12,東京都
2025年4月24日、東京都。
瓦井優希は実家に帰るために車で移動をしていた。
追っていた事件に関しては藤沼に託している。
残って捜査の手伝いをしたいと懇願したのだが「たまには家族に顔を見せてこい。」と言われ帰ることにしたのだ。
藤沼のそばに居たいという気持ちも大きいが、家族にも会いたい、そんな思いだった。
藤沼の隣に居たいというのは単純にバディのようだからか?
それとも尊敬しているからなのか?
彼女に恋でもしているというのか?
1番最後の考えは消したいのだが、消そうとすると心のどこかがモヤモヤし始めてしまうのだ。
尊敬する先輩に恋心を抱くなんて恐れ多いことはできやしない。
思っておくことだけならタダなのに瓦井は心の奥底にこの気持ちを封じることにした。
東京に入ると、周りの景色が段々と変わっていく。
夜でも明るい街。
人々の賑わい、その全てが群馬と違う。
群馬から東京に初めて帰った時に思ったことは空気がとてもどよんでいるということだった。
自然である田舎がどれだけ空気がすんでいるのかということを思い知らされた瞬間だ。
逆に東京から群馬に帰った時は、夜があまりにも暗くて夜中に出歩くことが難しいと感じることぐらいだった。
実家に着き、車を止める。
今家にいるのは母親だけ。
父親は急な出張でまだ帰ってこないらしい。
帰れる時に顔を見ておきたかったのだが、仕方ないと瓦井は思った。
実家の様子は変わらない。
少しものが増えたぐらいで安心感のある空間だ。
仕事では得られない安心感。
「あんたも、そろそろ身を固めたらどうだい?
仕事場にいい感じの人とかいないの?」
飲んでいた味噌汁を吹き出しそうになる。
食事中だろうと運転中であろうと、そういう話を急にしてくる母は昔から変わらないなと思った。
「い、いい人なんていないよ。
そもそも仕事で忙しくてそんな人を探す余裕ないし。」
「あら、そうなの?
でも、元気そうで良かったよ。
…あれ?どうしたの?
もしかして、まだ引きずってるの?」
「いや、そんなことないよ。」
「何回も言ってるけど、あれはあなたのせいじゃない。」
「ありがとう、母さん。」
夕食を食べ終わり、風呂にも入って自分の部屋に戻る。
2階にある自分の部屋は親が触れることはなく、棚の上や机の上に少し埃があった。
この部屋も変わらないままだなと思う。
窓を見つめた時、ふとあの時のことを思い出した。
子どもの頃…中学生の時の話。
親友と呼べる友達が瓦井にはいた。
けれども、親友はいじめられていたのだ。
そのことを瓦井は知っていたし、時々怪我をしている親友を見ていた。
でも、自分がそれに巻き込まれるのが嫌で何もいやなかったのだ。
親友も「なんでもない。」「気にしないで。」と言ってくれたため、それに甘え続けてしまった。
今思えばあの時、親友は助けを求めていたんじゃないかなと思うのだ。
その後、耐えられなくなった親友は学校の屋上から飛び降りて亡くなってしまった。
瓦井が警察になろうとしたのも、この時の罪滅ぼしみたいな気持ちが少なからずあったのかもしれない。
そんなことを思って窓を見ていると、男がこちらを見ていることに気がついた。
暗がりで顔は見えず、ただ闇夜の中で顔がこちらを向いているのは確かに分かる。
パチッ…
パチッ…
瞬きをすると、男は空中に浮きながら瓦井の方向に近ずいていたのだ。
パチッ…
さらに近ずく。
瓦井は焦り、その様子を見に行こうとした。
しかし、振り返ると、その男は部屋の隅にいたのだ。
パチッ…
パチッ…
パチッ…
焦りからさらに瞬きをしてしまう。
そして、遅すぎたが、仕組みを理解して、目を閉じた。
目を開ければ死ぬ。
感覚でそれを掴んだ。
瓦井は部屋で目を瞑りながら何かを探し始めた。
ものがどこにあるのか分からず、机や棚にぶつかり、その度に何かが落ちる音がする。
死にものぐるいでやっと紙とペンを握ることに成功。
机で何かを書く瓦井。
物音を不審に思った母親は部屋をノックする。
「母さん!入らないで!」
「どうしたの?すごい音よ?」
「ダメだ!中に入らないで、危ないんだ!」
「どういうことなの?!」
危険を顧みずに、母親はドアを開けた。
しかし、母親の目には目を瞑りながら紙に何かを書く息子の姿しかなかったのだ。
「あんた、なんで目を瞑ったまま文字なんか書いてるのよ。」
「ダメだよ母さん!男がいるんだ!」
「いないわよ。悪ふざけのつもりなの?」
母親が自分の目をこじ開けようとしてきた。
必死に抵抗したが、少し外の世界が見えてしまう。
最後に見られるのが親の顔ならと思うかもしれないが、苦痛だった。
なぜなら、母親の顔が、あの男の顔になっていたから。
そのままこと切れてしまう。
母親が普通ではないこと、息子が死んでしまったことに気がついたのはすぐだった。
そして、警察へと連絡が入るのだった。




