第二十九話 這いよれ!ニャル子さん
私たちは、ヴァルキリアス王国の警備が薄い小さな漁港から、慎重に上陸を果たした。魔導船は、港の奥の目立たない場所に隠蔽し、アトラスとアイリスに見張りを任せた。
エリオット王子は、故郷の服に着替え、私と二人で情報収集のため都市の中心部へと向かった。
アストライア王国の街並みが石造りで魔術的であったのに対し、ヴァルキリアス王国の都市は、全てが鉄骨と鋼鉄で構築されていた。街には巨大な蒸気機関が唸りを上げ、人々は忙しなく動き、誰もが魔道具の代わりに**「機械」**を携帯している。
「ここは、私が知っていた頃よりも、さらに機械化が進んでいますね」エリオット王子が故郷の変貌に驚きを隠せない。
私の鑑定スキルも、この街の機械文明の解析に忙しい。
対象: ヴァルキリアス市民 特徴: 【機械応用(高)】【魔力(極低)】 情報: 住民は魔力よりも科学技術に依存。王室への不満は、現国王の「過度な機械化政策」に集中。
私たちは、現国王の政策と、エリオット王子への支持状況を探るため、カフェに入った。しかし、私たちがこの街の異物であることは明らかだった。私の東洋風のローブと、エリオット王子の凛々しい立ち姿は、すぐに街の人々の注意を引いた。
そして、その時、混沌が訪れた。
カフェの賑わいを破って、突如、壁と天井を破壊しながら、巨大な多脚型の機械生命体が、轟音と共に店内に侵入してきた。
「ぎゃあぁぁぁ!」
人々が悲鳴を上げ、逃げ惑う。このヴァルキリアスで、魔術でも幻獣でもない、規格外の「機械」による襲撃だ。
「リリ!なんだこれは!」エリオット王子が剣を構えた。
私の鑑定が、その機械生命体の情報を読み取る。
対象: 【試作型対王族殲滅兵器:コードネーム:ニャル】 製造者: 現国王直属 技術開発局 状態: 【暴走(制御不能)】【目標(エリオット王子)】【出力(極大)】
「待って!目標はエリオット王子です!これは、現国王が王子を暗殺するために開発した新型の機械兵器!」
その「ニャル」と呼ばれる機械兵器は、まるでクトゥルフ神話の存在を模したかのように、多脚と触手を持ち、エリオット王子に向かって鋼鉄の爪を振り下ろした。
「チキチキバンバン作戦で、迎撃砲の魔力は残っていません!ここは、肉弾戦です!」
エリオット王子が応戦する。彼の剣は鋼鉄を切り裂くが、その多脚兵器の防御力は凄まじい。
ガキン!
剣が弾かれ、王子が大きく後退する。
「リリ!この兵器の装甲は、通常の剣では貫けない!」
その時、機械兵器の巨大なスピーカーから、陽気すぎる女性の声が響き渡った。
『うー!にゃー!エリオット様、ついに会えましたね!愛を込めて、この王族殲滅兵器ニャル子さんが、ハッピーエンドにして差し上げますよ!』
あまりにも軽薄で、あまりにも規格外な、この状況。これが、機械の国での、最初の「歓迎」だった。
私は、店の外に設置されている、巨大な蒸気駆動式のクレーンを鑑定した。
「エリオット王子!ニャルの動きを中央に引き付けてください!アトラスとアイリスに連絡を!このニャル子さんには、私たちのトモダチコレクション全員の力で、混沌をぶつけるしかない!」
私は、この奇妙な機械兵器を撃破するため、すぐに携帯している古代の通信魔道具を取り出した。私たちは、この「這いよる混沌」を、必ず打ち破らなければならない。
ボクです!ヴァルキリアス王国、最初からカオスですね!
「ニャル子さん」こと試作型対王族殲滅兵器。これは、現国王が最も恐れているのが、エリオット王子の帰還であることを示しています。そして、この兵器が「魔術」ではなく「機械技術」で動いていることが重要です。
リリの新たな試練: これまで魔術と幻獣に対処してきたリリちゃんが、今度は「高度な機械技術」と対峙することになります。
対王族殲滅兵器の特殊性: 「ニャル」が陽気な声を出すという、その設計の異質さ。これは、ヴァルキリアスの技術開発局のトップが、少しネジが外れていることを示唆しています。
リリちゃんが次に目をつけたのが、街の「蒸気駆動式クレーン」!彼女は、魔術が使えないこの街の環境で、周囲の「機械」をいかに利用するかという、新たな戦略を練り始めたわけですね。
次回は、ニャル子さんを相手に、リリちゃんの新しい戦略と、アトラスたちの魔術が、この機械文明の中でどう効果を発揮するのか、大いに期待しましょう!またね!




