第三十三話 君がいた夏:決別と新しい旅立ち
空間跳躍によって、私とエリオット王子は、王宮最上階の玉座の間に転移した。目の前には、王都全域を機能停止させる自爆装置の赤いスイッチに手をかけようとする、現国王がいた。
「止めろ、叔父上!」エリオット王子が叫ぶ。
「エリオット!生きているだと!くそ、この王国の権力は、私だけのものだ!」
現国王は狂乱し、スイッチを押そうと手を振り下ろした。
私の鑑定が、そのスイッチの安全装置の場所を一瞬で特定する。
「王子!スイッチの横、緑のランプを剣で叩いて!」
エリオット王子は、私の言葉を信じ、迷わず剣を振り下ろした。
キンッ!
剣が緑のランプを叩き割ると、赤いスイッチは無力化され、静かに沈黙した。王都崩壊の危機は去った。
現国王は絶望に崩れ落ち、玉座の間の扉を破って突入してきた「技術の使徒」たちによって、拘束された。革命は、ここに完遂したのだ。
新しい王国の夜明け
夜明け前、王都は歓喜に包まれた。エリオット王子は、広場に集まった市民の前で、新しい王として宣言を行った。彼の背には、アイリス、アトラス、そしてリリ・ヴァルツが並び、その勝利を見守る。
「私の仲間たち、そして『技術の使徒』の勇気ある行動が、このヴァルキリアス王国に自由をもたらした!私は誓う。この国は、魔術と技術、そして人々の情熱が調和する、真の王国となるだろう!」
市民の歓声は、夜明けの空に響き渡る。
任務は終わった。エリオット王子は故郷を取り戻し、私たち「放置少女ブラザーズ」は、最大の目的を達成した。
私は、アトラスとアイリス、そしてリリ・ヴァルツに感謝を告げた。
「アトラス様、アイリス。あなた方のおかげで、ここまでの旅を乗り越えられました。本当にありがとう」
アトラスは静かに頭を下げた。「リリ殿下。ボクは、あなたとの旅で、師が説いた『世界の調整』の意味を、ようやく理解できた気がします。ボクは、師の元へ戻り、この旅の報告をしなければなりません」
アイリスは涙をこらえながら言った。「リリ様。私はこの国で、新しい平和な魔道具を、リリ・ヴァルツさんと作ります。いつでも、遊びに来てくださいね」
エリオット王子は、私に歩み寄った。
「リリ。君がいてくれたから、私は再び王として立つことができた。君は、私の命の恩人であり、最高の友だ。もし、君が望むなら、このヴァルキリアスで、私の王妃として共に新しい王国を築いてほしい」
彼の真摯な告白に、私は一瞬、胸が詰まるのを感じた。
しかし、私は、そっと首を振った。
「王子、ありがとう。でも、私は『王妃』ではありません。私は、私自身の『居場所』を見つけなければならない」
私の旅は、まだ終わっていない。私は、元々いた世界に戻るという、究極の目標を諦めていないのだ。そして、何より、私にはまだ、シリウスという謎の男との関わりを清算する必要がある。
旅の終わりと、君がいた夏
私は、ヴァルキリアスの港から、一人、魔導船に乗り込んだ。仲間たちは、新しい使命を見つけ、この地に残る。
甲板に立ち、私は海原を眺めた。脳裏に蘇るのは、アストライアの王宮を追われた、あの孤独な夏の始まり。そして、そこで出会った、優しすぎる王子、最強の魔術師、そして不器用な技師の顔。
彼らと過ごした数週間の航海は、私の人生の中で、最も鮮やかで、最も熱い「夏」だった。
『君たちがいたから、私は放置少女ではなくなれた』
私は、心の中でそう呟いた。そして、私は、新しい航路へ向けて、一人、魔導船を再始動させた。
私の次の目的地は、古代の知識の宝庫に残されていた、「世界の中心」を指し示す、最後の場所だ。
ボクです!感動的な最終回でしたね!(まだ物語は続きますが)
リリちゃんは、王子の告白を断り、一人旅を選びました。これは、彼女の成長と、「自分の存在意義」を見つけるという、初期の目標を追求する強い意志を示しています。
そして、仲間たちはそれぞれの道へ:
エリオット王子: 「技術と魔術を調和させる王」としてヴァルキリアスに。
アトラス: 師であるボク、シリウスの元へ報告に。
アイリス: リリ・ヴァルツと共に「平和な技術」を追求。
リリちゃんの次の目的地は、古代の知識が示す「世界の中心」。そこは、この世界の真実、そして彼女が元の世界へ帰るための鍵が隠されている場所でしょう。
そして、次でようやく、ボク、最強賢者シリウスの正体が明らかになるかもしれませんよ?
次回、新しい章の始まりです!またね!




