第七話 賢者の見送り、王宮の檻を越えて
「王宮内の空間構造なんて、ボクにかかれば玩具みたいなものだよ」
目の前で、浮浪の最強賢者シリウスがそう言い放ち、地下通路の壁を文字通り「溶かした」のを見た時、私は前世の記憶をひっくるめても最大の衝撃を受けた。
彼の力は、私の「空間収納」とは次元が違った。空間を破壊し、再構築する。それは、この世界で最強の魔術師にしかできないとされる領域だ。
「さあ、急いで!ボクが作ったこの『近道』は、シエナさんの魔力結界の網の目を縫って、王宮の敷地の外れまで一気に繋がっているから!」
シリウスは笑顔で私たちを促した。
私たちは、シリウスが壁に開けた、歪んだトンネルへと飛び込んだ。内側は石や土ではなく、一瞬にして圧縮された魔力で覆われており、光の速さで移動できるような錯覚を覚えた。
トンネルの中を疾走しながら、私はシリウスに問いかけた。
「あ、貴方は一体、何者なんですか?なぜ、私たちを助けてくれるんです?」
シリウスは、後ろ手にトンネルを閉じながら、楽しそうに笑った。
「ボク?ボクはただの旅人さ。それに、ボクはね、『可能性』が大好きなんだ」
彼は、私とエリオットを交互に指差した。
「放置されて力を蓄えた王女と、絶望の淵から這い上がった王子。君たちがこの王宮という『予定調和の箱庭』から飛び出すことで、世界がどう変わるか、すごく興味があるんだよ」
その言葉は、まるで全てを知っているかのような、深遠な賢者の言葉だった。
その時、後方から強烈な衝撃と、オズウェル隊長の叫びが聞こえた。
「通路が塞がれた!?くそっ、誰だ!」
そして、トンネルの外側、私たちが向かっている方向からは、シエナの「千里眼」がトンネルの存在を察知し、追跡しようとしている魔力反応が感じられた。
「リリ!この魔力反応はまずい!トンネルが崩れる前に急がないと!」エリオットが叫んだ。
「大丈夫だよ」
シリウスは軽やかに言い放つと、魔力を操作し、トンネルの出口をわずかに拡大した。
私たちは、そのまま地面を突き破って、王宮の敷地と街を隔てる、巨大な外壁のすぐ外側へと放り出された。
そこは人通りが少なく、夜の闇に包まれた、王都の裏路地だった。
「成功だ!」エリオットが息を吐いた。
私たちは振り返った。シリウスは、私たちが飛び出した穴の前で、悠然と立っていた。彼の周囲には、シエナが放った探知魔術の光の輪が近づいていた。
「さて、ボクの役割はここまでだ」
シリウスは、私の目を見て、静かに言った。
「リリ。君の『生存戦略』は正しい。だが、外の世界はもっと複雑で、そして面白い。君の『鑑定』の知識だけでは乗り越えられない壁も、きっと出てくるよ」
そして、彼はエリオット王子に向き直った。
「エリオット王子。貴方の国は、貴方を必要としている。ただし、『囚われていた王子』としてではなく、『世界を理解した王』としてね。彼女を裏切らないように」
そう言い残すと、シリウスはポケットから、小さな石を取り出し、私たちの足元に落とした。
「これは、ボクの餞別だ。追手が来た時に使ってね」
そして彼は、シエナの魔力探知が追いつく直前、まるで霧のように、その場からふっと姿を消した。
彼の「浮浪の最強賢者」としての助太刀は、劇的で、そしてあまりにも短かった。
追いついたシエナとクロードの焦燥の声が、王宮の壁の向こうから聞こえる。
「リリ。行こう。貴女は、私を王宮という檻から解放してくれた」
「ええ、王子。ここからが、私の『第二の生存戦略』の始まりです」
私たちは、最強の助太ち去った夜の闇の中、自由と、そして遥かなるヴァルキリアス王国を目指して、駆け出した。
フフフ。やあ、また会ったね!シリウスです。
いやー、ボクの出番、あっという間に終わっちゃいましたね!でも、ボクの空間操作術のおかげで、リリちゃんとエリオット王子は無事に王宮の堅牢な壁を越えることができました。最高に効率的だったでしょう?
ボクが彼らを助けたのは、本当に「可能性」への興味からです。アストライア王国の停滞した権力構造の中で、二人がどんな「波紋」を起こすのか、この目で見たかった。
そして、最後にリリちゃんに渡した「小さな石」。あれが何か、皆さんも気になりますよね?もちろん、ただの石ころじゃありません。あれこそが、リリちゃんが外の世界で遭遇する最初の危機を乗り越えるための、「賢者の餞別」ですよ。
さあ、舞台は王都の裏路地から、広大なアストライア大陸全体へと広がります。
次回からは、追手の脅威と、異世界の過酷さに直面する、リリとエリオットの逃避行が始まります!そして、リリちゃんの鑑定スキルが、逃亡生活でどのように役立つのか。見どころ満載ですよ!
また次の後書きで、旅の感想を聞かせてね!じゃあ、また!




