11,生存者
2025年4月19日。
藤沼は現場に向かおうとしていたが、1つの連絡で行動を止めた。
栃木県にて、自身の目をハサミで突き刺した女性がいたとの通報を受けたのだが、彼女の発言が藤沼が追っている事件との関連性が高いとの事だった。
すぐにでも、話を聞きに行こうと行動しようと準備していた時、瓦井が電話に出る。
「藤沼さん、被害者の女性…亡くなったみたいです。」
「え?」
準備していた手が止まる。
生きていたのに?亡くなったとはどういうことなのか?
「なんで?」
「病院の窓から身を投げてしまったらしいです。」
藤沼は自分の椅子に座る。
深いため息をつく。
やっと犯人のしっぽを掴める気がしていたと言うのに。
だが、まだ諦めるには早い。
情報を提供してもらうことは可能だ。
連絡をして、被害者の情報を提供してもらうことができた。
被害者の女性は清水幸子28歳。
自身の目をハサミで突き刺し失明。
意味の分からないことをずっと話していたという。
「なんて言っていたんですか?」
瓦井が藤沼に聞いた。
「聞いた話だと、不気味な男が自分に近ずいてきたって…瞬きをする事に近ずいて来た。
だから、怖くなって自分の目を…
目を潰しても声はずっと聞こえていたとか、それが精神的ストレスを与えて自殺にまで追い込んだ。」
「その男が女性に何を言ったかを聞くことは?」
「できなかったそうよ。
混乱した状態で、まともに会話をすることはできなかったらしいわ。
仕事場では大人しい性格で、いじめが起きている現場だそうだけど、本人は首を突っ込んだりはしなかったらしいよ。」
「男…ですか。
でも、その内容だと、まるで…」
「おばけ?悪霊?そう言いたいのね。」
「はい…」
藤沼は馬鹿馬鹿しかった。
そういうものは子どもの頃から信じる気はなかったのだ。
信じる気がなくなったのは、雷様がへそを取るというのが子どもを操るための嘘だと知った時から。
幽霊や悪霊の存在なども人間が作り上げた作り話に違いないと考えていた。
そんな藤沼からすれば、女性の精神状態は不安定で、架空の恐ろしい何かを作り出してしまったに違いないと思っている。
自殺される前に話を聞くことさえできていれば、もう少し情報を集めることが可能だったかもしれない。
悔しさから、ため息の数が増える。
ここからはいつもと同じだ。
調べて調べて、何も分からずに次の犠牲者が出るまで何も出来ない。
10年前と同じだと言うのなら、あと1人犠牲者が出てしまう。
止めたいのに、止め方が分からない。
24日には相方の瓦井も地元へと帰ってしまう。
1人で何ができるというのだろうか?
とにかく、できる限りの事はすると心に決めていた。
情報を集め、何か法則性や犯人の手がかりが掴めるのかもしれないと願って。
しかし、藤沼はこの事件に関わったことを後悔することになる。
それは偶然なのか、はたまた必然なのかは分からない。




