 それというのも。

「そのお方に執着しちまったんすか」

「そのようだね」

 あっしは、さっき見た美しいお姿を思い出しながら言いました。

「まあ、お気持ちはわかりますがねえ」

 と、ここでハタと気がついて、如来さまにお伺いしました。

「如来さま。まさかあのお客様をお助けになったのは」

「私じゃないよ」

「よかったあ」

 あっしはホッと致しました。

 いえね、実は如来さまっていうのは、困ったお方を目にすると、ひょいと何の気なしにお助けになってしまうんです。ただ、その方の人生に支障がないとわかっている事柄だけですがね。

 で、お姿を見られるようなヘマは決してなさらないんですが、シチュエーションがシチュエーションだけに、わざとお姿を見せたのかと。

「けど、あの絶世加減、とても人間わざとは思えないねえ。だれのいたずらだろう。ちょっとあとで注意しておくかな」

 あっしが胸をなで下ろしていると、如来さまはなぜかそんな風につぶやかれました。

 なんなんですかね、まあ、あっしみたいな下っ端は知らなくてもいいんでしょう。


「それにしても、娑婆のやからっていうのは面白い奴ばかりだねえ」

「へえ、そりゃまたなんでですかね? 」

「自分が書いたシナリオで、あんなに一喜一憂しなくてもねえ」

「はあ……まあ下へ降りるときは皆さま、内容は覚えてませんから」

「それにしても」

「?」

「最近は昔からあるような普通に起きてくることにも、過剰反応しすぎだね」

「なんのことですか?」

「地震、雷、火事、親父おやじってね。まあ親父なんてのは人間のがあとから付け加えたんだろうけどさ、あとの三つに関して」

「そうですかねえ? まあささいなことに驚きまくるのが、当節の流行はやりなんじゃありやせんか」

 あっしがそんな風に言うと、如来さまはカラカラとお笑いになる。

「相変わらずお前さんは面白いねえ。だからまた来たくなってしまうんだね」

 そんなお言葉を残して、帰って行かれました。



 それからしばらくして。

「こんにちは」

「へい、いらっしゃいまし。あ、」

「お邪魔してもよろしいかしら」

「あ、はい」

 なんと、おいでになったのは、この間のお客様でした。

 ですが、何ていうか、どうもご様子が変わっておられます。あのときのような高慢な感じはこれっぽっちもなくて。

「実は、シナリオをお願いしたくて」

「へえ、ですが、あっしはお噂のような凄腕のシナリオ屋じゃあ、ありやせんよ」

 そう言うと。

 かすかに首を横に振られたような気がしたんですが、それとは裏腹なお言葉を返してこられました。

「はい、わかっています。わかっていてお願いするんです」

「はあ」

 情けない返事をすると、その方は本当に可笑しそうにコロコロとお笑いになりました。

「あの方のおっしゃる通りね。あのね、私、自分の執着心にようやく気がついたんです。大事なのは見える容姿じゃなくて、その心持ちだってこと。だから、貴方にお願いしたいの。次のまれ変わりで、誰にも文句を言われずに天に帰れるような、爽やかなシナリオを書いて頂きたいのよ」

 そうおっしゃるお顔は、本当にすがすがしくて。

 あっしは嬉しくなって元気よく返事させて頂きやした。


「へい、かしこまりました。このシナリオ屋、あなたに最高の人生を書かせて頂きます。まいどありい!」





ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

シナリオ屋3つ目のお話しです。

今回は天から遊びに来られた方がからんだお話しです。見た目がどんなに綺麗でも、人間の身体の中身は皆同じ、という、今ちよっとはまっているお釈迦様の名言のひとつをお借りしてアレンジしました。と言うかそのまんまですね、ごめんなさい(笑)

今後もお話しは続くかと思いますので、気が向いたら覗きにいらして下さい。

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