第六話 絶体絶命の脱出劇と最強の助太刀
鉄扉が開いた瞬間、解放されたエリオット王子から溢れる膨大な魔力が、地下通路全体を震わせた。鎖から解放された彼は、やつれてはいるものの、その瞳には強い王子の威厳が戻っていた。
「リリ!約束通り、私は自由だ!」
「感謝は後で!今は一刻も早くここを離れるべきです!」
オズウェル隊長は、事態を理解するとすぐに剣を構えた。
「フェリシア様!これは王命に背く行為だ!その第六王女の共謀者を拘束しろ!」
フェリシアはオズウェルに優雅に向き合った。
「隊長。彼をこの場で拘束すれば、貴方は王命の保護対象を傷つけたとして、第二王女様の立場をも危うくしますよ。どうか冷静に」
フェリシアは言葉で時間を稼ぎながら、私に視線で合図を送った。
「王子!こっちです!私が発見した隠し通路へ!」
私はエリオットの手を取り、離宮の庭へ通じる隠し通路へ急いだ。フェリシアがオズウェルを足止めしている間に、私たちは命懸けの逃亡を開始した。
隠し通路は薄暗く、埃っぽい。エリオットはまだ魔力が安定していないのか、時折咳き込んだ。
「すまない、リリ。私の体がすぐに動けば...」
「謝罪も後です!ここで捕まれば、私の全てが水の泡になる!」
社畜時代、私は上司から理不尽な命令で徹夜作業を強いられた時と同じ、極限の集中力で走った。私たちの行く手には、隠し通路の終点、離宮の庭の隅にある出口がある。
しかし、その出口の直前で、私は立ち止まった。
鑑定が、地上の状況を伝えてきたのだ。
対象: クロード・ザンダー 状態: 【警戒(大)】【捜索完了(待機中)】 対象: シエナ・ラングレイ 状態: 【魔力結界(起動中)】【待機(出口周辺)】
クロードとシエナが、既に地上、つまり私たちの出口周辺で待機していた。シエナの張った魔力結界は、私たちが地上に出た瞬間に察知されるだろう。フェリシアの協力も、この地上では届かない。
「出口は封鎖されている...!」私は絶望した。
「リリ、どうするんだ?」
エリオットも焦りの色を滲ませる。隠し通路の奥からは、オズウェル隊長の怒号が近づいてきている。
挟み撃ちだ。地上にはシエナの結界。地下からはオズウェルの剣。
「...まさか、ここで私の生存戦略が終わるなんて」
私が全てを諦めかけた、その時。
頭上、つまり隠し通路の天井を突き破るような、強烈な魔力の波動が起こった。それは、シエナの結界すら凌駕する、圧倒的な質量を持つ魔力だった。
驚いて天井を見上げると、そこには砂埃と泥にまみれた、一人の青年が立っていた。ボサボサの髪に、場末の酒場で買ったようなよれよれのローブを纏っている。一見すると、ただの浮浪者だ。
対象: シリウス・アストラム 種族: 人間 年齢: 不明 称号: 浮浪の最強賢者 状態: 【魔力(限界突破)】【愉快(高)】【目的達成(進行中)】
「やあやあ、こんなところで遊んでいるのは君たちかな?地面を掘り進むのは趣味じゃないんだけど、君たちがなかなか出てこないからさ」
彼は、汚れたローブの袖で額の汗を拭いながら、まるでピクニックでも楽しんでいるかのように微笑んだ。
「君たち、逃げるのがちょっと下手だね。でも、大丈夫。ボクが君たちの『最強の助太刀』をしてあげよう」
そして、彼は王宮の地下通路の壁に、無造作に手を触れた。次の瞬間、私たちの周囲の壁と天井が、まるでバターのように溶け始めた。
「王宮内の空間構造なんて、ボクにかかれば玩具みたいなものだよ」
最強の賢者が、脱出の窮地に現れた。その目的は不明。だが、この圧倒的な力は、私にとって最後の希望だった。
フフフ。ボク、シリウスです!待ってましたよ、この登場シーン!
いやあ、リリちゃん、本当に危なかったね!シエナとクロードの二重の待ち伏せ、そして地下からのオズウェル隊長の追撃。完璧な挟み撃ちでした。でも、ボクは知っていたんです。リリちゃんにはまだ、最高のカードが必要だとね!
ということで、ボク「浮浪の最強賢者シリウス」の登場です!
ボクの力は、リリちゃんの「空間収納」をさらに極めた、「空間構造の操作」。王宮の壁だろうが、地下通路だろうが、ボクの前では紙切れ同然ですよ。リリちゃんの脱出計画は、この助太刀で一気に加速します!
次回は、リリ、エリオット、フェリシア(地上組)、そして最強賢者シリウスの四人体制での、ド派手な王宮からの脱出劇になるでしょう!追手のシエナ、クロード、オズウェルが、ボクたちの前にどう立ち塞がるのか、そしてボクがなぜ二人に協力するのか...。
物語はクライマックスへ向かいますよ!見逃さないでね!じゃあ、また!




