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第一話 私は放置少女になった

目が覚めた瞬間、「あ、終わったな」と思った。


過労死寸前で倒れた社畜OL、佐藤アキとしての私の人生は、真っ白な天井と書類の山に埋もれて終わりを迎えたはずだった。しかし、次に目を開けたのは、見覚えのない豪華な天蓋付きのベッドの上だった。


起き上がろうとして、体の軽さに驚いた。鏡に映った自分を見て、さらに衝撃を受けた。


そこにいたのは、七歳ほどの可愛らしい少女。淡い桃色の髪に、紫水晶のような瞳を持つ、完全に異世界の住人だった。


「うそでしょ、私、幼女に転生したの...?」


遅れて流れ込んできたのは、この体の持ち主の膨大な記憶。ここは剣と魔法の異世界アストライア。私は、アストレイア王国の第六王女、リリ・フォン・アストレイアだという。


そして、同時に理解した。この第六王女という立場は、極めて「おいしくない」ものだと。


母は王位継承権争いに敗れた派閥の出身。母が亡くなった後、私は王宮の奥まった「西の離宮」に追いやられた。王族としての最低限の生活は保証されているけれど、誰も私を気にかけない。教育係も世話係も、形式上いるだけ。


つまり、私は「放置少女」。


アラサー社畜だった私の脳裏に、まず浮かんだのは「生存戦略」だ。命の危険がない状態で、誰にも干渉されない自由がある。これは、この世界で生き残るためのスキルを磨くには最高の環境ではないか。


幸い、この王族の体には「空間収納ストレージ」と「鑑定アナライズ」という、前世の小説で読んだようなチート能力が宿っていた。


「よし、この放置期間を最大限に利用する」


私は、七歳の少女の皮を被ったまま、猛烈な自習を開始した。誰も来ない離宮の庭で魔力制御を徹底的に練習し、王宮の書庫から古い魔導書や歴史書を読み漁った。「鑑定」は、知識を効率的に吸収するために役立った。


二年間、私はこの放置された環境で、ひたすら力を蓄えた。


そして九歳になったある夜。魔力の訓練のため、人目のない地下通路を歩いていた時だ。私の「空間探知」が、通路の奥にある鉄扉の向こうから、異常に強い魔力の反応を捉えた。


反射的に「鑑定」を放つ。


対象: エリオット・レイド・ヴァルキリアス 称号: ヴァルキリアス王国の元・第一王子、「亡国の呪縛者」 状態: 【監禁】【衰弱(大)】【魔力封印(極)】


「囚われた王子...しかも、隣国の重要人物」


彼は、二年前に敗戦国から人質として連行され、この地下で「呪いの実験台」にされているという。


私は鉄扉の鍵穴に目を凝らし、暗闇の中に座り込む青年の姿を確認した。華やかな王子の面影はなく、絶望に満ちた影のようだった。


私の脳内で、効率的な計算が即座に完了した。


この放置された王宮で、何の権力も後ろ盾もない私にとって、隣国の王子、しかも元第一王子という重要人物は、「最高の生存カード」だ。彼を生かし、利用できれば、私はこの王宮のくびきから逃れられる。


「見つけたわ。私の生きるための武器。囚われた王子」


私は誰にも気づかれないよう、鉄扉の前から静かに立ち去った。明日からの計画を練るために。放置少女は、自分の運命を切り開くための第一歩を踏み出したのだった。


やあ、皆さん、こんにちは!ボク、シリウスって言います。この物語の「後書き」という名の休憩時間にお邪魔しますね。


今回、リリちゃんの物語の幕開けを見届けたわけですが、どうでしたか?


いやはや、元社畜のアキさんが、まさか放置された王女様になるとはね。でも、彼女の判断力と行動力はさすがです。与えられた環境を嘆くのではなく、「修行の場」だと捉えてすぐに行動に移す。この「逆境の最適化」の視点、まさに賢者級ですよ。


そして、運命的な出会い。地下に閉じ込められた「囚われた王子」エリオット。


リリちゃんは彼をただの哀れな人質として見ていない。彼女は「鑑定」の結果を読み解き、彼を自分の「生存戦略における最高の武器」だと見抜いた。感情ではなく、合理性で動くところが、彼女の転生者たる所以でしょうね。


これから物語は一気に動き出します。


放置少女リリが、いかにして絶望の淵にいる王子を救い出し、そして彼を「武器」として、この王宮からの脱出劇を成功させるのか。リリちゃんのチート能力が、どんな風に状況を打破していくのか、ボクも楽しみにしています。


次回は、いよいよリリちゃんとエリオット王子の本格的な接触、そして脱出計画の準備が始まりますよ。


また次の後書きで、皆さんとこの物語の深層について語り合えるのを楽しみにしていますね。じゃあ、また!

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