第九話 少女拾っちゃいました
森林での休息はわずか三日だった。エリオット王子の体力が少し回復したのを見計らい、私たちは次の目的地である南方の交易都市を目指して出発した。この王都から遠く離れれば、私たちの捜索網も薄くなるはずだ。
「リリ、この道筋は本当に正しいのか?こんな獣道、地図にも載っていないぞ」
エリオットが不安そうに尋ねる。
「私の鑑定は、この森の『地形構造』と『人の往来の少なさ』を基準に、最適なルートを選んでいます。大通りは警戒が厳しすぎる」
私たちは食料を調達するため、小さな街道に出ることにした。私が鑑定で確認した限り、この街道は滅多に人が通らないはずだった。
しかし、街道に出た瞬間、私たちは異様な光景に遭遇した。
街道の脇に、ボロボロの馬車が横転していた。そして、その周囲には数人の盗賊らしき男たちが群がっていた。どうやら、彼らが馬車を襲撃したらしい。
「いけない!人だ!」エリオットが警戒する。
私たちはすぐに身を隠した。盗賊たちは馬車の中の積荷を漁り、獲物を確認しているようだった。
「鑑定」を最大限に集中させ、盗賊たちのステータスを読み取る。彼らは訓練された兵士ではないが、数が多い。そして、彼らが馬車から引きずり出しているものを見て、私は息を飲んだ。
それは、美しい銀色の髪を持つ、十歳ほどの幼い少女だった。彼女は口を猿轡で塞がれ、抵抗することもできずに、盗賊たちに引きずられている。
対象: アイリス・アークライト 種族: 人間 年齢: 10歳 称号: 魔道具技師見習い 状態: 【拘束】【恐怖(大)】【魔力操作(微弱)】
「魔道具技師の見習い...」
彼女は、この世界で重要な技術を持つ人間だ。そして、彼女の周囲には、鑑定でも特定できない「極小の魔力反応の痕跡」が大量に残されていた。
「リリ、どうする?関わるべきじゃない。私たちの逃亡が危うくなる」エリオットが冷静に判断を下す。
その通りだ。ここで騒ぎを起こせば、王都の追っ手がすぐに気づく。これは、私の「生存戦略」における最大のノイズだ。
しかし、私は、かつて過労で倒れたオフィスで、誰にも助けられなかった孤独な社畜の記憶を思い出した。そして、私自身が、誰にも顧みられない「放置少女」だったこと。
「...だめです。見捨てることはできない」
私はエリオットに囁いた。
「彼女は技術者です。そして、何らかの理由で狙われている。私たちにとって、王都から遠く離れるための『隠れ蓑』か、あるいは『切り札』になるかもしれない」
私は、理性で感情をねじ伏せ、この行動を「合理的な投資」だと自分に言い聞かせた。
「エリオット王子。私たちに残された『賢者の餞別』を使いましょう」
私はポケットから、シリウスが残した小さな石を取り出した。
「あの石は、追手が来た時に使え、と言っていました。つまり、『大規模な撹乱』を起こすための道具です」
私は石に魔力を集中させ、盗賊たちが群がる馬車の真ん中目掛けて、それを投げつけた。
ドンッ!
石が地面に着弾した瞬間、周囲の空間がぐにゃりと歪み、数瞬の間に、馬車と盗賊たちが立っていた場所の地面が、まるで巨大な泥沼のように沈下した。シリウスの餞別は、「局所的な空間の歪曲」を起こす魔道具だったのだ。
「うわあぁぁぁ!」
盗賊たちは悲鳴を上げながら、地面に引きずり込まれる。この隙に、エリオットは素早く馬車に駆け寄り、銀髪の少女を抱き上げて救出した。
「リリ!行くぞ!」
私たちはすぐにその場を離れた。背後からは、盗賊たちの混乱した叫びと、遠くで騎馬隊が近づいてくる微かな音が聞こえる。この空間の歪曲は、王都の追っ手にまで私たちの居場所を知らせてしまっただろう。
「私たちは、少女を拾っちゃいましたね」
私の腕の中で震える少女を見下ろし、私は覚悟を決めた。
彼女を救ったことで、私たちの逃避行は、一気に危険なものになった。だが、私はこの拾った少女、アイリスが、私たちの運命を大きく変えることになる予感を抱いていた。
やあ、シリウスです!
第九話、ドラマティックでしたね!ついにボクの「賢者の餞別」が使われました!
あの石は、単なる煙幕じゃありません。局所的な空間を歪ませて地面を泥沼に変えるなんて、なかなか派手な使い方をしてくれましたね。リリちゃん、その判断力はさすがです。でも、その結果、王都の追っ手もこの一帯に集中してしまうでしょう。危険度はマックスです!
そして、新たな仲間、アイリス・アークライトの登場です!
彼女の称号は「魔道具技師見習い」。リリの「知識」とエリオットの「武力」に、彼女の「技術」が加わる。この三人のチームは、まさに最強の「共同経営体」となる可能性を秘めていますね!
しかし、彼女が狙われていた理由は何でしょう?そして、彼女の周囲にあった「極小の魔力反応の痕跡」とは?ボクの勘ですが、彼女は何か、世界を変えるような「重要な技術」を握っているはずですよ。
リリちゃんの「生存戦略」は、計画性を欠いた「人助け」によって、思いがけず複雑で、そして強大なものへと変化しました。
次回は、追手の接近と、アイリスが持つ秘密について、一気に掘り下げていくことになるでしょう。お楽しみに!またね!




