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第十五話 アイリスの小さな夢と可愛い夜

アトラスの暴走と、アイリスのガトリングカノン砲のおかげで、私たちは追手のシエナとオズウェルを完全に撒くことができた。船は西の海路を順調に進み、私たちはようやく一息つくことができた。


船酔いで倒れたアトラスは、エリオット王子の手厚い看護(そして見張り)の下、魔力が回復するまで完全に沈黙している。


夜になり、穏やかな波の音だけが響く中、私は船室でアイリスと二人きりになった。


アイリスは、昼間の戦闘での強気な姿とは打って変わって、年相応の怯えと、安堵の入り混じった表情をしていた。


「リリ様……本当に、私たち、助かったんですよね?」


「ええ。もう大丈夫です、アイリス。貴方を襲った盗賊も、王宮の追手も、しばらくは近づいてこられません」


私は彼女を安心させるように優しく微笑んだ。


「そう……よかった」


彼女は、昼間使った魔力増幅炉を、大事そうに抱きしめている。


「アイリス。貴方が作ったあの魔道具は、本当に素晴らしい技術でした。貴方ほどの才能を持つ技師が、なぜ狙われていたのですか?」


私は探るように尋ねた。彼女の持つ「魔力増幅炉」は、この世界の軍事バランスを一変させるほどの危険な技術だ。


アイリスは顔を伏せ、小さな声で語り始めた。


「私は、アークライト工房の見習いでした。私の父は、天才的な魔道具技師だったけれど、五年前に事故で亡くなって……。父が最後に遺したのが、あの『増幅炉』の設計図でした」


彼女の瞳は、悲しみと、強い決意で濡れていた。


「父は、『誰も傷つけない、人々の生活を豊かにするための魔道具』を作りたい、って言っていたんです。でも、工房の親方は、その増幅炉を、もっと大きな『破壊兵器』に利用しようとして……だから、私は設計図を盗んで逃げたんです」


彼女を襲った盗賊は、工房の親方か、それに繋がる軍関係者だったのだろう。彼女は、平和な魔道具を作るという、亡き父の夢を守るために、命懸けで逃げていたのだ。


「誰も傷つけない魔道具、ですか」


その言葉は、社畜として効率だけを追い求めていた私の心に、じんわりと響いた。


「ええ。私ね、本当は、戦う道具じゃなくて、もっと可愛いものを作りたいんです」


アイリスはそう言うと、持っていた増幅炉をそっと私の膝の上に置いた。


「これ、リリ様の髪の色に似ていて綺麗だから……」


彼女は、魔力増幅炉に使われている、青い魔石を指でそっとなぞった。そして、照れたようにモジモジしながら、小さな木片を取り出した。


「その……逃げている途中で、削って作ったんです。リリ様に」


それは、木を削って作った、精巧なウサギの置物だった。手のひらサイズで、耳と丸い尻尾が可愛らしく表現されている。


「これを、リリ様が持っていたら、きっと『平和な魔道具』になってくれると思って。誰も傷つけない、ただただ可愛い魔道具」


彼女の小さな手から渡された、その温かい木のウサギ。私の鑑定ステータスには、この置物について何も表示されなかった。何の魔力も持たない、ただの木彫り。


だが、私の心の中には、【温かい感情(安堵)】という、久しく感じなかった感情が確かに生まれた。


私は、彼女が亡き父の夢を背負って戦っていること、そして彼女の根底にある優しさに触れ、込み上げてくるものがあった。


「ありがとう、アイリス。大切にします。このウサギは、私の『放置少女』としての人生の中で、一番可愛い宝物になります」


私はそう言って、その木のウサギを握りしめた。夜の船室で、少女同士の小さな信頼と、そして、父の夢を守ろうとする可愛い少女の決意が、静かに結ばれた瞬間だった。


やあ、シリウスです!戦闘続きだったので、今回は心が洗われるような回でしたね!


リリちゃんの「感情の解放」が最大のポイントです。彼女は常に「生存戦略」と「合理的判断」で動いていましたが、アイリスの純粋な「誰も傷つけない魔道具」という夢と、可愛いウサギの置物によって、彼女の心にも温かい変化が訪れました。


アイリスの可愛らしい一面と、その裏にある「平和への強い決意」が明らかになりました。彼女の「魔力増幅炉」は、元々は平和利用のための技術。それを破壊兵器にしようとする勢力から逃げているわけですね。


リリちゃんの心に生まれた【温かい感情(安堵)】というステータスは、今後の彼女の行動に大きな影響を与えるでしょう。彼女の目標は、単なる「亡命」から、「アイリスの夢を守り、エリオットを復権させる」という、より崇高なものへと変化していくはずです。


さて、次回は、穏やかな航海が続けばいいのですが、そうは問屋が卸さないでしょう。アトラスが回復する前に、次の危機が訪れるかもしれませんよ!


また次の後書きで!

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