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第十七話 閑話休題:賢者が助けない理由

(語り手:浮浪の最強賢者 シリウス・アストラム)


やあ、読者の皆さん。久しぶりだね。今、リリとエリオットは、ボクが用意した最高の援軍アトラスと、可愛い魔道具技師のアイリスと共に、海上で最大の危機に直面しているところだ。沈没寸前の船、追手の待ち伏せ。最高の舞台装置が整ったね。


さて、読者諸君はこう思っているだろう。「なぜ最強賢者であるシリウスが、さっさと空間魔術で彼らをヴァルキリアス王国まで送ってやらないんだ?」と。


それは簡単な話だよ。


ボクの目的は、彼らを安全な場所へ「輸送」することではない。彼らが持つ『可能性』を、最大限にまで『増幅』させることにある。


1. 成長のための「不純物」

リリは非常に合理的で知的な少女だ。彼女の「生存戦略」は完璧に練られている。しかし、完璧な戦略というのは、往々にして脆い。小さな想定外で簡単に崩壊してしまう。


ボクが弟子のアトラスや、あの「空間固定の石」を与えたのは、彼らを助けるためだけじゃない。むしろ、彼らの計画に『不純物』を混ぜるためだ。


アトラスの「ポンコツな生活能力」や「船酔いによる暴走」、そしてアイリスの「人助け」という感情的な行動。これらは全て、リリの合理的思考では計算できない要素だ。リリは、これらの不純物と対峙し、乗り越えることで、初めて「真の戦略家」へと成長できる。もしボクが完璧に助けてしまえば、彼女の成長はそこで止まってしまうだろう。


2. 世界の「くさび」となる資格

このアストライア大陸は、古い権力と、硬直した派閥争いで停滞している。エリオット王子は、ヴァルキリアス王国の「合理性」という名の檻から追放された。リリ王女は、アストライア王国の「放置」という名の檻に閉じ込められていた。


彼らは、この世界の停滞を打ち破る『くさび』となり得る存在だ。


だが、楔となるには、自ら、最も硬い岩盤に打ち込まれ、耐え抜かなければならない。オズウェルの追撃、シエナの戦略、クロードの暗殺術、これら全てが彼らにとっての試練だ。


ボクが直接助けてしまえば、彼らは「賢者の庇護下にある存在」で終わってしまう。それでは、彼らを迎えるヴァルキリアス王国の貴族も、彼らを恐れるアストライアの勢力も、「彼らは真の王ではない」と見なすだろう。


彼らが王位を取り戻すには、ボクの助けではなく、彼ら自身の力で、最強の敵を打ち破り、「賢者の力を凌駕した」と世界に思わせる実績が必要なんだ。


3. アトラスという「橋渡し」

ボクがアトラスを派遣したのは、彼らの安全確保という実務的な理由だけじゃない。


アトラスは空間魔術に関しては最強だが、人間関係や生活能力は極度のポンコツだ。リリの「合理的な常識」と、エリオットの「現実的な対応」は、アトラスの「理論至上主義」を鍛え直す最高の教材となる。


彼らの逃避行は、最強賢者の弟子を再教育するという、ボクにとっても重要な「実験」でもあるわけだ。


だから、ボクは今、この孤島エメラルドで展開されるであろう、リリの最後の賭けを、少し離れた安全な場所から見守っている。彼女が、意識のないアトラスに魔術を依頼した時の、あの声の確信。彼女は、もはや「放置少女」ではない。


さあ、リリ。君の『生存戦略』は、ただの亡命ではないことを、世界に証明してごらん。


(語り手:浮浪の最強賢者 シリウス・アストラム)

どうでしたか、皆さん?ボクの考え、理解してもらえましたか?


ボクは、リリちゃんとエリオット王子の「最強のファン」でありたいだけなんです。ファンは、舞台の上で輝く役者を、最高の環境で応援するのが仕事でしょう?


そして、ボクが今、少しヒントを出しておくと――「アトラスに魔術を依頼する」というリリちゃんの行動は、実は、彼女の『鑑定』スキルを最大限に活用した、究極の戦略なんです。船酔いで無意識のアトラスに魔術を成功させるための、リリちゃんだけの「隠された方法」があるんですよ。


次話、ついに孤島エメラルドでの最終決戦!ボクは楽しみで仕方ありません!またね!

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