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短編集

最近のワ○ピースはつまらない

作者: 霜月トイチ

 久々に中学の頃の友人たちと飲んだ。


 当たり前だけどみんなもう社会人で、中には結婚をしている奴もいた。

 みんなの酔いが回ってくると、その場には男しかいなかったからか、女の話ばかりになった。

 元クラスメイトの女子がすげぇ綺麗になってたとか、学年のアイドルだった子には子供がもう二人もいるとか、目立たなかったあの子には今彼氏が三人いるとか、良い話も悪い話もなんてことない話も色々出てきた。

 そしてそれがひと段落すると、今度は漫画の話になって、その中の数人がこんなことを言ってたんだ。

「最近のワ○ピ、マジつまんねぇ」

「グラ○ドラインに入る前の方が面白かったよな」

「やっぱあの頃のメンバーが一番良いべ」

「お涙頂戴はもういいっすわー」

 などなど、酔った勢いで言いたい放題。

 そんな中、俺はというとワ○ピースは小学生の時にアニメを観ていたくらいで、原作は中学の部活の後に通っていた接骨院に置いてあったのを暇つぶしにパラパラと読んでいた程度だった。

 だから正直この漫画に思い入れみたいなものは特になかったので、彼らの言葉には「へぇー、そうなんだ」とくらいにしか思わなかった。


 そんなこんなで飲み会は終了し、解散となった。

 俺は自宅の最寄り駅まで着くと、切らしたタバコを買おうとコンビニに立ち寄った。

 まだ酔いが冷めてなかったからか、気まぐれにフライデーでも買おうかと本棚のある方へ向かった時、視界に一冊だけ残っていた週刊少年ジャ○プが目に入った。

 そして先ほどの会話を思い出し、ワ○ピースのページだけ立ち読みしてみたんだ。

 確かに、面白くなかった。

 というか話が全然わからなかった。だって俺がアニメで観ていたのは確か、雷を使う奴が出てきたあたりまでだったから。何か神様? みたいなの。

 すぐに興味が冷めてしまった俺はさっさとそれを棚に戻すと、フライデーを抜き取り、タバコを一箱だけ買ってコンビニを出た。

「う~寒っ」

 二月の夜はすごく冷えていて、思わず身震いをしてしまう。

 それでもタバコに火を灯し、ぷはぁと白煙を宙に放つ。やっぱうまいな、寒い夜に吸うキャスターマイルドは。

「あー……明日月曜か。仕事行きたくねぇ……」

 嫌なことを思い出してしまい、とぼとぼと自宅までの道のりを歩く。

「…………」

 今日は、ひとつだけわかったことがある。

 最近のワ○ピースは、確かにつまらない。

 いや、これは、


 ――〝今の俺たちにとって〟最近のワ○ピースがつまらないだけなんだろう。


 たぶん、ワ○ピースは今でも十二分に面白い。決して最近のワ○ピースがつまらなくなったわけじゃない。

 つまらなくなったのは、そう……俺たちの方だったんだ。


 ――俺たちが、つまらない大人になっちまっただけなんだ。


 毎日仕事に忙殺されて、色恋なんていう快楽を覚えてしまって、酒やタバコがないと息抜きもできないようになってしまって――――純粋にワ○ピースを楽しめる感性を、知らない間に失くしてしまっただけなんだ。

 ワ○ピースは、どこまでは面白かったとか、あれ以降はつまらなくなったとか、そういうのじゃねぇんだ。


 ――読者だった俺たちが、いつまで子供でいられたかどうか、なんだ。


 昔はみんな、主人公たちが悪い奴らをぶっ飛ばしてくれればそれだけで楽しめていたはずなんだよ。

 内容にいちいちケチをつけるなんてつまらないことはしていなかったはずなんだよ。

 ふと、さっき杯を交わした友人たちの顔が浮かぶ。

 でもお前らはさ、文句を垂れながらとはいえ、今でもワ○ピースを読んでいるんだろう?

 ならまだ心のどっかに残ってるんだ、あの頃の純粋な心が。

 ……正直、羨ましいよ。

 俺なんて、今日の今日までワ○ピースを読もうとすることさえしなかった。いざ読んでみても、また読もうなんて気にもなれなかった。

 なんたって俺はさっき読んだジャ○プのアツいバトル展開よりも、さっき買ったフライデーの嘘くさい下品な煽り文句の方に惹かれてしまうような人間だ。

 なんかなぁ、わかんねぇんだもう、あの頃のワクワク感ってのが。

「はぁ。どんな、だったっけな……ぁ」

 ただ、ひとつだけ思い出したことがあった。

 ガキの頃、俺は歌を唄うのが物凄く苦手だった。今じゃそんなこともないけど、人前で唄うなんてとんでもなかった。

 でも嫌いではなかったんだ。だから風呂に入る度、密かに一人で唄っていた。知っているアニメの曲なんかをちょくちょく。

 その時よく唄ってたのがワ○ピースのエンディングテーマだった。たぶん一番初期の。題名は忘れた。でも歌詞はなんとなく……酔って気分良いし、ちょっと口ずさんでみるか。


「~~~~~~♪」


 あ……これ、こんな歌詞だったんだ。

 あの頃は歌詞の内容なんて気にしてなかったから、全然気が付かなかった。

 それはとても郷愁的というか、懐かしいというか、切ないというか。

 それ以上に、まるで今の自分を唄われているかのようで、グッと来ずにはいられなかった。

 つまり、

「いい、歌詞じゃねぇか……」

 すると、心が軋んだ。胸が痛くなった。

 でも……ホッとした。

 それはとても微量だけれど、俺の中にもまだ、残っていたみたいだ。


 子供の頃、いつも心に描いていた、宝の地図の切れ端が――――。


 了

 作中に出てきた楽曲は大槻真希さんの『Memories』になります。

 本当は歌詞も掲載したかったのですが、たぶん駄目なので実際に聴いてみていただけると幸いです。


 https://www.youtube.com/watch?v=hBhS3xO2XqU


 日々に擦り切れている大人には、響く歌詞だと思いますよ。

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