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王道で行こう!  作者: たまさ。
王宮警護
41/101

その6

――王族に対しての暴力行為!


 ルディエラの筋肉増量キャンペーンまっさかりの脳みそでも、その事態が気安い状況ではないことを瞬時に理解していた。


 王宮から少し外れた場では、遠い庭の随所にたいまつの火が揺れているが、ここは少し静かに虫の音だけが聞こえている。

りりりっと鳴く虫の羽音と、リルシェイラのうめき声。


ざぁっと血の気が引き、あわててうずくまる第二王子殿下にして司祭長リルシェイラの頭にがばりと手をかけ――更に不敬な態度であることに気づかないのがルディエラクオリティ。

 

「うわっ、頭の後ろがぺったんこ? ぺったんこになってる? ええ、ああっ、ぺったんこのトコでぼこってなってる、え、たんこぶ? え、でもどうしてぺったんこ? なにこれ。どうしようっ。ぎゃあ殿下っ」

 ぺったんこを連呼するルディエラに、リルシェイラは口元を引きつらせた。


「ごめんね、ぺったんこで、絶壁でっ」

 リルシェイラはべしべしとルディエラの手をはたくようにして拒絶し、痛みで半泣きになりながら恨めしそうに見上げてくる。


「どうせ私の頭はそれはそれは見事な絶壁だよっ」

「ああ、ごめんなさい」

「小さいころにキーシュが私のことをいっぱい殴ったのが原因だと思うんだけどね」

 どうやら絶壁の頭には相当コンプレックスを持っている様子で、突然殴りつけてきたルディエラを責めるより先に、何故か言い訳のように第三王子殿下キリシュエータの悪行を暴露する。

 挙句、

「好きで髪だって伸ばしてる訳じゃないし。細かいウェーブ作るのだっていちいち面倒くさいんだよ。寝づらいし。でもね、ほっとくと絶壁が目立つんだから仕方ないでしょっ」

――聞いてもいないのだが、自ら傷口をえぐるリルシェイラであった。


「あれ、もしかして――キミ」


 熱弁を奮ったリルシェイラはじろじろとドレス姿ルディエラを眺め、未だ手にもつ銀の短剣にキリシュエータの紋章を見て、


「第三隊の……コ? 来月、私の警護隊に入る」

いぶかしむかのように口にした。


――リルシェイラの警護隊。別名をリルシェイラの子守部隊。

主な仕事はしょっちゅう行方をくらますリルシェイラの捜索にあるということは、知られているが公言は禁止。暗黙の了解である。


「あ、はいっ。すみません。ぼく、ルディ・アイギルです」

「やっぱり? 私はね、人間の判断は骨格でするんだよ。だからどんな変装でも結構見破る自信があるんだ。人間の骨は誤魔化しようがないからね。今はとくにドレスだから、体の線が判りやすいからすぐに判った」

 

 何故か得意げに言うリルシェイラに、思わず――


「すごいですね! でも、ぼくも負けてませんよ」

 何故か対抗意識を燃やしてしまったルディエラは、ぐっとこぶしを握り締めた。


「ぼく、筋肉で相手を見分けることができるんですっ」

 嬉しそうに言うルディエラに、しかしリルシェイラは微妙な顔をした。

「キミって……変態?」

「何てこと言うんですかっ。筋肉で人を見分けるからって変態って、その決め付けはおかしいですよ」

「だって筋肉で判るって普通じゃないよ」

「それを言うのであれば、骨格で判るのだって相当普通じゃないですよ」


 何故か二人で張り合いだしてしまったが、突然リルシェイラは息をつめ、よろよろと立ち上がりながらルディエラの腕をがしりとつかんだ。


「そんなことより、キミの骨格と私の骨格って実は結構似てるんじゃない?」

 べたべたとその腕を触る様子は少しばかり犯罪的。

さすがのルディエラも思わず一歩退いた。


「なんですか、唐突に?」

「ちょっとそのドレス脱いでよ」

 いいながら突如ルディエラへと詰め寄る相手に、ルディエラは瞳を大きく見開いて「はぁ?」と声をあげてしまった。

 その声の大きさに、あわててもう片方の手を伸ばしてがばりとルディエラの口をふさぎにかかり、リルシェイラは声を潜める。


 王宮から騎士団官舎へと続く渡り廊下を外れた地面での珍事に、ルディエラは口をふさがれながら「ぶほほ?」と妙な声を出す。


「そのドレス、ちょうだい」

「……なふぇ?」

「この司祭長の衣装だと目立つでしょ? 私ってば髪も長いしね。ドレス着れば結構女の子としていけると思う。キミみたいにね」

 そぉっと口にかかる指を浮かせてくれる相手に、気を使い声を潜めて――それでもきっぱりとルディエラは応えた。


「まったく意味が判らないんですが」

「鈍いって言われない?」

 リルシェイラは嘆息し、やれやれと首をふりながら更にルディエラへと詰め寄った。


「私はね、同じところでじっとしていると死んでしまう病なんだ。だというのに、夜会なんて無理」

「はぁ」

 至極もっともらしく言いきるリルシェイラだが、勿論そんな病がある筈も無い。動かないと死ぬのはマグロだけにして欲しい。


「だから、キミのドレスを貰って逃げます。了解?」

 言うや、ルディエラの後ろに回りこみ、さっさとそのドレスの首筋にある留め金をはずしにかかるリルシェイラ――何度も言うように、相手は第二王子殿下にして司祭長リルシェイラ。


 本来であれば問答無用で肘裏を叩きつけ、相手が怯んだところでそのまま足を引っ掛けて張ったおすところだが、相手は腐っても王族――自分の行動の判断を見失ったところで、


「いたぞっ」

「殿下っ!」

「殿下発見、簀巻きにしてでもとっ捕まえろっ」


――第二騎士団及び、第三騎士団の数名によって第二王子殿下リルシェイラ捕獲。


「――」


 肩口までドレスをひん剥かれかけたルディエラの姿に、第二隊フィルドは嫌そうな顔をしつつ自分の上着を脱いでルディエラの肩に掛けてやろうと近づきかけたが、それより先に第三隊副長ベイゼルが自分の上着をさっさとルディエラの頭にばさりと投げかけ、抱え込むようにしてその上からぐりぐりと頭をなでていた。


「ご苦労さん。大丈夫か?」

「ふくちょーっ」

 ルディエラは飄々としたベイゼルの態度と口調に、思わずがばりと抱きつき、思いのたけをぶちまけていた。


「ぼくってばもしかして打ち首ですか!」

「へ?――」

「うわぁんっ、ぼくはもう駄目ですかぁぁ」

「なにがよ? え?」


――幸い、ルディエラが王族への不敬罪を問われることは無かった。

むしろリルシェイラを捕獲することに協力したということで、ルディエラは第二隊の隊員達――約一名を除く――に偉く感謝されてしまったし、キリシュエータも「よくやった」と褒めてくれた程だ。


「あの、何か事件があったんじゃないんですか?」

と、おそるおそる問いかければ「あの阿呆兄が脱走を企てただけだ。王宮中の隠し通路を網羅しているからタチが悪いんだ、アレは」とキリシュエータは忌々しそうに顔をしかめていた。

どうやら軍事将軍といえども、兄には苦労させられているようだ。


――ルディエラも兄にはちょっとばかり苦労させられているので、なんとなく同情的な気持ちが沸いてしまう。


 あ、でも今日はティナン兄様の心がちょっぴり判ったからいいか。

ルディエラはほんの少しだけ前向きにそんなことを思ってみた。


 

***


「ああ、留め金が壊れてしまいましたね」

 セイムが苦笑しながら言う言葉に、ルディエラはぐったりと椅子に座ったまま「どーでもいい」と応えた。

 はじめのうちこそ丁寧に脱がそうとしていた様子のリルシェイラだが――思いのほかルディエラが抵抗した挙句、他隊員達により発見されてしまった為、驚いた拍子に強引に引っ張り、ぶちりと壊れたのだ。

 

なんとか不敬罪を免れ、やっと着替えの為にサロン控え室に戻れた途端――ルディエラは思い切り脱力してしまった。

 僅かにこの部屋にまで夜会の楽隊の音色が聞こえてくるが、そんなことよりさっさと普段の自分に戻りたい。


「どうでも良くありません」

 マーティアはぷりぷりと怒りを表し、手首にわざわざ針山などをセットし、顔をしかめた。

「何してんの? もう着替えるんだよ?」

「黙っていらして下さい」


 最強侍女はギロリと睨みつけてルディエラを黙らせると、手早くルディエラの襟首の辺りを直しに掛かる。もうドレスなど脱ぎ捨てて隊服に着替えてしまいたいルディエラとしては、そんな侍女の行動が不可解でしかない。

 救いを求めるようにセイムへと視線を送ってみたが、セイムは笑いを堪えるようにしてそっと首をふる。


 すべてを諦めろというしぐさに肩を落とし、襟首のあたりでチクチクとやられる感触にげんなりとしていると、小さな物音を耳にしてルディエラは視線を上げた。

「はい、これでいかがでしょう」

「すまないな、マーティア」

 静かな物言いで礼を口にしたのは、


「クイン兄さまっ」


 ルディエラは第三騎士団のサロンの控え室だということを忘れ、がばりと身を起こして思い切り兄を呼んでしまった。

 あわてて口に手を当てたが、考えてみれば未だ夜会は続行中――警備はまだ続いている為に、第三騎士団のサロンも人などいないだろう。

 クインザムは共に連れて来たナーナに何事かを囁き、妻の許を離れると、穏やかな微笑を称え、すっと手を差し出し、瞳を細めた。


「似合うじゃないか」

「……そう?」

 穏やかな口調で言われると、なんだかもぞもぞと居心地が悪いが、当然悪い気はしない。

はにかむように笑う妹に、クインザムは丁寧に胸元に手を当てた。

「着替える前に、一曲踊っていただけますか?」

 少しだけ照れくさい気持ちになって、ルディエラは上目遣いに長兄を見たが、そっと首を振った。


「ごめん、兄さま。ぼ――わたくし、ダンスのレッスンはさぼってしまったから」

「ホールに行く訳ではないさ。ここでいい。それなら構わないだろう。私の動きに合わせてごらん」


 ちらりと兄嫁であるナーナを見れば、身内しか居ない場と判断したのか、ナーナは頭から掛けていたヴェールを下げ、にっこりとルディエラに励ますかのような笑みを浮かべた。


「足、踏んでもいい?」

「三回に一回踏み返して構わないなら」


 ルディエラは抱きつくようにクインザムの手に自分の手を絡めた。




 もちろん――その様子をハンカチを引き裂きつつ耐えるもう一人の兄の姿があったりするのだが、それは衝立の向こう側のハナシ。



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