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0章

私の祖父の手はとても大きく、ごつごつとしていたがとても温かかった記憶がある。私が何か手柄を立てた時にはその無骨な手で乱暴に頭を撫でられたものだ。

彼は幼い頃の私によくこんな話をしていた。木にも生命があり人間と同じように喋る事ができるのだと。今となっては馬鹿馬鹿しい話だが少年にとってそれはとても興味深く、印象的な話だった。


他にも祖父に関する事を思い返していたが回想から母の声によって引き戻された。

「あんたも幕ノ内弁当でいいの?」

妙にトーンの高い声は眠気を覚ますには充分すぎる程の破壊力があり、すぐにそれでいいと答える事が出来た。

普段私達がこの列車に乗る目的は祖父の家への帰省だが今回は違う。今まで妖怪か何かだと信じていた祖父がついに亡くなりその葬儀に向かっているのだ。それにも関わらず隣の弟はやけに上機嫌だ。おそらく遠出だということ自体が嬉しいのだろう。幕ノ内弁当を旨そうに頬張り、飲み込んでもいないのに話しかけてくる。

「政兄ぃは元気かなぁ…どう思う?」

政兄ぃというのは私達の従兄弟で名前は政明という。祖父の近所に住んでおり、面倒は全て彼がみていたというので少なくとも元気という訳はないだろう。

今回はこのデリカシーのかけらも無い弟の失言を防ぐのが私の役目となりそうだ。

弟の相手をしつつ弁当を食べ終える頃には窓の外には中国山地の山々が迫っており、目的地まではあとわずかであることを示していた。今回は駅に着けば迎えの車があるということなので普段とは違い、ローカル線を乗り継ぐ必要はなさそうだ。

それまでしばらく寝ておくとしよう。

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