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『ぼっちの学園生活』 短編

作者: マーボー


家族は父と母、それに妹が一人。

去年から高校に通い初め、今月で新学期。

二年生となった今年は、高校生活で遊べる最後の年だ。

だから俺は、後悔の無いように今年を遊び尽くそうと思っていた。

だけど……


「なんで俺の隣には……誰もいないんだ……」


そう。

俺は所謂、ぼっちというヤツだった。

学園では常に一人で、放課後も遊ぶ相手が居ないから、よく妹の買い物に付き合わされたりしている。

両親からは、たまには友達を連れてくるようにと言われるが、そんなのは俺の勝手だ。

去年までは俺だって友達という存在はほしかった。

だけど、出来なかったのだからしょうがないと割り切るのもまた一つだ。

それに友達が居なくてもこの一年、生きて来られたんだ。


「はぁ……」


そりゃあ入学時は何も期待しなかった訳じゃない。

憧れの高校生活。

中学生の頃からずっとイメトレはしてきていた。

どうやって最初の友達を作ろうか? クラスでの立ち位置はどうしようか? どの部活に入って活躍しようか? なんてのを中学の三年間ずっと費やしてきたし、ある程度そつなくこなせるように準備もしてきた。


「それも全部無意味だったんだけど……な」


そう。全てはあの日から始まったのだ。



◇◆◇◆◇◆◇



入学初日。俺はその日、人生で一番張り切っていたと言っても過言ではなかった。

前日は制服や持ち物のチェックを入念にして、寝る時間も遅刻しないように早めにとった。

これでまず遅刻という最大のミスは回避できるだろうと思いながら、その日は高校生活で活躍する夢を見た。


そして翌朝。


この日を俺はずっと待ちわびていた。

いつもなら何で朝日は上るのだろうかと、ひたすら自然に向かって悪態をついているところだが、この日ばかりは朝がやってきてくれたことに感謝した。

朝食を済ませ、昨夜のうちに準備を済ませていた制服に身を包み、鞄を手に取る。

そして玄関の扉を思いっきり開け、意気揚々と家を飛び出した。


「今日から、今日から俺の新生活が始まるんだ!」


外に出ると春先にも拘わらず、身を刺すような冷たい風が吹いていた。

その風を緩和しようと、太陽も雲から逃れながらずっと照らし続けているが、とてもじゃないが、夏のような暖かさは感じられない。

それでも今日の事を考えると、さっきまで感じていた寒さも段々と気にならなくなっていく。

俺の中で、太陽よりも自分のテンションの方が強いという放送が出来た瞬間だ。


「よしっ、早く学校へ向かおう!!」


気合いは充分、希望も満開。

これからの幸ある明るい未来に向かって俺は、一歩を踏み出そうとした。


『踏み出そうとした』


過去形。

主に過去、昔に行おうとしたが、実行できていない時などに使われる。


例題:俺は憧れの高校生活のスタートを満足にきれなかった。





「そこどけええええええええええええええええっっっ!!!!!!!!!」


「えっ……?」


そう思った時には、俺の身体は宙に浮いていた。

何か強い衝撃を受けたように感じたが、その衝撃の割に痛みは感じない。

そして地面をお別れしたにも拘わらず、不思議と浮遊感がない。

ガシャン! と下の方から何かがぶつかる音がする。

同時に俺も地面へと落下。そこから先は意識を失い記憶がない。

ただ意識を失う寸前、俺はこう思った。


あー、さらば。俺の輝かしい高校生活よ……。



◇◆◇◆◇◆◇



目を覚ますと、俺は何やらベッドに拘束されていた。

掛け布団の上から黒いベルトのような物で身体をグルグル巻きにされ、身動き一つとれない。


「ってこれ、息も……ふがっ」


そのベルトは何故か俺の首にも回っていた。

一体これは何のための行為なのか? 明らかに病院からの好意ではないようなのは感じられる。

まさかこれは世界が俺を殺そうと暗躍している?

なんて厨二な事を考えるような余裕はない。


「ちょっ! げほっ! おぇ、だ、誰かぁ……っ!」


ナースコールに手を伸ばそうとしても手が届かない。

おい何をやっているんだ病院。


俺はそこでまたしても意識を失っていく。

今度思ったこと? あー今度こそ死んだね。

こう思うのは当たり前だろう。



◇◆◇◆◇◆◇



「……ハッ! はぁ、はぁ……はぁ……こ、ここは……?」


目を覚ますと白い天井が目に入り、続いて汗でビチャビチャになってしまっている身体に嫌悪感を覚える。

そしてベッドと首には黒いベルトなど巻かれていなく、さっきまでの夢だという事に気がついた。

ここまでの事は概ね理解できた。

だがしかし、一体どうして俺がこの場にいるのかが分からなかった。

俺はたしか、今日から高校生のはずだ。

今の時間は……駄目だ、分からない。

でも、昼間という事はきっと今頃入学式が終わる頃だろう。


(まだ間に合う)


俺は全身に力を入れ、起き上がろうとするが、身体が言うことを利いてくれない。


「い、一体本当に俺はどうしちまったんだ……?」


その問いに答えてくれる者は誰もいない。

ナースコールを押そうとしても手が動かない。

奮闘する中、急激に眠気が俺の事を襲ってきた。

何もすることがなく、段々とその眠気が俺の思考を奪い去っていく。


(あーここで寝たらきっと俺はしばらく目を覚まさないだろう)


それだけは絶対に駄目だ。

まだ向かえば間に合うかもしれないんだ。

せっかくの高校生活が、これしきの事で台無しになってしまう。

そう思い、なんとか抗い続けていた俺だったが、またしも意識を失ってしまう。

今度はさっきの夢とは違って、一瞬で。



◇◆◇◆◇◆◇



額に何やら冷たい感触を感じた。


「んっ……んんっ……」


その冷たい感触を感じ、俺の意識が薄々と覚醒していく。


(なんだこれ……気持ちいい)


なんて思いながらも意識は次第にはっきりしていく。


「あ……俺……」

「お兄ちゃん!」

「ぶふぉっ!」


額に乗せてあった手が離れ、少しだけ寂しさを感じようとした瞬間、聞き覚えのある声とともに、腹部に衝撃を受ける。

そして腹部に受けた衝撃は次第に全身へと広がっていき、身体中の細胞という細胞が悲鳴を上げた。


「んがあぁぁぁぁぁあああああっっっ!!!!!!!!」


その悲鳴は声にもなり、室内に反響した。


「あ、ごごご、ごめんね? 大丈夫?」


大丈夫なわけある。

俺は視線で訴えるように、元凶である妹、姫香の事を睨み付ける。

薄い茶色に緩くウェーブがかっている髪型が、身体が震えるのと同時にふわっと揺れる。

そして小刻みにそのまま身体を震わせながら、俺に向かって声を絞り出した。


「ひぅっ、ご、ごめんね? 本当にごめんね?」


軽く睨んだだけでくりっとした大きい瞳が潤み、姫香は更に俺に謝ってきた。

まったく。うちの妹は可愛いヤツだな。

そんな可愛い妹に癒されながら、さぁ次はどうやってからかってやろうかと考えるが、それはノックの音に妨げられた。


「おぉ。目を覚ましたか!」

「もう! 心配したんだから!」


病室に入ってきたのは両親だった。


二人とも意識を取り戻した俺を見て、心配の声をかけてくれるが、表情はなぜか笑顔だった。


「父さん、母さん。何故にあなた方は笑顔なのですか?」

「だって、私たちの息子ならこれくらい乗り越えて見せますもの」

「ひ、ひどいよ。お母さん! お父さん!」


慈愛溢れた微笑みを見せているはずの母親の笑顔に寒気を感じる俺。

そんな俺の心情を察してくれたように、妹が母親に抗議の声を上げてくれた。


「それより、お前の事を引いた人物が病室の外にいるんだが会ってみないか?」

「は……?」

「え?」


姫香の言葉を遮った父さんは何気なくそう言い、その言葉に俺たちは唖然とする。

自分を……俺を引いたヤツがすぐそこの廊下にいる?


(父さんは今、そう言ったのか?)


俺の輝かしい高校生活のスタートを壊してくれた張本人。

そいつが壁隔てた所に居ると考えると、何だか少し腹が立ってきた。

だがしかし……


「誰なの? お兄ちゃんにそんな酷いことした人は!!」


妹が今までに見た事のないような怒気で、両親に詰め寄る。


「こんなに苦しんでいるお兄ちゃんを見たの、私初めてだよ! そんな酷いことした人を早くこの場に連れてきて!」

「ま、まぁ落ち着きなさい」

「そうよ。それにその人もそんなに悪い人じゃないのよ?」

「そんなの関係ないよ!」


姫香はそう言うと、病室のドアへと駆け寄る。


「出てきて! お兄ちゃんにちゃんと謝りなさい!」


父さんたちの制止すら振り切った姫香は、その怒気を撒き散らしながら病室の扉を開ける。

バンッと怒気をはらんだ強い音と共に、開け放たれたドアの先に居た人物。

あまりの強さに身体をビクッと震わせたのが分かった。


「…………」


その人物は、姫香の勢いに怯えながら病室に入ってくる。

漆黒の長髪をゴムか何かで纏め上げ、髪型だけ見ると大人なイメージだが、身長は少し低め。

白くもちもちしてそうな肌触りの肌をしていて、髪の色にも負けないようなこちらも同じく漆黒の色をした瞳が、今は怯えているせいか、少し心許なさそうに歪んでいた。

そんな大人な雰囲気と子供のような容姿を持ち合わせた女性が、申し訳なさそうにこちらにやってくる。

両親はその女性に今にも掴みかかりそうになっている姫香を押さえている。

そして、女性は俺の前に立つと、深々と頭を下げた。


「すまなかった。今日は君にとって大事な日だったのに……」


そう言う女性は頭を下げながら更に続ける。


「まさか私自身が、守るべき生徒を傷つけてしまうなんて……」

「え……?」


女性の言葉に、俺は何とも間抜けな声を出してしまう。

だが、そんな俺に女性は顔を上げて、涙で潤んだ瞳をまっすぐ向けて……


「すまない。まずは私が誰かを言わないとだな」


そこで一つ深呼吸をして、落ち着きを取り戻そうとする女性。


「初めまして。私は君が今日通うはずだった学園の教師をしている。桂木 加奈子と言う。こんな形の挨拶になってしまって本当に申し訳ない。更に言うと……」

「え……?」


今のこの女性、桂木さんの言葉に面を食らっていた俺は、まだ続くのかと驚愕反面疑問を感じる。


「私は君の担任を務める事になっていたんだ。まぁ今になっては処分という形で担任からは降格されるだろうが、な……」


後頭部を思いっきり殴られたような衝撃を覚える。


(え? あ……じゃあ、何か……?)


俺が、今まで楽しみにしてきた高校生活。

その希望に満ちた新生活を壊したのは、その学園の、しかも俺の担任だったのか?


(神はこの世にいないのか……)


まさかこんな結末になるなんて、まったく予想すらしていなかっただけに、衝撃がでかい。

これからの俺はどうなるのだろうか?

この先生の処分は?

妹の怒りは収まるのか?


駄目だ。

皆目見当もつかない。

だがしかし、これだけは言える。

俺はこれから入院するだろう。

本来同じスタートラインに立っていたはずのクラスメイトとの距離は俺一人だけ取り残され、離されていく。


するとどうなる?


必然的にぼっち確定だ。


(あーあ。こんなんなっちまうなんてなぁ……)


その日から、俺の希望溢れる新生活は、絶望に染まった暗い未来へと姿を変えたのだった。


(本当、これから俺、どうなるんだろうか……?)



――そしてその結果は冒頭に戻る。



これはあくまで試しで書いた物です。

一応連載も考えていますが、そっちはこの短編とは違った形のぼっちを書いてみたいと思います。


何かアイディアとか指摘がありましたら感想にてお知らせください。

その他の感想もぜひお待ちしております。

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