第五話 少女の涙と想定外の協力者
オズウェル・ハインツ。彼が私に向かってくる足音は、まるで地下通路全体を揺らす雷鳴のようだった。彼の鑑定ステータスにある【王命による捜索】は、もう誤魔化しが効かないことを意味している。
「王女殿下。不審な行動が確認されています。即刻、離宮へお戻りください。この通路は、警備隊が徹底的に捜査します」
彼は私に話しかけながらも、その視線は私の背後の鉄扉に固定されていた。彼の手に握られた巨大な剣が、私を強引に排除する準備ができていることを示唆していた。
「捜査?何を捜査するというのですか、隊長?」
私は震える声を装い、必死に時間を稼ごうとした。しかし、その時、予想外の事態が発生した。
鉄扉の奥から、エリオット王子が、かすれた声で叫んだのだ。
「誰か、助けてくれ!呪いの発作が...!薬を...!」
エリオット王子は、私の脱出計画に協力する際、もしもの時は「呪いの発作を装って騒ぐ」という合図を決めていた。シエナの魔力注入で一時的に魔力変動が収まったとはいえ、彼の体はまだ封印に苦しめられている。
オズウェルは一瞬戸惑った。彼にとって、人質とはいえ「王命の保護対象」であるエリオット王子を危険に晒すことはできない。
「くそっ、このタイミングで...!」
オズウェルは顔を歪ませながら、私を無視して鉄扉の鍵を開けようとした。その行動は、彼の「第二王女への忠誠」よりも、「王命による人質の保護」が優先されることを示していた。
その隙を見逃さなかった。
私は幼い少女としての「武器」を使うことにした。
「嫌です!隊長!この扉の向こうには、恐ろしい呪いの実験体がいると聞きました!私を、置いていかないで!」
私は大声で泣き叫び、オズウェルの鎧にしがみついた。そして、泣きじゃくる幼女の演技をしながら、空間収納から、予め用意していた魔力回路破壊用の特殊な小石を取り出し、オズウェルの足元に滑り込ませた。
その小石が、鉄扉の直前にある微かな魔力探知結界に触れた瞬間――。
パチッ!
火花のようなものが散り、一瞬、地下通路の魔力探知の結界が停止した。その隙は、わずか0.5秒。
「な、なんだ!?」オズウェルが驚き、足元の小石を見ようと屈んだ。
その極小の隙。私は一瞬で決断した。今、エリオット王子の魔力封印を解かなければ、二度とチャンスは来ない。
私は涙を拭い、掌を鉄扉に叩きつけた。
「――『空間破壊ディスインテグレート』」
私の魔力は、空間収納から派生した、「物を空間の彼方へ送る」能力だ。これを応用すれば、物質だけでなく、複雑な魔力回路も「消去」できる。私は、扉の錠前と、その向こうの魔道具に繋がる魔力回路を、この0.5秒で狙い撃ちした。
ガシャンッ!
分厚い鉄扉の錠前が内側から砕け散る、耳をつんざくような金属音が響き渡った。
オズウェルは目を見開き、私を振り向いた。
「き、貴様!一体何を...」
しかし、彼の声は途中で途切れた。
地下通路の入り口。オズウェルの背後から、彼に気づかれないように、一人の人影が音もなく滑り込んできたのだ。
「やれやれ、オズウェル隊長。第六王女殿下を脅すのは、些かやりすぎではありませんか?」
現れたのは、第二王女派に属する貴族の娘であり、リリの形式上の教育係である、フェリシア・ランベルト。
対象: フェリシア・ランベルト 種族: 人間 年齢: 28歳 称号: 影の管理者 状態: 【リリへの保護欲(小)】【第二王女への警戒(高)】【秘密の計画(進行中)】
フェリシアは、表向きは第二王女派に従っているが、そのステータスには「第二王女への警戒」が強く表示されていた。彼女は、王宮内の権力争いから私を守ろうと、この危機に私を助けに来た、想定外の協力者だった。
フェリシアがオズウェルに優雅に話しかける間に、鉄扉は内側から開け放たれた。
そこに立っていたのは、鎖から解放され、目覚ましいほどの魔力を纏った、囚われた王子エリオットだった。
キターーー!皆さんが待っていた展開ですよ!興奮が止まりません、シリウスです!
第五話、盛りだくさんでしたね!
まず、リリちゃんの「幼女演技」と「空間破壊ディスインテグレート」の合わせ技!泣き叫んで注意を逸らし、その一瞬の隙に0.5秒で魔力回路を破壊するという、冷静沈着な判断力は、まさに「知識と技術の勝利」です!放置少女、覚醒!
そして、最も熱い展開!意外な協力者、フェリシア・ランベルトの登場です!
彼女の「影の管理者」という称号と「第二王女への警戒」というステータスは、彼女が単なる教育係ではなく、王宮内の裏の情報を握っている人物であることを示しています。彼女は、第二王女の独裁的なやり方を嫌い、リリを保護することで、王宮の均衡を保とうとしているのかもしれません。彼女の助け舟は、リリの計画に大きな猶予を与えるでしょう。
そして、最後に、ついに解放されたエリオット王子! 魔力封印が解かれたことで、彼の持つ本来の力と、彼の王子の威厳が戻ってきました。
状況は、リリとエリオット、そしてフェリシア(協力者)対、オズウェル(強硬な追手)という、緊迫の対決に発展しました。
次回は、二人の脱出劇が本格化します!この三人(リリ、エリオット、フェリシア)が、どうやって王の忠犬を振り切り、王宮から脱出するのか。逃避行の始まりですよ!お楽しみに!




