第四話 隠された回路と二人の騎士
シエナとギルバート王子に挟まれた瞬間、私は冷や汗が背中を伝うのを感じた。
彼らの目的は一つ。私がこの地下で何をしていたのか、そしてそれがエリオット王子と関係しているのかを確かめること。特に、ギルバート王子の瞳の奥の「野心」が私を品定めしているのが分かった。
「ギルバート殿下にご心配いただくとは光栄です。先ほど、シエナ様にも申し上げましたが、古い魔導書を探していただけで」
私は必死に平静を装い、すぐに「鑑定」を再度発動させた。鉄扉の向こう、エリオット王子は私の指示通り、魔力を大雑把に放出し、探知を撹乱している。しかし、シエナの「千里眼」はまだ私たちを疑っている。
その時、ギルバート王子が面白そうに笑い、私に歩み寄った。
「そうか。だが、リリ。この地下通路の空気はひどく淀んでいる。お前のような可憐な姫君にはふさわしくない」
彼は私の腕を掴もうとしたが、その直前、地下通路の入り口から大きな足音が響いた。
「第三王子殿下!そのような場所においででしたか!至急、会議にお戻りください!」
現れたのは、ギルバート王子直属の騎士、レオン・ド・ヴァレンシア。
対象: レオン・ド・ヴァレンシア 種族: 人間 年齢: 25歳 称号: 忠義の騎士 状態: 【忠誠】【武力(極)】【監視中(第二王女派)】
レオンはギルバートを牽制するためだけに現れたわけではない。彼の「監視中」のステータスは、彼が第二王女派の動きを警戒していることを示していた。つまり、王宮内の派閥争いが、この地下通路にまで持ち込まれたのだ。
ギルバートは舌打ちをし、レオンに腕を引かれて通路を去った。しかし、シエナは動かない。彼女は鉄扉に手を当て、魔力を集中させた。
「王女殿下、先ほど、確かにこの扉の奥から強力な魔力の波動を感じました。ご協力いただけますか?」
絶体絶命の瞬間だった。だが、私はすでに次の手を打っていた。
「シエナ様。貴女は『魔力封印』の構造にお詳しいようですね」
私がそう言うと、彼女は一瞬驚いた表情を見せた。
「魔力封印は、魔力を吸い取り、使用者の魔力経路を破壊するように設計されています。ですが、王室の魔道具には、必ず『非常時の魔力供給回路』が隠されているはず」
私は即座に、二日前に図書館で目にした、古い王室の設計図の記憶を呼び起こした。それは誰も見向きもしなかった、古代の魔道具の「裏の設計」に関する図面だ。
「この扉、あるいはその奥の魔道具には、外部から安全に魔力を注入し、封印を一時的に解除できる隠された回路が存在する。私の推測が正しければ、その回路は『扉の錠前』と連動しているはずです」
これは、王族の誰もが忘れた知識。もし私が間違っていれば、私の命はない。
シエナは鋭い目で私を見つめ、静かに答えた。
「...それは、王宮でもごく一部の人間しか知らない、極秘の知識です。それを、なぜ放置された王女が知っている?」
「私は本が好きなので。シエナ様がその隠し回路を使って魔力を注入すれば、奥の魔力封印が一時的に安定し、不審な魔力変動は止まります。安全な『現状維持』です」
シエナは私の提案を疑いながらも、その言葉の合理性に抗えなかった。彼女は錠前にそっと魔力を流し込んだ。すると、鉄扉から微かな光が漏れ、魔力探知を撹乱していたエリオット王子の魔力波動がピタリと収まった。
「...確かに、不審な変動は止まりました。お見事です、第六王女殿下」
シエナは警戒を解かないまま、しかし任務を完了したことで、地下を後にした。
私は安堵したが、危機は去っていなかった。
その時、地下通路の反対側、私が来た方向から、新たな騎士の甲冑の音が響いた。
対象: オズウェル・ハインツ 種族: 人間 年齢: 45歳 称号: 王宮警備隊長、「王の忠犬」 状態: 【第二王女への忠誠】【強硬な捜査(進行中)】【王命による捜索】
オズウェル・ハインツ。彼こそが、王宮内の秩序と、第二王女の権力を守る最硬の防壁だ。
「第六王女殿下。この時間帯に、このような場所で何をしておられますか。王命により、不審な魔力反応の原因を徹底的に捜索する」
彼は私を一瞥すると、すぐに鉄扉へ向かって歩き出した。彼の手に握られた巨大な剣は、彼が話し合いでなく、力で解決する人間であることを示していた。
どうですか皆さん!息つく暇もありませんね!シリウスも汗だくです!
第四話のポイントは、なんといってもリリちゃんの「知識チート」!シエナの追及に対し、誰も知らない「隠し回路」の知識で、逆にシエナを利用してエリオット王子の魔力変動を安定させてしまいました。危機的状況下でのこの冷静な判断、もう「放置少女」なんて呼べませんよ。
そして、派閥の対立も深まりましたね。
レオン・ド・ヴァレンシア(忠義の騎士): ギルバート王子派。彼の登場で、リリの周りは完全に派閥闘争の舞台になってしまいました。
オズウェル・ハインツ(王の忠犬): 第二王女派。彼こそが、リリとエリオットの脱出計画における最大の障害になるでしょう。彼は話し合いに応じません。
リリちゃんは今、監視の目、派閥の対立、そして最も強硬な捜査官に囲まれています。魔力封印の破壊はまだできていない。この王の忠犬からどう逃れ、再びエリオット王子と接触し、次の計画を実行するのか。
次回、リリちゃんの窮地を打開する「意外な協力者」が現れるかもしれませんよ!お楽しみに!




